子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第195話、脅威は流れる様に。

 翌朝、日の出と同時に僕達を乗せたワイバーンは空に舞い上がります。
 さすがに冬に入って1月も経つと、朝吐く息も白く寒さが身に染みますね。
 昨晩はガンバラ王国側の陣営と僕達とで魔族に対しての対策を話し合いましたが、結局僕の提案した魔族の瞳を直接見ないという主張が通りました。
 他の皆がそれ以上思い当たる事が無かったからですが……。
 遠目に薄っすらと小さく見える街を通り抜け、既に30分が経過しています。
 最初の街には魔族が待機していたのに、2番目の街にはいないとなると王子が話してくれた特異性による人口が少ないという話が現実味を帯びてきます。
 かといって楽観視するのは危険ですが。
 前回は街を通り過ぎてすぐの段階で攻撃が仕掛けられた事を考えれば、本当に魔族の数は多くはないのかも知れませんね。
 何も無ければ首都まで後1時間半で着きます。
 相変わらず僕達を運んでいるワイバーン達は森林の中を飛んでいますが、森は野鳥が飛び交いワイバーンが通る時だけ木々に身を隠しています。

「この様子なら首都まであっという間に着くな」
 
 フローゼ姫が剣の手入れをしながらそんな事を言いますが、それフラグじゃないですよね? 最初の街を通り過ぎて安堵していた所で突然襲われた事から皆も警戒していますが、そんな危惧などどこ吹く風とでも言う様に遠目に見える台地には長閑な畑が広がっています。

「何も無いならそれに越したことは無いにゃ」
「そうですわね。首都につけば嫌でも戦闘が始まる訳ですし――」

 何気ない会話の中にも緊張感を含んでいる女性陣を見つめながら、魔力の反応を探りますがやはり今回は何事も無く通過出来たようです。
 魔力が収束する気配は一つも感じられませんでした。
 となると次はいよいよ大陸最大最強のエルストラン皇国が首都レイスルーンでの決戦という事になりますね。
 ガンバラ王国の王都が今まで見た中では最大でしたが、いったいどんな所なんでしょうね。
 初めて赴く場所への期待と、不安が混ざり合いながらも時間は経過し、1時間後には前方に黒い川が流れているのを視認出来ました。
 黒い川?
 上空からだからそんな風に見えるんでしょうか?

「前方に大きな川が見えるにゃ」
「本当ですわね。それも東から北西に――」
「ん? そんな川が流れているとは聞いたことが無いぞ?」
「でも確かにあそこにあるにゃ」

 ミカちゃんが指差す方向を皆で眺めていると、王子を乗せた馬車が近づいてきました。
 まさか、またですか?
 僕達は王子を運んでいるワイバーンに視線を向けますが、特に口をあけて魔力を収束させている様子ではありません。
 王子の馬車が横付けに並ぶと、先ほどまで王子達の馬車と並行して飛んでいたワイバーンに跨る騎乗兵の隊長が笛の様なものを口に咥え、息を目いっぱい吸い込むと一気に吐き出しました。ブォォォォー、と何かの合図を全軍に送っていますが何でしょうかね。
 僕達がワイバーン部隊の動向を注視していると、王子が窓をあけ声をあげます。

「て、敵だ!」

 はぁ?
 どこに敵がいるんですかね……。

「敵なんて見えないけれど――どこにいるの?」

 僕が尋ねると、王子が黒い川を指さします。
 まだ全然遠くてどんな川かはわかりませんが、あれは川ですよね?

「あれは川じゃ?」

 僕が王子に言い返すと、

「確かに川に見えるけど――この辺りに川が走っているなんて話は無いんだ」

 そんな筈は――僕は意識を集中して黒い川をジッと見つめると、黒い川は同じリズムで移動する人の集団でした。道を覆う様に綺麗に整列し、同じ歩幅で、同じ手の振り方をしながらまっすぐ北西に向けて行進しています。

「皆、王子の言う通りです。あれは人です。でも何でこんな所を――しかも北西?」
「以前見た地図通りだとすればあの先は――僕の国だ!」

 王子の言葉を聞き皆の顔が一瞬で強張ります。
 遠目に見て川にしか見えなかった程の人の集団です。
 その集団の最後尾も最前列も僕達がいる上空からも見る事が出来ない程の――。

「いったいどれだけの兵を用意すればあのように見えるというのだ――」
「皇国軍は20万からなる兵がいるとは聞いていたけど、これはその10倍はいるよ」

 王子が凡その人数を告げます。
 20万の10倍というと200万ですね。
 どうりで最前列が見えない筈です。
 というかそれだけの人をガンバラ王国に集めて何をする気なんでしょう。
 次第に大きくなっていく人の行列はまっすぐ前だけを見て行進しており、全く上空で隊列を組んで飛行しているワイバーンの群れなど眼中に無いとでもいうありさまです。
 僕達が人を視認出来るという事は、当然あちら側からもこちらの姿は見えている筈なのにおかしいですね。

「何か嫌な予感しか浮かばぬのだが……」
「わたくしもですわ」
「私もにゃ」

 皆も僕と同じく違和感を抱いたのでしょうか……ワイバーンをも恐れないとは流石ですね。
 そう思っていると――。

「これは人種間戦争の焼き直しなのではないか?」
「そんな感じがしますわ」
「このままガンバラ王国に進軍させたら――国土がルフランの大地と同じになるにゃ」

 それ大変じゃないですか!
 何故今まで大人しくしていた皇国が今になってガンバラ側に大量の軍を送り込むのか理解に苦しみますが、魔族が人種間戦争と同じ事をガンバラ王国でしようというのなら阻止しなければいけません。
 あの行列がどこまで進んでいるのかは定かではありませんが、僕達は首都では無く行列の先頭を目指し方向を変える事になりました。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品