子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第206話可能なのか?

 ミカちゃんは王子が野営している場所に赴くと理由すらすっ飛ばして、

「ワイバーンを1匹貸して欲しいにゃ」

 ただそれだけ伝えます。
 先程話し合いで騎士団長達が来るまでこの場から部隊は動かせないと決めたばかりで、その舌の根も乾かぬ内にこれですから訝し気な視線を浴びせられるのも仕方がありませんが、河童にそんな権利はありませんからね!
 元々、ここのワイバーンは全て僕達が洗脳を解いたお蔭と、魔族から助けたから生存しているんですから。
 魔族がここまで連れて来た100匹のワイバーンも既に洗脳を解かれ、現在は王子の管理下に収まっています。
 騎士団長達が来るまでここを動く事が出来ない僕たちとは違って、200万人の洗脳を解かれた皇国民は希望する場所。とは言っても僕の重力制御魔法の効果範囲になるのでワイバーンで半日の距離ですが……そこへ送り届けたりもしてあげていました。
 何故そんな慈善事業の様な真似をこの戦時中に行っているのか?
 理由は200万人を食わせていけるだけの食料があっという間に底を付いたからです。
 近くの街から運び込んでも人数が多すぎて直ぐに物資の補給に走り回る羽目になった事で、それならば希望する者を解放しようという話になりました。
 中にはガンバラ王国へ亡命を希望する人もいましたので、亡命者には優先してワイバーンで送り届けていました。
 ほとんどの人たちは徒歩で来た道をそれぞれの住まいがある方面へ散っていきますが、家族や友人が皇国に住んでいればそれを止める権利は僕達にもありません。
 また洗脳されて戦に駆り出される事が無い事を祈るばかりです。
 話はそれましたが――。
 王子達が滞在している天幕には大勢の亡命希望者の列が出来ていますが、それを無視し中へ入ったミカちゃんの突然の言葉を受け王子はまた何か問題かといった考えを表情に出しますが、今の僕達はそれどころではありませんからね。

「この列を見ればわかるだろう?」

 王子は亡命者が織り成す列を指さして察しろ、せめて理由を説明しろと言葉には出さずとも視線が語っています。

「魔族から聞いた襲撃地点にある遺体が無事なら――国王も助けられるかも知れないにゃ」
「はぁ? 突然やって来たかと思えば何を――死んだ者が生き返るものか!」

 一度死んだ者が生き返るかも知れないと言われ王子が困惑を含んだ面持ちで言葉を吐き出します。

「私もやってみない事にはわからないにゃ。遺体が無事ならなんとか成るとだけしか言えないにゃ」

 ミカちゃんの出来るかどうかわからないと言いながらも、明るい表情を見た王子は僕とミカちゃんを交互に見渡し、

「流石に僕はここを離れるわけにはいかぬ。こちらの条件はキリングを立ち合いとして同行させる事。それが出来るのなら――なんとか1匹用立てよう」
「話は決まりにゃ。馬車は私達が乗ってきた馬車で頼むにゃ」
「分かった」

 それからはあっという間に支度も終わり、僕とミカちゃん、キリング騎士団長を乗せた馬車はワイバーンと共に空の上にありました。
 僕があの場を離れる事で、洗脳を解かれた人たちの輸送もストップする事になり、王子からはあの後で恨み言も吐かれましたが、僕達を見送る時には、父を頼む。と一言だけ真剣な面持ちでお願いされました。

「魔族に聞いた方向はこっちで合っていると思うにゃ」
「はい、ミカ殿の言う通り、この森を突っ切れば引き返すよりも早く現場に到着する事が出来るかと――それで、王子の前で話された事は誠でしょうか?」

 用心深い性格なのかキリング氏が尋ねます。
 ミカちゃんも先日魔石を食べた時に覚えたばかりで、まだ試したことすら無いですからね。

「やってみないとわからないにゃ。ダメでも遺体の回収は早い方がいいにゃ?」
「河童といい、キリングさんもミカちゃんを舐めすぎですよ! ミカちゃんは僕達の中では女神様なんですから」
「にゃにゃ――」
「いや、私は疑っている訳では――」

 ミカちゃんが短く咽ると、キリングさんは慌てて言葉を吐き出します。
 これまでにミカちゃんが見せてきた回復魔法が進化したと考えれば、本当に蘇生魔法が成功するのではといった望みも持てます。
 実際に僕だけが見える彼女のステータスには、蘇生魔法と表示されていますからね。
 でも危惧する事が無いわけではありません。
 魔法がイメージで変化するように、事象が大きくなればそれに使われる魔素も膨大になります。僕くらいになれば心配も無用かも知れませんが、ミカちゃんの最大魔素は僕の半分以下です。一度の蘇生でどれだけ魔素が減るのか、それによってはミカちゃんの健康を害する可能性だってあります。
 サースドレイン子爵を救うのが第一目標としても、ミカちゃんの体に危険が及ぶようなら途中でも止めさせないといけませんね。
 エリッサちゃんの友人としてミカちゃんならば、それこそ自信の限界まで魔素を使い切る位無理をしそうですが……。
 そんな僕の心配事など無用とでもいう様に明るく振舞うミカちゃんと僕達は、途中でワイバーンに短い休息を取らせただけで夜通し飛び続け、翌日には魔族が証言した通りの山間に到着したのでした。

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