Heat haze -影炎-

石の森は近所です

第21話、切り札

 雪達が自分のヒートヘイズを消し、目立たないように学園の近くまで来た時に――丁度、上空にいた竜達が正面玄関に向けてブレスを一斉に掃射した所だった。


「「なっ」」


 雪と水楢は、驚き一言声を発しただけで、呆然と立ち竦んでしまう。
 現場は黒く焼け焦げており、学園の耐熱性鋼材も熱を持ち真っ赤に染まっていた。
 直撃を受けた場所に配置されていた生徒の姿は――見えない。
 幸いにも範囲から離れた場所にいた生徒が、足を引きずりながら校舎内へと戻って行くのが分った。
 良く見れば、小数ではあるが生存している生徒もまだ辛うじて残っているようだ。


 雪と水楢は、その光景にただ呆然と立ち竦んでいるだけであった。


 Tシャツを珠恵に引っ張られ、漸く気を取り戻す。
 寮へ戻って武器を取って来なければと思ったが、竜達の次の動きを見て諦めた。
 竜達は、何故か寮がある方向にある演習場の方角へ進路を取り、羽ばたいて行った。
 そこに地上を暴れまわっていたヒートヘイズ達も集まりだしたのだ。
 しばらく植え込みに隠れ様子を見ていると、竜達も演習場に集まり、それから間もなく――竜達が降りた場所に向かって歩いてくる集団を見つけた。


「なぁ、水楢、あれ何だと思う」


 砂煙が舞う中、竜達に近寄る人影を認め、雪が怪訝そうな面持ちで尋ねた。


「しっ、声が大きいわよ。ヒートヘイズに近づいていっているんだから、敵のパンに決っているじゃない」
「あれ」


 珠恵が指摘した方をみると、白衣を着た集団と、軍服を着た集団も歩いてきていた。顔を良く見ると――。


「外人」
「どうやら、相手は白人の様ね」
「でも、何で白人が……沖縄を奪ったのは同じ東洋系だろ。白人って事は――北の奴等か」
「まだ何とも言えないわね」




 そうして、雪と水楢が小声で会話していると、島のスピーカーから機械の声で≪この島は間もなく自爆シークエンスに入ります。島民は速やかに退去してください。繰り返します――≫




「おい、自爆って何だよ」
「あたしに聞かれても知らないわよ」
「学校、爆破」
「珠恵ちゃん、それ真面目に言っているの」
「うん」
「学校には、まだ皆いるんじゃ……こうしてはいられないわ。予定を変更して学校へ向いましょう。今なら、上空監視の竜もあそこだしね」


 そう言って、水楢が演習場を見つめた。


 水楢の提案で、学園へ向う事に決った。
 ここから学園までは、植え込みが邪魔をして遠めに見える演習場からは死角になる筈である。
 水楢を先頭に、中腰になり一気に駆け抜けた。正面入り口の前だけはブレスの影響で、一切遮蔽物は残っていなかったが、そこまでくれば今度は校舎が邪魔をして演習場からは見られない。


 雪達が学園の中に入ると、もぬけの殻で――生徒も、教官もいなかった。
 廊下をどんどん奥まで走る。3階まであがると、階段の踊り場に倒れている人を発見した。


「お姉ちゃん」


 頭から、血を流して倒れている燈の姿を認め、水楢が悲痛な声を上げる。
 燈の体の上には、足が普段と逆の方向に曲がって倒れている栗林大尉の姿もあった。


「おねぇ」


 自分の姉に駆け寄る妹2人。


 すると、カツカツと廊下の奥から人の足音が聞こえ、用心しながら壁を盾にし顔を覗かせると、学園長が早足で歩いてこちらに向ってきていた。


「学園長」


 雪が声を掛けると、学園長は驚いた表情を隠しもせずに、


「なっ、何でお前達が学園に残っているのだ。放送が聞こえなかったのか」
「地下に避難する放送なら聞こえました。それより何が起きているんです」


 学園長に怒鳴られ、一瞬ビクッと肩を竦めた雪だったが、今は状況を確認しなければと思い学園長に問いかけた。


「私にもわからん。情報では、海岸線からワイバーンと竜の編隊が来襲してきて、他にも、地上を正体不明のヒートヘイズが暴れまわっている事くらいしか――連絡は入ってきてはいない。それより、早く学園の地下から脱出ポッドを使って逃げろ。間もなく、この施設は爆破する予定だ。私は、最後のキーを回さねばならないから一緒には行けないが……」


 焦った声でそう雪達に告げる、学園長の表情は暗く、顔色は悪い。


「それは無理ですね。今、この2人を発見したばかりです。直ぐに動かせる状態じゃありません」


 雪は後ろを振り返り、倒れている2人が学園長に見えるようにした。


「何で、こんな所にこの2人が……」
「さぁ、分りませんが」


 雪は、踊り場から見える屋上に視線を飛ばし、ブレスの余波で飛ばされたとしか思えません。そう語った。屋上との間の扉は熱の影響でひしゃげていた。


「この2人を、ここに残していく訳には行かないですよね。僕達で学園を守りますよ」
「だが、相手がどれだけの戦力か分らんのだぞ」
「ここに来る途中で、演習場に集まっている、白人の集団を見ました。ヒートヘイズも一緒です。そこを叩けば――きっと勝てます」
「何――今、何ていった」


 学園長は、雪の言葉を聞いていなかった訳では無い。
 ただ、信じられなかったのだ。雪が語った犯人の人種が。


「ですから犯人は、白人の集団でした。軍服の他にも、白衣を着た連中もいましたよ」
「何てことだ……白衣を着た連中の目的は、ここの研究施設だろう。尚更、奴等に明け渡す訳にはいかん。雪達なら勝てるのか、あれに――」
「分りませんが、僕は学園長も知っての通り体力も無いですから。でも、僕にはファウヌスが付いています」


 学園長は、目を見開き、ふっと息を吐き出すと、


「そうだったな。お前にはあの神が付いているのだったな。もう私には自爆しか手は無い。久流彌、頼めるか」


「やるしかないでしょ」


「普通なら、頼もしい限りだと言いたい所だが、それが久流彌ではな……」
「酷いですね。それ」
「水楢と珠恵ちゃんはどうする」
「やる」
「学園長、お姉ちゃんを頼みます」


「あ、あぁ。分った。3人とも――必ず生きて戻って来い」


 学園長に見送られ、僕達3人は、学園から外に出て演習場が見える位置まで戻ってきた。





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