子猫ちゃんの異世界珍道中
第189話、最初の街レイバンへ
大空へ舞い上がったワイバーンに運ばれ僕達は昼過ぎには皇国の領土に入りました。下方を見渡せばそこには侵略国家とは思えない程、のどかな風景が広がっています。
「今回アンドレア国側の望みは奴隷にされた国王派の開放と国を返してもらうのが目的となる。勿論、こちら側が被った賠償もきっちり支払ってもらう予定ではあるが――」
「でもガンバラ王の目的は恐らく違いますわよね?」
「ああ。あの野心家な王の事だ――恐らく狙いは」
「皇国と考えることは同じにゃ」
女性陣の会話を聞いていると、本当に人とは争い事が好きな生き物だと思わざるを得ませんね。
結局の所、今回共闘するガンバラ王国にしてもエルストラン皇国にしろやっている事は同じで、他人の家を土足で踏み荒らす行為です。
唯一の救いは僕達が住むアンドレア国がそんな国家ではない事でしょうか。
そんな国家であったならミカちゃんも手を貸すような事はしなかったでしょうけれど。
女性陣がそんな会話をしていると、馬車は降下を始めます。
早くも食事休憩に入るようです。
僕が使用した重力魔法の効果はまだまだ切れませんが、不安を感じている人も皆無では無いために念には念をいれて上掛けの時間も早めた格好です。
それにしてもサースドレインから2時間程度でもう皇国に入っている事を考えると、これまで機会があればいつでも攻め込むことが可能だった事が窺えます。
エルストラン皇国の首都であるレイスルーンまでは今の調子で飛ぶと夕方には着きそうです。宵闇に乗じてなんとやらかと思えば――。
「まさかワイバーンで一気に飛ぶとこれ程近いとは思わなかったよ。このままでは夜目が利かない夜になってしまう。今夜はここで野営にしよう」
これは王子の弁ですが、それならサースドレインを昼前に出立する意味は無かったと思うんですがね……。
「うん? 休憩ではなく野営に入るのか? この一刻も無駄に出来ない現状で」
「そうにゃ。なんの為にサースドレインを昼前に出たのか分からなくなるにゃ」
「お父様よりも早くレイスルーンに到着しないといけませんわ」
皆に押されるような形で王子はキリング騎士団長とワイバーン部隊を率いてきた隊長格の者に相談に行きます。戻ってきた王子は疲れた表情で、
「君たちが言っている通り、闇に乗じて一気に上空から攻め込む事に決まったよ」
「王子様は何でそんなに疲れた顔しているにゃ?」
ミカちゃんそれは言わぬが花ってやつですよ。
どうせ王子の考えが全否定されてお説教でもされてきたに決まっているんです。
「あ、いやぁ。父の軍と歩調を合わせるために、ゆっくり進むべきだと言われたんだけどね、君たちの意見を尊重したことで……ちょっとね」
ん?
これは僕達の考えが間違っていたんでしょうか?
僕達が最初にレイスルーンに到着している事で、ガンバラ側からの進軍がしやすくなると思ったのですが、敵があの皇国という事で慎重になっている様です。
皇国は聞けば20万人の兵を擁する国です。
そんな兵を分散されれば、たかだか2万程度のガンバラ軍はひとたまりもありません。
一気に僕達の魔法で攻め込んで、敵がガンバラ側に行くのを阻止するほうがガンバラ側の本隊もやりやすいと思います。
城が攻め込まれている時にのんびり街道を守る人はいませんよね?
「無理をさせてしまってすまんな。トベルスキー王子」
「あ、いえ。お気になさらず――フローゼ姫」
あれ……なんでしょう。
何か以前よりこの2人の距離が縮まっている様な気がします。
男勝りなフローゼ姫に、何か心境の変化でもあったんですかね。
フローゼ姫に労いの言葉をかけられ顔を真っ赤に染め上げた王子を横目にみんなの顔を見れば、皆もフローゼ姫の変化に気づいたようで若干驚いた面持ちでそんな2人を見つめていました。
レイスルーンまでもっと時間が掛かることを想定していた僕達は、冷めている料理を温めなおし、焚火を囲み食べながらこれからの話をします。
「ここからレイスルーンまで後半日と聞いたが、途中の街はどうするのだ?」
普通に侵略目的であれば当然、首都までの道すがら拠点となりえる城を落としていくのが常套です。でも僕達の目的が侵略ではない事から一気に首都を目指していますが、一応念を入れてフローゼ姫が王子に尋ねます。
「それはサースドレインで最初に決めた通りに素通りする予定だよ。でも途中の街で対ワイバーンを想定した攻撃があればその限りでは無いかな。みすみす見逃して挟み撃ちをされたら大変だからね」
ガンバラ側の間者が逐一皇国の情報を知らせていましたが、魔法師の情報が漏れていなかった事から完全に信用できるものではありません。
途中の街に万一ワイバーンやそれに匹敵する戦力があれば叩く必要があります。
「だが間者の知らせでは、そのような存在の話は聞いていないのだろう?」
「それはそうですが、間者からの報告が100パーセント正確なものでない事は、本隊を攻撃した魔法師――魔族の例をみればわかるでしょう?」
「それはそうだが……皇国にはガンバラ王国の様なワイバーンの部隊は存在しないのであろう?」
「そう聞いていますが――その情報もうちのキリング騎士団長が怪しんでいますよ」
「なぜだ?」
「アンドレア国側にいた間者の報告は正確なものでしたが、エルストラン皇国にいる間者からの報告だけがおかしいというのは――」
「皇国に滞在している時点で、洗脳、それに近い影響を受けたのかにゃ?」
「はい。ミカ殿の言う通りです」
フローゼ姫と王子の会話にミカちゃんが割って入りましたが、エリッサちゃんはただジッとそんな皆の様子を窺っています。今回の作戦には子爵様も参戦していますから心配なのもわかりますよね。
それにしても魔族ですか――あのお婆さんの孫である渚さんが、躊躇いもなく人に向けて魔法を放てることに驚きましたが、洗脳によって操られていたとは。
あれ――でも僕とは普通に会話していました。
意識自体は自我を保っているという事でしょうかね?
そういえば、渚さんが僕との会話を辞めて魔法を放った時にアッキーが割り込んできました。あの子が魔族だとするとあれが引き金になったという事ですか……。
魔族、ろくなものじゃないですね!
「レイスルーンまでにある街は2つだったな。何事もなく通過できればいいが」
「馬車でなら3日はかかる距離ですからね。ほぼ1日でたどり着ける街が点在しているというのは、流石この大陸で最大の国家と素直に認めるしかありませんね」
この世界で交通の便が良く、宿場町ではなく街が点在しているのは皇国だけですからね。
アンドレア国のオードレイク伯爵の街から次のサースドレインの街まで3日も掛かることを考えれば、1日で行き来出来る街があるというのは脅威です。
他国の兵がどの街を攻めても、早馬を近隣の街に飛ばせばすぐに応援が来るのですから。
軽い食事を済ませ、最初の街であるレイバン上空に到着するのはそれから2時間弱の事。
冬でなければ麦畑が広がる広大な土地を抜け、街壁が見え始めた時になって僕達を迎えたのは――この世界で2度目となる脅威でした。
「今回アンドレア国側の望みは奴隷にされた国王派の開放と国を返してもらうのが目的となる。勿論、こちら側が被った賠償もきっちり支払ってもらう予定ではあるが――」
「でもガンバラ王の目的は恐らく違いますわよね?」
「ああ。あの野心家な王の事だ――恐らく狙いは」
「皇国と考えることは同じにゃ」
女性陣の会話を聞いていると、本当に人とは争い事が好きな生き物だと思わざるを得ませんね。
結局の所、今回共闘するガンバラ王国にしてもエルストラン皇国にしろやっている事は同じで、他人の家を土足で踏み荒らす行為です。
唯一の救いは僕達が住むアンドレア国がそんな国家ではない事でしょうか。
そんな国家であったならミカちゃんも手を貸すような事はしなかったでしょうけれど。
女性陣がそんな会話をしていると、馬車は降下を始めます。
早くも食事休憩に入るようです。
僕が使用した重力魔法の効果はまだまだ切れませんが、不安を感じている人も皆無では無いために念には念をいれて上掛けの時間も早めた格好です。
それにしてもサースドレインから2時間程度でもう皇国に入っている事を考えると、これまで機会があればいつでも攻め込むことが可能だった事が窺えます。
エルストラン皇国の首都であるレイスルーンまでは今の調子で飛ぶと夕方には着きそうです。宵闇に乗じてなんとやらかと思えば――。
「まさかワイバーンで一気に飛ぶとこれ程近いとは思わなかったよ。このままでは夜目が利かない夜になってしまう。今夜はここで野営にしよう」
これは王子の弁ですが、それならサースドレインを昼前に出立する意味は無かったと思うんですがね……。
「うん? 休憩ではなく野営に入るのか? この一刻も無駄に出来ない現状で」
「そうにゃ。なんの為にサースドレインを昼前に出たのか分からなくなるにゃ」
「お父様よりも早くレイスルーンに到着しないといけませんわ」
皆に押されるような形で王子はキリング騎士団長とワイバーン部隊を率いてきた隊長格の者に相談に行きます。戻ってきた王子は疲れた表情で、
「君たちが言っている通り、闇に乗じて一気に上空から攻め込む事に決まったよ」
「王子様は何でそんなに疲れた顔しているにゃ?」
ミカちゃんそれは言わぬが花ってやつですよ。
どうせ王子の考えが全否定されてお説教でもされてきたに決まっているんです。
「あ、いやぁ。父の軍と歩調を合わせるために、ゆっくり進むべきだと言われたんだけどね、君たちの意見を尊重したことで……ちょっとね」
ん?
これは僕達の考えが間違っていたんでしょうか?
僕達が最初にレイスルーンに到着している事で、ガンバラ側からの進軍がしやすくなると思ったのですが、敵があの皇国という事で慎重になっている様です。
皇国は聞けば20万人の兵を擁する国です。
そんな兵を分散されれば、たかだか2万程度のガンバラ軍はひとたまりもありません。
一気に僕達の魔法で攻め込んで、敵がガンバラ側に行くのを阻止するほうがガンバラ側の本隊もやりやすいと思います。
城が攻め込まれている時にのんびり街道を守る人はいませんよね?
「無理をさせてしまってすまんな。トベルスキー王子」
「あ、いえ。お気になさらず――フローゼ姫」
あれ……なんでしょう。
何か以前よりこの2人の距離が縮まっている様な気がします。
男勝りなフローゼ姫に、何か心境の変化でもあったんですかね。
フローゼ姫に労いの言葉をかけられ顔を真っ赤に染め上げた王子を横目にみんなの顔を見れば、皆もフローゼ姫の変化に気づいたようで若干驚いた面持ちでそんな2人を見つめていました。
レイスルーンまでもっと時間が掛かることを想定していた僕達は、冷めている料理を温めなおし、焚火を囲み食べながらこれからの話をします。
「ここからレイスルーンまで後半日と聞いたが、途中の街はどうするのだ?」
普通に侵略目的であれば当然、首都までの道すがら拠点となりえる城を落としていくのが常套です。でも僕達の目的が侵略ではない事から一気に首都を目指していますが、一応念を入れてフローゼ姫が王子に尋ねます。
「それはサースドレインで最初に決めた通りに素通りする予定だよ。でも途中の街で対ワイバーンを想定した攻撃があればその限りでは無いかな。みすみす見逃して挟み撃ちをされたら大変だからね」
ガンバラ側の間者が逐一皇国の情報を知らせていましたが、魔法師の情報が漏れていなかった事から完全に信用できるものではありません。
途中の街に万一ワイバーンやそれに匹敵する戦力があれば叩く必要があります。
「だが間者の知らせでは、そのような存在の話は聞いていないのだろう?」
「それはそうですが、間者からの報告が100パーセント正確なものでない事は、本隊を攻撃した魔法師――魔族の例をみればわかるでしょう?」
「それはそうだが……皇国にはガンバラ王国の様なワイバーンの部隊は存在しないのであろう?」
「そう聞いていますが――その情報もうちのキリング騎士団長が怪しんでいますよ」
「なぜだ?」
「アンドレア国側にいた間者の報告は正確なものでしたが、エルストラン皇国にいる間者からの報告だけがおかしいというのは――」
「皇国に滞在している時点で、洗脳、それに近い影響を受けたのかにゃ?」
「はい。ミカ殿の言う通りです」
フローゼ姫と王子の会話にミカちゃんが割って入りましたが、エリッサちゃんはただジッとそんな皆の様子を窺っています。今回の作戦には子爵様も参戦していますから心配なのもわかりますよね。
それにしても魔族ですか――あのお婆さんの孫である渚さんが、躊躇いもなく人に向けて魔法を放てることに驚きましたが、洗脳によって操られていたとは。
あれ――でも僕とは普通に会話していました。
意識自体は自我を保っているという事でしょうかね?
そういえば、渚さんが僕との会話を辞めて魔法を放った時にアッキーが割り込んできました。あの子が魔族だとするとあれが引き金になったという事ですか……。
魔族、ろくなものじゃないですね!
「レイスルーンまでにある街は2つだったな。何事もなく通過できればいいが」
「馬車でなら3日はかかる距離ですからね。ほぼ1日でたどり着ける街が点在しているというのは、流石この大陸で最大の国家と素直に認めるしかありませんね」
この世界で交通の便が良く、宿場町ではなく街が点在しているのは皇国だけですからね。
アンドレア国のオードレイク伯爵の街から次のサースドレインの街まで3日も掛かることを考えれば、1日で行き来出来る街があるというのは脅威です。
他国の兵がどの街を攻めても、早馬を近隣の街に飛ばせばすぐに応援が来るのですから。
軽い食事を済ませ、最初の街であるレイバン上空に到着するのはそれから2時間弱の事。
冬でなければ麦畑が広がる広大な土地を抜け、街壁が見え始めた時になって僕達を迎えたのは――この世界で2度目となる脅威でした。
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