子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第152話、王に――。

 アンダーソンのお爺さんの話では、表立って動けなくなってしまった為に各ギルドへ直接足を運ぶ事が出来ず、利息の回収が滞っていると嘆いていました。
 利息で慈善事業していたのなら仕方無いですね。
 しかも慈善事業の一切を教会にお願いして行っていたらしいのですが、皇国に占領された事で、教会は閉鎖に追い込まれ現在は休業状態。
 教会に資金を持っていけば、今まではシスターさんが全てやってくれて居たようですが、教会が休業状態の今は残っているシスターさんの善意でかろうじて手伝ってもらっているのだとか……それも長くは続けられないと話していました。

 皇国は君主こそが神であると公言している国でしたね。
 皇国に吸収されてしまった旧アンドレア国も君主こそが神であるという教えを強要されているのだとか……。

 人が神を名乗るとかそっちの方が罰当たりですよね。
 神様がいたとしても、他国を侵略なんてしないと思います。
 でもそれを公言すれば、国王派の様に鉱山送りになるとアンダーソンさんに聞かされ僕達一行は皆、眉をしかめました。

「それで姫様、こちらの摩訶不思議な猫と狐、少女達は一体――」

 一通りの説明をフローゼ姫にした所で、漸く僕達に興味が湧いた様です。

「話せば長くなるのだが――こちらのモカブラウンの髪の少女がサースドレイン子爵のご息女でエリッサ殿だ。肩に乗っているのは、彼女の相棒と呼んでも差し支えないだろう。猫獣人の少女はミカ殿といってオードレイク伯爵によって滅ぼされた村の村長の義娘になる。その足元にいるのは子猫ちゃんで迷い人の様なものだ」
「姫様、迷い人とは何でございましょう?」

 フローゼ姫は肝心な能力の事はぼかしながら、この世界と転移のゲートで繋がった別の世界からやって来た者の事だと説明しますが別の世界と言われても理解が及ばなかった様です。

「数年前にこの王都で腐った豆の匂いを王都中に広めた者がいただろう? あれと同郷の者という話だ」
「軟禁状態にして取り調べて居たらいつの間にか消えていた者でしたかな」
「ああ。あの腐った豆はその世界では日常的に食べられている主食らしいがな。その者と同じ世界からエルフが昔築いた転移のゲートを通ってこの世界に迷い込んだ者の事を迷い人と呼ぶそうだ。妾も最近知ったのだがな」

 フローゼ姫が苦笑いを浮かべそう伝えると、

「ハイネ騎士団長が最後に戻られた際に、子猫に敗れたと陛下に報告しておりましたが、まさか――この子猫に?」

 負けた報告を国王様にしていたなんて、騎士団長は裏表の無い真面目な人なんですね。恥ずかしくて他言しない人の方が多そうですが……。

「ふふっ、その決闘なら妾も見ていたが、あの騎士団長相手にまったく危なげない戦いぶりであったぞ。爺も気を付けるが良い、ミカ殿を侮辱する事あれば四肢が消し飛ぶぞ」

 フローゼ姫も人が悪いですね。僕は仲間内には優しいつもりですけど。でも先程槍を構えて突然現れた時にミカちゃんを侮辱していたら――やっていましたね。
 アンダーソンのお爺さんが僕とフローゼ姫を交互に見ますが、普通に話しているだけなら僕の強さを窺い知る事は出来ませんからね。

 侮られる事には慣れていますよ。
 簡単な紹介も終わり、今後の話に移ります。

「それで姫様はこれからどうされるおつもりでしょうか? 私奴に出来る事でしたら命に代えましても――」
「ふっ、爺は長生きをしてくれ。近しい者を失うのはもう沢山なのだ。妾はこの国に戻って来た時、鉱山で働かされている国王派の貴族達を目にした。救おうと思えば出来たが――先の事を考えるとそれを断念せざるを得なかった。この王都に立ち寄ったのも現在の国の情勢を把握する為だ。国民が苦しんでいるならば皇国と戦をと考えてもいた。だがここまでの道すがらすれ違う国民の表情は晴れやかで、父上が統治していた時よりも楽しそうではな……」
「それは違いますぞ! 民達は騙されているのです」
「――何が違うのだ? 皇国が王城を捜索しここにある大量の金貨を見つけ出せなかった事で王家が私欲で税を上げ、使い込んでいた事にされてしまった。皇国が税率を上げて民を苦しめているのならばまだしも、介護保障云々以前の税率に戻し民達を税の苦しみから解放したと言うでは無いか。これでは賛同してくれる者を集って挙兵しても民は付いては来ぬ」
「では姫様はこのままでいいとおっしゃるのか!」
「そうは言ってはおらん。妾は父がやり残した慈善事業と介護保障を成し遂げ、国王派の貴族達を救いたいだけなのだ」
「それを成すには王になるしかありませんぞ!」
「何故そうなる、他に手が――」
「そんな手は御座いませぬ。ここにある資金を表に出せば必ずや貴族派と皇国が黙ってはいないでしょう。そして奴隷となった国王派の貴族達を救い出せば、それが新たな火種となり戦乱が起きまする。陛下の想いを継ぐのならば――王になりなされ」

 フローゼ姫の考えも理解は出来ますが、お爺さんの言っている事も正しく思えます。民だけの事を考えれば国主が皇国でも構わないとも思えますが、それでは奴隷に落とされた国王派の者達は救われません。そして亡き国王の想いを成し遂げるならここの資金を表に出さない訳にはいきません。それはつまり――欲にまみれた貴族派と皇国に徴収される可能性が高くなる。

 ここでフローゼ姫とお爺さんの会話を静かに聞いていたエリッサちゃんが、申し訳なさそうに口を挟みます。

「アンダーソンさんにお尋ねしたいのですが、サースドレイン領は今、どうなっているのでしょうか? 父もやはり奴隷に――」

 ガンバラ王国で今回の話を聞いてから、ずっと気にかけてはいたものの一子爵の行く末など誰も知りませんでしたからね。どんな情報でも知りたいとエリッサちゃんが縋り付く様な瞳でアンダーソンさんを見つめ問いかけます。

「皆さまは王都に来られた時に侵略された割に兵の数が少ない事を変だと思われませんでしたかな?」

 変も何もフローゼ姫の素性がバレるために王都に近寄りもしていません。今の話の流れで王都にいる兵の数が少ない事が、何か関係があるのでしょうか?

「妾達は王都には立ち寄っていない。一計を案じて隠し通路から直接侵入してきたのだ。その兵の数が少ない事とサースドレインの話、何か関係があるのか?」
「はい。現在この国で皇国に抵抗しているのは、サースドレイン領だけなのです。その為、貴族派達が兵を集めそれの討伐に――」

 サースドレイン領だけが抵抗していてしかも、それを討伐する為に兵が集められ既に出立していると聞きエリッサちゃんの顔色が真っ赤に染まり声を荒げます。

「――っ、そんな!」
「ここでのんびりしていられなくなったにゃ」
「爺、すまないが妾達はやる事が出来た。これよりサースドレイン領に行く」

 アンダーソンさんがそれなら私奴も一緒にと言ってくれますが、正直足手まといは必要ありません。

「爺は教会の方を頼む。今後の事は後で騎士団長を交えて話そう」
「ハイネ騎士団長殿は――」

 アンダーソンさんが何かを言いかけますが、既に僕達は森にある出口目指して走り出しました。




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