子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第162話、人質救出

 塔の上では人質にされた3人が突然の出来事に絶句していました。
 子爵様と騎士団長の行方をこの塔の中で尋問されていたかと思えば、急に周囲が慌ただしくなり意味も分からず兵に引っ立てられ、塔の天辺に連れて来られた所で次の瞬間には兵の首が飛んだのです。
 意味が分からないのも当然ですね。
 しかも自分の体が青い光に包まれたと思った刹那、背後にいた兵に切りつけられ、死を覚悟すれば剣は自らの体には届かず弾かれてしまった。
 3人は夢幻でも見ているかの様に大きく瞳を開け、剣を振り下ろしたばかりの兵を見つめていました。兵は何度も剣で切りつけますが、それは頑丈な砦の壁を叩くように弾かれ数度繰り返した所で剣先が折れてしまいました。

「何が起きているんでしょうな」

 フルブスターさんが自らの体と兵を見比べそう言葉を漏らすと――。

「この結界には見覚えがあるぜ!」
「私もです。これは伯爵の兵と戦った時に子爵様が身に纏っていた光と同じもの」

 イゼラードさんとウォルターさんはオードレイク戦で市壁の上に登っていたので子猫ちゃんが掛けたこの結界を見た事がありました。

「こんなものが俺達に掛かったって事はだ――」
「まさか……戻って来た?」
「ご名答だ!」

 ドバァァァァン、ギルマスのイゼラードさんが声を発した瞬間――塔の天辺に付けられていた扉が中から吹き飛びました。
 扉の破片が扉と3人の間にいた兵に突き刺さります。
 3人の人質にもその破片は飛んできますが、結界に阻まれ落下しました。

「3人とも無事な様ですね!」

 突然、壊れた扉から侵入してきた小さな、本当に小さな猫を見て皆は――。

「「「――猫が喋った」」」

 声を揃えて呟きました。

 はいはい。もう慣れましたけどね……知り合いにまでそんな反応をされるとはね。
 見た感じは殴られた様な怪我しかしていませんが一応聞いてみますか。

「それで無事なんですか?」
「あ、ああ。すまん。まさか子猫ちゃんが喋れるようになっているとは思わなくてよ」

 何でしょう。この聞いた事と違った反応を示される事が最近多いですね。

「子猫殿、エリッサお嬢様は――」

 フェルブスターさんは行方不明だったエリッサちゃんの事が心配で仕方なかった様です。

「俺達は無事だ。それよりも何が起きてる?」

 3人目にしてようやく聞きたい言葉が聞けました。

「フェルブスターさん、エリッサちゃんなら門の内側にある馬車の中で寝ていますよ。魔法の使い過ぎで疲れたみたいです。今から子爵城の奪還作戦を開始しますね。それで……子爵様と騎士団長は何処なんです?」

 僕はフェルブスターさんとウォルターさんの質問に答えて、子爵様と騎士団長の行方を尋ねると――。

「それが……私達にもわからないのです。お嬢様と姫様の捜索に出かけたきり戻ってこなかったので……。子爵様が留守の間に貴族派の連中が押し寄せてきて――」

 はぁ。フローゼ姫が煮え切らないから騎士団長に会わせればと、思ったのですが。どうやら穴の中に監禁した騎士達の話は本当の様ですね。
 それにしても森の中で行方不明ね……。
 どこかで聞いた話です。

 まさか――ですよね。

 3人の縄を爪で切り裂くと3人は首を刈り取られ死んでいる兵の腰から剣を外し、その剣を武器に一気に塔を駆け下りていきました。
 さてフローゼ姫は何をやっているんでしょうね……。
 僕は塔から地上を覗き見ます。
 地上ではまだフローゼ姫とハンドレイクが対峙し言葉の応酬を重ねています。
 人質は助けたから後はそこの兵と騎士を倒せば残るは街の各門にいる兵達だけなんですけどね。
 僕は人質を助けた事を話に砦から一気に飛び降りました。
 こう見えても子猫ですから身軽なんですよ!
 僕が地面に着地しフローゼ姫の所へ駆け出すと、フローゼ姫を囲む様に兵達が動き出した所でした。倒す機会が何度もあったにも関わらず、ここで躊躇するとか本当に騎士なんですかね。

「フローゼ姫、大人しく拘束されてもらいますよ。行け!」

 ハンドレイクの指示で動き出した兵達はフローゼ姫を囲むと、殺さない様に剣を鞘に納めた状態で彼女に殴り掛かっていきます。
 鞘に入っていても中身が固い剣であれば骨折位はするでしょうね。普通ならば。
 兵が振り下ろした剣はフローゼ姫に当たる手前で弾かれます。

「――なっ!」

 攻撃をかわされたのなら納得もするでしょう。しかし僕が使う結界魔法は故最高魔導師のエルドーラさんでも成しえなかった難易度の高い魔法です。
 思わず絶句の声を漏らした兵は、反撃を恐れ一歩後ろに下がりました。

「無駄だ! 大人しく降伏せよ!」

 はぁ、まだ説得を続けるつもりですか……。
 僕は神速でフローゼ姫の足元まで移動して3人は既に救出した事を告げます。

「何? ではこの城にはもう――」
「ええ。敵しか残っていませんからさっさと終わらせてミカちゃんと合流しますよ」

 僕が掌に魔力を集めると、それに気づいたフローゼ姫が叫びます。

「お前達は門に倒れている兵の様になりたいのか! 今ならまだ――」

 フローゼ姫が言い終わる前に僕の纏った魔力は掌を離れ、水滴となり兵達に襲い掛かります。その水滴は台風の日に前方のから降り注ぐシャワーの様に兵へと掛かり、ずぶ濡れになった途端一気に凍り付きました。
 この位置からだと前に立っている兵が盾の役目を果たし、後方までは届きませんでしたね。
 200人位いる兵の内、その半数は凍り付き氷で作ったオブジェの様に固まっていますが、幸いにも逃れた兵は恐れ戦き、我先にと逃げ出していきました。

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