子猫ちゃんの異世界珍道中
第226話、三カ国会談。
冬の月25日。
アンドレア王国の新女王が誕生して丁度1年目にあたる今日。
アンドレア城下の迎賓館ではアンドレア王国、エルストリア王国(旧エルストラン皇国)、ガンバラ王国の三カ国によるサミットが開催されていました。
議題は急劇に領土を拡大、縮小した事で変わった国境の警備について。
領土を拡大すればそれだけ守備する面積は増えるのが必然。
アンドレア王国とガンバラ王国は国境に隣接するエルストリア王国と協議しお互いに国境から漏れ出した魔獣の討伐を行えないかを三カ国で話し合い対策を行おうというもの。
以前はガンバラ王国であればスレイブストーン渓谷が国境となっていたが、現在渓谷はすっぽりガンバラ側に収まりその先の森までが領土となっています。
またアンドレア王国はエルストラン皇国の最北端までを取得した事で北の山脈を挟み込んでエルストリア王国と対峙する形になりました。
早急に領土を決めたことから起きる不具合が1年経過し見えてきたということ。
三カ国の国主が座る三つの席はアンドレア王国の特産となった金をふんだんにあしらった骨組みで、皮にはアルフヘイムの里から輸入した巨大水蛇の素材を使い、座席のクッションには北に生息するスノーベアーの毛を盛り込んだ贅沢な作りになっています。
その席に現在腰を下ろしているのはフローゼ女王、エリッサ国主代行、トベルスキー国王の三者。
昼過ぎから始まった会談は終始和やかに進み、三カ国共に不利益が生じない形で話がまとまり現在はティータイム。
テーブルの上には銀製のテーカップが置かれ、フローゼ女王とエリッサ国主代行が優雅な所作で嗜んでいると、
「それにしてもまたお会いできて嬉しく思いますよ。最近は亡き父上の代わりに国政を執り行っていて忙しかったですから」
トベルスキー陛下が鼻の下を伸ばしながらフローゼ女王に話しかけます。
この場にいる者で国政を行っていない者はいないのに暢気なものです。
恐らくはこの中で一番忙しかったのはフローゼ女王。
女王はエルストラン皇国での件が解決すると、ガンバラ側から提供されたワイバーンでサースドレインに急遽とって返し、すぐさま騎士団長と共に国内の平定に努めました。
国王派に反旗を翻した貴族派を全員拘束すると全ての財産を没収し国外追放に、
奴隷に落とされていた国王派には元の財産の返還を行った後で――貴族制を完全廃止。
各地の城主を独立した地主とし、女王の配下から監視役を置くことで反乱分子のあぶりだしと横の繋がりを建つことに成功した。
当初は元貴族からの反発も予想されたが、人間一度奴隷に落とされた後の飴である。
渋々ながらも皆了承した。
賠償で得た鉱山と元々あった鉱山は全て国の管理下に置き、建国史上今が一番繁栄している時代といえる。
「ははっ、トベルスキー陛下は相変わらずのご様子だ。少し前に妹御がお生まれになったとか――実にめでたい」
フローゼ女王が若干疲労を残した面持ちでチクりと一言差し込む。
ガンバラ王国で亡くなったのは国王だけ。
アンドレア王国ではフローゼ女王以外の王族は皆処刑されたのである、フローゼ女王の嫉妬心も多少は混ざっていたのかもしれない。
「ええ。お陰様で――母上が「この子が男の子であったなら次代の国王に推したものを……」などと言っておりましたからな、産まれるまで冷や汗ものでした」
フローゼ女王が小声で「ちっ、おのこであれば――」と漏らしたのを隣でしっかり聞いていたエリッサ国主代行が軽く口の中の紅茶を吹き出したのはご愛敬。
「おやどうしたのですかな? エリッサ国主代行殿」
突然、咳き込んだ様子のエリッサ国主代行をみとめトベルスキー陛下が声を掛けますが、エリッサ国主代行は、知らぬがなんとかですわね。とでも言いたげな様子で、
「な、なんでもありませんわ。紅茶が温くなって一度に沢山飲んでしまったので咽せただけですわ」
以前のエリッサちゃんならば恥ずかしくて顔を赤らめ黙り込んでしまったのでしょうけれど、この1年は彼女を成長させました。
自分の父より年上の者達を相手に敗戦国の国主代行としての役割をうまく演じた事が彼女を成長させたのでしょうね。
「それならいいのですが……そういえばあの猫獣人の女の子はどうしています?」
王子としてはお互いの知人のその後――そんな話題作りの為に発した会話だったのでしょうけれど、王子の口からその話が漏れると2人の表情は一変。
2人とも目線を下げ表情は暗いものに変わります。
彼女達の表情を視界に止めたトベルスキー陛下が更に追い打ちする。
「おや? もうこの地には居ないのでしょうか……彼女の蘇生魔法にはうちの前の将軍がお世話になったのでお礼を言いたかったのですが」
トベルスキー陛下も悪気があったわけではありませんが、エリッサちゃんの瞳から一筋の滴がこぼれ落ちると、
「申し訳ございませんが、気分が優れませんのでこの後のお話はまた明日に――」
掠れ震わせた声音でなんとか言葉を成立させると席を立ち、滞在している部屋へ掛けていきました。
そしてフローゼ女王も――。
「トベルスキー陛下、今日の所はこれで、また明日の午後から始めよう」
短く要件だけを告げエリッサ国主代行を追うように部屋を退室していきます。
トベルスキー陛下はフローゼ女王の後ろ姿を見送り――。
「1年前より女王は綺麗になった、あんな憂い顔見れてラッキーだったな」
駄目王子は陛下になっても変わっていませんでした。
アンドレア王国の新女王が誕生して丁度1年目にあたる今日。
アンドレア城下の迎賓館ではアンドレア王国、エルストリア王国(旧エルストラン皇国)、ガンバラ王国の三カ国によるサミットが開催されていました。
議題は急劇に領土を拡大、縮小した事で変わった国境の警備について。
領土を拡大すればそれだけ守備する面積は増えるのが必然。
アンドレア王国とガンバラ王国は国境に隣接するエルストリア王国と協議しお互いに国境から漏れ出した魔獣の討伐を行えないかを三カ国で話し合い対策を行おうというもの。
以前はガンバラ王国であればスレイブストーン渓谷が国境となっていたが、現在渓谷はすっぽりガンバラ側に収まりその先の森までが領土となっています。
またアンドレア王国はエルストラン皇国の最北端までを取得した事で北の山脈を挟み込んでエルストリア王国と対峙する形になりました。
早急に領土を決めたことから起きる不具合が1年経過し見えてきたということ。
三カ国の国主が座る三つの席はアンドレア王国の特産となった金をふんだんにあしらった骨組みで、皮にはアルフヘイムの里から輸入した巨大水蛇の素材を使い、座席のクッションには北に生息するスノーベアーの毛を盛り込んだ贅沢な作りになっています。
その席に現在腰を下ろしているのはフローゼ女王、エリッサ国主代行、トベルスキー国王の三者。
昼過ぎから始まった会談は終始和やかに進み、三カ国共に不利益が生じない形で話がまとまり現在はティータイム。
テーブルの上には銀製のテーカップが置かれ、フローゼ女王とエリッサ国主代行が優雅な所作で嗜んでいると、
「それにしてもまたお会いできて嬉しく思いますよ。最近は亡き父上の代わりに国政を執り行っていて忙しかったですから」
トベルスキー陛下が鼻の下を伸ばしながらフローゼ女王に話しかけます。
この場にいる者で国政を行っていない者はいないのに暢気なものです。
恐らくはこの中で一番忙しかったのはフローゼ女王。
女王はエルストラン皇国での件が解決すると、ガンバラ側から提供されたワイバーンでサースドレインに急遽とって返し、すぐさま騎士団長と共に国内の平定に努めました。
国王派に反旗を翻した貴族派を全員拘束すると全ての財産を没収し国外追放に、
奴隷に落とされていた国王派には元の財産の返還を行った後で――貴族制を完全廃止。
各地の城主を独立した地主とし、女王の配下から監視役を置くことで反乱分子のあぶりだしと横の繋がりを建つことに成功した。
当初は元貴族からの反発も予想されたが、人間一度奴隷に落とされた後の飴である。
渋々ながらも皆了承した。
賠償で得た鉱山と元々あった鉱山は全て国の管理下に置き、建国史上今が一番繁栄している時代といえる。
「ははっ、トベルスキー陛下は相変わらずのご様子だ。少し前に妹御がお生まれになったとか――実にめでたい」
フローゼ女王が若干疲労を残した面持ちでチクりと一言差し込む。
ガンバラ王国で亡くなったのは国王だけ。
アンドレア王国ではフローゼ女王以外の王族は皆処刑されたのである、フローゼ女王の嫉妬心も多少は混ざっていたのかもしれない。
「ええ。お陰様で――母上が「この子が男の子であったなら次代の国王に推したものを……」などと言っておりましたからな、産まれるまで冷や汗ものでした」
フローゼ女王が小声で「ちっ、おのこであれば――」と漏らしたのを隣でしっかり聞いていたエリッサ国主代行が軽く口の中の紅茶を吹き出したのはご愛敬。
「おやどうしたのですかな? エリッサ国主代行殿」
突然、咳き込んだ様子のエリッサ国主代行をみとめトベルスキー陛下が声を掛けますが、エリッサ国主代行は、知らぬがなんとかですわね。とでも言いたげな様子で、
「な、なんでもありませんわ。紅茶が温くなって一度に沢山飲んでしまったので咽せただけですわ」
以前のエリッサちゃんならば恥ずかしくて顔を赤らめ黙り込んでしまったのでしょうけれど、この1年は彼女を成長させました。
自分の父より年上の者達を相手に敗戦国の国主代行としての役割をうまく演じた事が彼女を成長させたのでしょうね。
「それならいいのですが……そういえばあの猫獣人の女の子はどうしています?」
王子としてはお互いの知人のその後――そんな話題作りの為に発した会話だったのでしょうけれど、王子の口からその話が漏れると2人の表情は一変。
2人とも目線を下げ表情は暗いものに変わります。
彼女達の表情を視界に止めたトベルスキー陛下が更に追い打ちする。
「おや? もうこの地には居ないのでしょうか……彼女の蘇生魔法にはうちの前の将軍がお世話になったのでお礼を言いたかったのですが」
トベルスキー陛下も悪気があったわけではありませんが、エリッサちゃんの瞳から一筋の滴がこぼれ落ちると、
「申し訳ございませんが、気分が優れませんのでこの後のお話はまた明日に――」
掠れ震わせた声音でなんとか言葉を成立させると席を立ち、滞在している部屋へ掛けていきました。
そしてフローゼ女王も――。
「トベルスキー陛下、今日の所はこれで、また明日の午後から始めよう」
短く要件だけを告げエリッサ国主代行を追うように部屋を退室していきます。
トベルスキー陛下はフローゼ女王の後ろ姿を見送り――。
「1年前より女王は綺麗になった、あんな憂い顔見れてラッキーだったな」
駄目王子は陛下になっても変わっていませんでした。
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