子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第159話、ミカちゃんの救出劇その2

 「死にぞこないが、そんな物を持って何処に行くつもりだ?」

 先頭にいる騎士が優しい門番さんと兵士さんに罵声を浴びせます。
 抜剣している騎士に対し、人数では勝っていますが木剣と先が丸まっている槍しか持っていないサースドレイン側の人々ではどう考えても騎士が優勢に見えます。
 ミカちゃんは騎士達の視線が木剣を持っている兵士に集まっている隙に、透明化の魔法を使い姿消しました。騎士との距離が詰まる前に掌に集めていた魔力を一気に放出します。
 『ゴゴゴグワァーン』轟音が鳴り響いた次の瞬間に、光の帯が騎士達の頭上から降り注ぎました。その光は金属製の防具と剣を持っている全ての騎士に降り注ぎ、それらをまともに浴びた騎士達は成す術なく糸の切れた人形の様に昏倒していきました。

「おいおい、俺達が武器を持たなくても良かったんじゃないか?」
「そんな事は無いにゃ。本番はこれからにゃ」

 ミカちゃんが放ったサンダーの威力を目の当たりにして、兵士さんが呆れた様な面持ちで言葉を吐きます。
 練習場に駆け付けた騎士を無力化しても、今の轟音を聞けば上の階から更に増援が駆け付ける事は想像に難くないですからね。
 混戦になれば不利になるのはミカちゃん達の方です。ミカちゃんの言葉を聞き、皆も気合を入れなおします。

「さっ、今の内に地上に出るにゃ」

 ミカちゃんが姿を消した事は傍にいた皆が知っています。
 傍から彼女の声が聞こえる事に心強く思いながらも、皆はミカちゃんの指示に従い格子戸から一斉に抜け出しました。
 ミカちゃんは皆に指示を出すとすぐさま神速を使って来た道を戻ります。
 階段を駆け上がった所で、奥の通路と手前の通路から駆け付ける騎士の足音を聞き取ります。すかさず掌に魔力を集めまずは奥から来る騎士の足止めを行う為に通路を塞ぐように氷結を放ちました。
 通常は対象に直接掛ける魔法ですが、通路の両端の壁に魔力を放出する事で一瞬の内に氷の壁を作り通路を遮断していました。
(これで奥からは当分出てこれないにゃ。問題は――こっちにゃ)
 氷の壁を背に見張りが立っていた正面入り口を振り向けば、数人の騎士が抜剣して剣先をミカちゃんに向けています。
 姿は見えて居なくとも通路の先が凍った事で、魔法師の敵が現れた事はわかりますからね。直ぐに階段からは続々と兵士さん達が上がってきて、当然その姿は騎士の瞳にも映ります。

「脱走だ! 伝令管で管内に伝えろ!」

 騎士の一人が叫び、背後の騎士が駆け出し近くの部屋に飛び込みます。
 直ぐに兵宿舎全体に張り巡らされた伝令管から、地下に監禁した兵が脱走した旨の放送が流れます。

「仲間を増やされる前に宿舎から逃げるにゃ!」

 ミカちゃんは言うなり、掌を通せんぼしている騎士に向けます。
 次の瞬間――魔力を纏った手から小雨の様な水滴が騎士達に飛んでいき、刹那の時間を置くと瞬く間に騎士の足元を凍らせ足を床に縫い付けました。

「兵士さん、門番さんここは頼むにゃ!」
「おう! 任されたぜ!」
「散々痛めつけられたお返しだ!」

 足を縫い付けられ、前のめりの状態で身動きが出来なくなった騎士に対し、木の武器を携えた兵士さんと門番さんが殴り掛かりました。
 剣を杖にして身動き出来なくなっている騎士に対しては、正面から。直立不動で剣を振り回す余裕のある騎士には背後から襲い掛かり、瞬く間に全ての騎士の意識を刈り取っていきました。
(何とかなったかにゃ)
 ミカちゃんは正面の扉に神速の鏃を飛ばし破壊すると、突然内側から扉が壊され外で番人をしていた2名の騎士が驚愕の表情で振り返ります。
 そこに――勢いを付けて掛けてきた兵士さんと門番さんが木の武器で殴り掛かり、抵抗させる暇を与えずに倒してしまいました。

「ここからは好きに逃げるにゃ。まだ奪還作戦は始まったばかりにゃ」

 ミカちゃんが脱出の成功した兵士と警備隊、騎士の皆にそう声を掛けた時です。
 この街の一番奥、子爵城からけたたましい轟音と共に地面を揺るがす程の振動と稲妻の豪雨が降り注ぎました。

「子猫ちゃん、やりすぎにゃ――」

 ミカちゃんが漏らした言葉をはっきりと聞いた者はその場には居ません。
 ただ神の怒りを買ったとしか思えない程の光の線が天空から降り注ぎ続け、その線が発する光が街を照らし出す様子を一行はただ茫然と見つめていました。

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