子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第213話、最後の砦

「子猫ちゃん、ちゃんと相手を見ないとダメにゃ」

 えっ、一体ミカちゃんは何を言っているんでしょう。
 僕は洗脳されている2人を気絶させただけなのに――。
 すると……。

「騎士団長は相変わらずの様だな」

 背後からフローゼ姫の声が聞こえてきました。
 洗脳されているのに相変わらずとは妙な言い回しですね。
 尚も僕が首を傾げていると、

「ミランダのお姉さんが倒れる前に言っていたにゃ。仲間なのに――って」
「えっ、だってそれは洗脳されているから僕達を騙す為の作戦じゃ? それに騎士団長も僕に剣を振りかぶってやる気満々でしたよ?」
「あはは、子猫ちゃんと久しぶりに合いまみえたのだ。一戦腕試しをしようとしてもこの男ならば何ら変では無かろう?」
「それじゃ――」
「少なくともこの2名に関しては洗脳には掛かってはいなかったな」

 その発言を聞き留め僕のモチベーションも一気に下がります。
 僕が戦ったのは洗脳が効いてバーサーカー化した騎士団長では無く、自力だったと知らされたのですから当然です。
 それだと3発目の足首を狙った爪は自力で避けられたという事になります。

「じゃミランダさんは――」
「最初から攻撃の意思も無かったにゃ。だから私が気づいて止めたにゃ」
「でも他の騎士達は洗脳された時の民と同じですよ?」

 僕は未だに穴へ突入を試みている騎士達を見渡し言います。

「あれらは洗脳が解けては居ないようだな。だが少なくともこの2名は解けていたぞ」
「そんな――」
「この騎士団長さんらしい挨拶にゃ」

 皆もミカちゃんの言葉に頷きます。
 様子を窺っていた子爵様もやってきて、

「子猫殿が強くなっているとミランダさんから聞いてハイネ殿は、再戦が待ち遠しいといつも言っていましたね」

 追い打ちともとれる一言を放ちます。
 全く何でこんな面倒な性格をしているんですかね!
 そういえば初めて子爵城で会った時もさっきみたいに戦いたがっていましたね。
 僕はバツの悪さを誤魔化す様に、地に倒れ伏している2名を見下ろします。
 洗脳が解けていたにしても、解けていなかったとしても、今気絶させましたからこれで次に起こせばそれも解けている筈です。
 雪はまだ降り続けていて2人の体にも積もって来ています。
 なんだか納得は行きませんが、このまま放置も出来ませんね。
 子爵様がハイネ騎士団長を支えながら天幕へ連れていき、ミランダさんはフローゼ姫がミカちゃんと協力して運びます。
 2名を穴から連れ出した頃には全ての騎士達が穴の中に入っており、エリッサちゃんはすぐにスリープミストを放ちます。
 次々と倒れ伏す騎士達を穴の上から見下ろし、霧が収まった所で王子が指示すると一斉に兵達が穴へと降りていきます。
 これで洗脳をかけられた騎士も意思を取り戻しますね。
 兵達が行動をしている様子を僕は穴の上から見下ろし、怪我人にはミカちゃんがハイヒールを掛けて回っています。
 一通り怪我人を回復させると僕とミカちゃんもハイネ騎士団長とミランダさんが運び込まれた天幕に向かいます。
 天幕の入り口をミカちゃんがめくりあげ、中に入るとミランダさんはまだ眠ったままでしたが、ハイネ騎士団長は既に起きており、神妙な面持ちでフローゼ姫から手渡されたスープをすすっていました。
 僕達がそっと近づくと、フローゼ姫と騎士団長の手前に座っていたサースドレイン子爵が、

「私もこの陣に招かれた時にその話を聞いたのです。ガンバラ王、アンドレア王、皇国が引き入れた魔族によって賢王と呼ばれた王が2人も亡くなりました。国は未だ貴族派によって統治されていて残された王族はフローゼ姫ただお一人。私の領地も何とか子猫殿達によって取り戻せはしましたが――このまま貴族派が黙っているとも思えません」

 ハイネ騎士団長は子爵様の語る話を聞きただ無言で頷いています。
 その面持ちには自分の無力さを後悔するような、歯がゆく思っているような複雑な心境が見て取れます。

「妾はアンドレア王国を取り戻そうと考えておる。そして父が、陛下が成し遂げようとした人に優しい国造りを受け継ごうと思う。だがそれを成すにしても目の上の瘤である皇国をどうにかしなければならない」

 ハイネ騎士団長の瞳がフローゼ姫の言葉でギラりと光ります。
 そして――。

「ではフローゼ姫は皇国へ?」
「ああ、最初はアンドレア王国の貴族派を処罰しようと考えていたのだがな、ガンバラ王が皇国へ出兵しその中に貴殿も含まれているときき急ぎここまでやって来たが、貴殿も見ただろう? 魔族によって洗脳された者たちの姿を――あれとはまた違うがアンドレア王国の民にも何らかの洗脳が掛けられている可能性がある以上は、最初に皇国を攻める事を優先した方がいいと判断した」

 フローゼ姫もここへきて皇国の200万にも及ぶ洗脳をされた民と、ガンバラ王国の騎士達を見ています。自国の民にも同じ様な洗脳が施されていると考えると皇国を黙って見逃す愚は犯したくないと判断したようです。
 それを聞いたハイネ騎士団長は――。

「それでは私も一緒に――」
「貴殿がこれから作る新しいアンドレア国造りに参加してくれるというのなら、このままサースドレイン子爵と共に子爵城へ向かってくれ。あそこが最後の砦なのだ。万一貴族派に落とされる事があればすべてが終わる」

 ハイネ騎士団長は陛下の敵討ちに参加しようと申し出ますが、それをフローゼ姫によって断られます。最初からハイネ騎士団長とフローゼ姫の話を聞いていた子爵様に聞けば魔族から洗脳を受けていた所をミランダさんによって救われたのだとか……。
 最初に洗脳を掛けられたのはミランダさんの方らしいのですが、掛けられたタイミングでミランダさんを庇おうとした騎士団長に突き飛ばされて意識を失った事で洗脳の効果が解けたのだろうと言っていた様です。
 その後ミランダさんがどうやって騎士団長の洗脳を解いたのかは気になる所ですが、そんな手を使ってくる魔族との闘いに参戦させるのなら僕達にとっては本陣にあたる子爵城を守ってもらいたいと考えたようですね。
 貴族派の兵士程度であればハイネ騎士団長でも余裕でしょうから僕もその考えには賛成です。
 さて、これで思い残す事無く皇国の首都に攻め込めますね。

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