子猫ちゃんの異世界珍道中
第137話、黒竜との邂逅
『ゴボゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーー』耳を劈く爆音と共に僕の放った漆黒の魔力の本流は狙い違わず、目の前に鎮座した竜にその力をぶつけました。
僕の手から放たれたブレスは漆黒の竜を飲み込むと周囲の木々を消し去り空へと伸びていきます。
漆黒の竜は同じく漆黒のブレスに飲み込まれ姿が消えた様に思えます。
ですが……。
そのブレスが収まると――まるでブレスに体を洗われて気持ちがいいとでもいうような、輝きを増した漆黒の巨体がそこには残っていました。
「――なっ!」
「魔法が効かないにゃ!」
「そ、そんな……」
僕の使える魔法で最強最大のブレスが全く効果無かった事で、皆に動揺が広がっていきます。僕自身、Sランクとは言っても消滅魔法は有効打になりえると思っていました。全くの無傷とは驚きです。あれが効かないとなると、他の皆が使える魔法も――。そんな僕達の動揺を嘲笑うかの様に竜が口を開きます。
『何を狼狽えておる、我は漆黒の竜ぞ。同属性の魔法が効く訳が無かろう』
先程の人間共を甚振った時に汚れた鱗が綺麗になったわ。と何故か感謝されてしまいます。
最早逃げるにしても肝心の馬車は車輪が外れ大破してしまっています。
神速を使って逃げるにしても、エリッサちゃんは神速を使えません。
僕達はどうやってこの場をやり過ごすか怯えながら思考していると――。
『ところで猫、おぬし――何者だ?』
僕達を甚振り、嬲り殺すのは容易な筈の竜が何故か誰何してきました。
皆は僕が口を開くのをただジッと待っています。
何者と言われても僕はただの子猫ちゃんです。それ以上でもそれ以下でもありません。あえて言うならば――迷い人、いえ迷い猫ですね。
僕の思考を読み取ったとでも言うように、竜は豪快に笑います。その声は威嚇で上げた声とは違いますが、周囲の土を舞い上がらせ落ち葉を薙ぎ払います。
「何がおかしいんでしょう?」
竜のこの反応は皆も以外で、僕の一言一句に耳を傾けています。
『ただの迷い猫が魔法を使える訳がなかろう。迷い人は元々の世界でその種子をもっておったゆえにこの世界でも魔法を使える。だがその世界の獣はその種子を持たぬ。もう一度聞く――お主は何者だ!』
もう訳が分かりません。
僕は物心ついた頃には、橋の下に置かれた箱の中に入れられていました。
お婆さんはそれを捨て猫と言っていました。
子猫ちゃんはお婆さんが付けてくれた名前です。
捨てられていたという事は、僕を産んでくれた親はその世界にいる筈、生きているか分からないですから居た筈です。
竜はそんな僕を訝しげに睨み、次の瞬間――僕に巨大な漆黒の爪を振るってきました。まさかこの流れから突然襲い掛かられるとは思わず、その攻撃をまともに食らいます。
「子猫ちゃん!」
ミカちゃんの悲痛な声が僕の耳に届きますが、僕の体は飛ばされブレスで破壊されていない森の木にぶち当たり、木々を数本なぎ倒した辺りでその勢いは止まります。
心配したミカちゃんが動いて僕の方に駆けだそうとすると――。
『動くな!』
竜は動けば次は、ミカちゃんを薙ぎ払うとでも言うように巨大な爪をミカちゃんの目の前に持ってきました。
「――にゃ!」
一瞬の出来事で動こうとしたミカちゃんの足は止まり、躓いて転びます。
「ミカさん!」
「ミカ殿!」
エリッサちゃん、フローゼ姫がミカちゃんに駆け寄りますがそれには竜は手を出しては来ませんでした。
心配そうな面持ちでミカちゃんは、僕が飛ばされた方向を見つめます。
木々を薙ぎ払った影響で枯れ葉や砂が舞い視界が著しく悪くなっています。
皆の視界には僕の姿は見えていないようですが、何故か僕の目にはしっかりと皆の様子が見て取れます。これも迷い猫の能力なんでしょうか?
僕はゆっくり立ち上がると、怪我が無いか首を捻り全身を見ます。すると――何故か僕の体を包み込む様に漆黒の粒子が全身を覆い隠していました。
『ほう、やはり――』
視界が開かれると、僕の姿は当然ミカちゃん達にも見られます。
僕のその姿を見たミカちゃんは、
「子猫ちゃんは無事にゃ! それはこの前の寝ながら使った魔法かにゃ?」
そういえば先日、ガンバラ王城でそんな事を言っていましたね。
僕が意識せずに発動した魔法とかなんとか……。
所で何がやはりなんでしょうかね?
いきなり攻撃しておいて――あ、先に消滅魔法を仕掛けたのは僕の方でした。
「何がやはりなんでしょうか?」
僕が納得顔の竜に尋ねると……。
『お主は自分のルーツが分かっておらんのか。まぁよい。しばらく退屈な世が続いたが面白くなりそうだ。ぐはははは』
竜は僕達にこれ以上の損害を与えず、高笑いを上げると目元を嫌らしく下げながら漆黒の翼をひと撫でします。それだけで竜の巨体は一瞬で遥か遠く、大空へと打ちあがり小さくなっていきました。
この場合、助かったとホッと胸を撫でおろした方がいいのでしょうかね?
女性陣は威圧から解放された事で、安心してしゃがみ込んでいます。
それにしても愉快犯の様な嫌な奴でしたね。
Sランクっていうのは皆あんな奴等ばかりなんでしょうか……。
せっかくガンバラ国からもらった新品の馬車が壊れてしまっていますし……。
竜が去った事で、落ち着きを取り戻した皆は一度馬車に戻ります。
「これからどうすれば……」
「お馬さんが1頭になってしまいましたわね……」
「馬車は多分治せるにゃ!」
フローゼ姫とエリッサちゃんが途方に暮れる中、ミカちゃんが魔法で馬車を修復すると告げると――。
「その手があったか!」
「さすがミカさんですわ!」
「アーン!」
意気消沈していた皆の表情にも笑顔が戻ってきます。
ミカちゃんが掌に魔力を纏い、魔法を馬車に放つと馬車に光の粒子が集まってきて外れた車輪も、罅の入った木材も何事もなかったかの様に元の状態に戻ります。
「後は馬さんにハイヒールを掛ければ何とかなるにゃ!」
流石に死んだ馬さんを生き返らせる事は出来ませんが、足を折って立ち上がれなくなった馬さんを治す事は魔法でなら可能です。ミカちゃんが馬さんに近づくと、馬さんは縋り付く様な視線をミカちゃんに向けています。
そんな視線をミカちゃんに投げるなんて身分不相応ですよ!
ミカちゃんが掌を馬さんに翳し魔力を練ると、次第に掌には青い粒子が集まってきて一際明るく輝くと馬さんの全身に降り注ぎました。さすがミカちゃんですね。 たった一度のハイヒールで馬の折れた足を治し、体力も回復させた様です。
1頭に減った分、馬さんと馬車を繋ぐ部分が邪魔になります。
僕は使わなくなった部分を爪で切り取り軽くします。
後は馬さんを繋ぐだけです。
馬さんを馬車に繋ぎフローゼ姫が馬車を走らせようとしますが、この場所はブレスの影響でぽっかりと凹んだ状態になっていて簡単には馬車を動かせません。
珍しくエリッサちゃんが御者席に乗り手綱をしばき、ミカちゃんとフローゼ姫、僕で必死に馬車を押し出します。
順調に行けば夕方まで走れば次の国に到着した筈が、この穴から這い上がるだけで時間を使い、前方の街道が破壊されていない場所に馬車を乗り上げたのは夕方、日が沈む頃になってからでした。
僕の手から放たれたブレスは漆黒の竜を飲み込むと周囲の木々を消し去り空へと伸びていきます。
漆黒の竜は同じく漆黒のブレスに飲み込まれ姿が消えた様に思えます。
ですが……。
そのブレスが収まると――まるでブレスに体を洗われて気持ちがいいとでもいうような、輝きを増した漆黒の巨体がそこには残っていました。
「――なっ!」
「魔法が効かないにゃ!」
「そ、そんな……」
僕の使える魔法で最強最大のブレスが全く効果無かった事で、皆に動揺が広がっていきます。僕自身、Sランクとは言っても消滅魔法は有効打になりえると思っていました。全くの無傷とは驚きです。あれが効かないとなると、他の皆が使える魔法も――。そんな僕達の動揺を嘲笑うかの様に竜が口を開きます。
『何を狼狽えておる、我は漆黒の竜ぞ。同属性の魔法が効く訳が無かろう』
先程の人間共を甚振った時に汚れた鱗が綺麗になったわ。と何故か感謝されてしまいます。
最早逃げるにしても肝心の馬車は車輪が外れ大破してしまっています。
神速を使って逃げるにしても、エリッサちゃんは神速を使えません。
僕達はどうやってこの場をやり過ごすか怯えながら思考していると――。
『ところで猫、おぬし――何者だ?』
僕達を甚振り、嬲り殺すのは容易な筈の竜が何故か誰何してきました。
皆は僕が口を開くのをただジッと待っています。
何者と言われても僕はただの子猫ちゃんです。それ以上でもそれ以下でもありません。あえて言うならば――迷い人、いえ迷い猫ですね。
僕の思考を読み取ったとでも言うように、竜は豪快に笑います。その声は威嚇で上げた声とは違いますが、周囲の土を舞い上がらせ落ち葉を薙ぎ払います。
「何がおかしいんでしょう?」
竜のこの反応は皆も以外で、僕の一言一句に耳を傾けています。
『ただの迷い猫が魔法を使える訳がなかろう。迷い人は元々の世界でその種子をもっておったゆえにこの世界でも魔法を使える。だがその世界の獣はその種子を持たぬ。もう一度聞く――お主は何者だ!』
もう訳が分かりません。
僕は物心ついた頃には、橋の下に置かれた箱の中に入れられていました。
お婆さんはそれを捨て猫と言っていました。
子猫ちゃんはお婆さんが付けてくれた名前です。
捨てられていたという事は、僕を産んでくれた親はその世界にいる筈、生きているか分からないですから居た筈です。
竜はそんな僕を訝しげに睨み、次の瞬間――僕に巨大な漆黒の爪を振るってきました。まさかこの流れから突然襲い掛かられるとは思わず、その攻撃をまともに食らいます。
「子猫ちゃん!」
ミカちゃんの悲痛な声が僕の耳に届きますが、僕の体は飛ばされブレスで破壊されていない森の木にぶち当たり、木々を数本なぎ倒した辺りでその勢いは止まります。
心配したミカちゃんが動いて僕の方に駆けだそうとすると――。
『動くな!』
竜は動けば次は、ミカちゃんを薙ぎ払うとでも言うように巨大な爪をミカちゃんの目の前に持ってきました。
「――にゃ!」
一瞬の出来事で動こうとしたミカちゃんの足は止まり、躓いて転びます。
「ミカさん!」
「ミカ殿!」
エリッサちゃん、フローゼ姫がミカちゃんに駆け寄りますがそれには竜は手を出しては来ませんでした。
心配そうな面持ちでミカちゃんは、僕が飛ばされた方向を見つめます。
木々を薙ぎ払った影響で枯れ葉や砂が舞い視界が著しく悪くなっています。
皆の視界には僕の姿は見えていないようですが、何故か僕の目にはしっかりと皆の様子が見て取れます。これも迷い猫の能力なんでしょうか?
僕はゆっくり立ち上がると、怪我が無いか首を捻り全身を見ます。すると――何故か僕の体を包み込む様に漆黒の粒子が全身を覆い隠していました。
『ほう、やはり――』
視界が開かれると、僕の姿は当然ミカちゃん達にも見られます。
僕のその姿を見たミカちゃんは、
「子猫ちゃんは無事にゃ! それはこの前の寝ながら使った魔法かにゃ?」
そういえば先日、ガンバラ王城でそんな事を言っていましたね。
僕が意識せずに発動した魔法とかなんとか……。
所で何がやはりなんでしょうかね?
いきなり攻撃しておいて――あ、先に消滅魔法を仕掛けたのは僕の方でした。
「何がやはりなんでしょうか?」
僕が納得顔の竜に尋ねると……。
『お主は自分のルーツが分かっておらんのか。まぁよい。しばらく退屈な世が続いたが面白くなりそうだ。ぐはははは』
竜は僕達にこれ以上の損害を与えず、高笑いを上げると目元を嫌らしく下げながら漆黒の翼をひと撫でします。それだけで竜の巨体は一瞬で遥か遠く、大空へと打ちあがり小さくなっていきました。
この場合、助かったとホッと胸を撫でおろした方がいいのでしょうかね?
女性陣は威圧から解放された事で、安心してしゃがみ込んでいます。
それにしても愉快犯の様な嫌な奴でしたね。
Sランクっていうのは皆あんな奴等ばかりなんでしょうか……。
せっかくガンバラ国からもらった新品の馬車が壊れてしまっていますし……。
竜が去った事で、落ち着きを取り戻した皆は一度馬車に戻ります。
「これからどうすれば……」
「お馬さんが1頭になってしまいましたわね……」
「馬車は多分治せるにゃ!」
フローゼ姫とエリッサちゃんが途方に暮れる中、ミカちゃんが魔法で馬車を修復すると告げると――。
「その手があったか!」
「さすがミカさんですわ!」
「アーン!」
意気消沈していた皆の表情にも笑顔が戻ってきます。
ミカちゃんが掌に魔力を纏い、魔法を馬車に放つと馬車に光の粒子が集まってきて外れた車輪も、罅の入った木材も何事もなかったかの様に元の状態に戻ります。
「後は馬さんにハイヒールを掛ければ何とかなるにゃ!」
流石に死んだ馬さんを生き返らせる事は出来ませんが、足を折って立ち上がれなくなった馬さんを治す事は魔法でなら可能です。ミカちゃんが馬さんに近づくと、馬さんは縋り付く様な視線をミカちゃんに向けています。
そんな視線をミカちゃんに投げるなんて身分不相応ですよ!
ミカちゃんが掌を馬さんに翳し魔力を練ると、次第に掌には青い粒子が集まってきて一際明るく輝くと馬さんの全身に降り注ぎました。さすがミカちゃんですね。 たった一度のハイヒールで馬の折れた足を治し、体力も回復させた様です。
1頭に減った分、馬さんと馬車を繋ぐ部分が邪魔になります。
僕は使わなくなった部分を爪で切り取り軽くします。
後は馬さんを繋ぐだけです。
馬さんを馬車に繋ぎフローゼ姫が馬車を走らせようとしますが、この場所はブレスの影響でぽっかりと凹んだ状態になっていて簡単には馬車を動かせません。
珍しくエリッサちゃんが御者席に乗り手綱をしばき、ミカちゃんとフローゼ姫、僕で必死に馬車を押し出します。
順調に行けば夕方まで走れば次の国に到着した筈が、この穴から這い上がるだけで時間を使い、前方の街道が破壊されていない場所に馬車を乗り上げたのは夕方、日が沈む頃になってからでした。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
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