子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第115話、広範囲殲滅魔法

 新しい魔法を試すにしてもここの周囲は林です。


 効果がまるっきりイメージ出来ません。


 せめて魔物の群れでもいれば試してみるのですが……。


「それで今度のはどんな魔法なのだ?」


 将来的に僕とミカちゃんをアンドレア国の重鎮にと考えているフローゼ姫は興味津々ですが、今ここで使って良い物なのかわかりません。


 もしかしたらしょぼい結果にしかならないかもですし……。


 僕が出し渋っているのを察してくれたミカちゃんが、


「子猫ちゃんが使うタイミングが来たら見せてくれればいいにゃ!」


 やっぱりミカちゃんは優しいですね。


「残念ですわ。でも仕方ありませんわね」


 エリッサちゃんにも納得してもらい、ワイバーンの肉を人数分切り取り、残りを灰にした所で出発する事にします。遺族の方には申し訳有りませんが、兵士の末路とはこういうものらしいので――遺体はワイバーン同様、綺麗に灰にして土に返しました。


 ワイバーン等、竜種の肉は高級品で美味だとフローゼ姫が言っていたので、腐らせない程度の肉を残しましたが、軍用のワイバーンの肉なんて美味しいのでしょうか? 切り取った感じでは筋が多くて不味そうでした。


 結局、アンドレア国に帰る為にはこの道を進むしか他に手は無く、僕達は街道を堂々と進む事にしました。


 王都までは4日は掛かるらしく、それまでに名案が浮かべばいいのですが。


 ワイバーンを倒した晩にその肉をミカちゃんが大胆にステーキにしましたが、予想していた通り筋が歯につまり美味しくありませんでした。


 これなら細かく砕いてハンバーグにした方がまだマシです。


 それをミカちゃん達に伝えると――。


「肉を細かくしたら噛み応えが無くて美味しく無いにゃ!」


「私も初めて聞きましたわ」


「王城の料理人でその様な料理を出してくる者は居なかったぞ? 美味しいのか?」


 皆に不評ですが、お婆さんがこれは子猫ちゃん専用よ。と言って作ってくれた小さなハンバーグは美味しかった事を話すと――。


「子猫ちゃんの世界の料理かにゃ! やってみるにゃ!」


 ミカちゃんが気を使ってくれて、ナイフで細かく何度も切り、叩いて砕き更に細かくした肉の塊を焼いてくれました。味付けはソースなんてありませんから塩と胡椒です。


 焼きあがった感じはお婆さんの作ってくれたハンバーグに似ています。


 僕は起用に爪で切り裂き、一口サイズにします。


 焼き方が上手なお陰で、肉汁が中に凝縮され零れ落ちます。


 辺りに香ばしい胡椒の香りが漂い、僕は一気に口の中に入れました。


 僕には少し熱いですが、舌で転がすだけでポロポロと解れます。


 それを噛締めるとステーキの時には無かった旨味があふれ出してきました。


 僕が必死に齧り付いているのを見ていた皆も、ナイフで切り分け木を削って作ったフォークを使い食べ始めます。


「ふわぁ~さっきのステーキの肉と同じ肉には思えないにゃ!」


「本当ですわね。この粒になった肉の噛み易さと肉汁が――」


「うむ、旨い! これは戻ったらアンドレア国でも広めなければな!」


「アーン!」


 皆に喜んでもらえて僕も満面の笑みを浮かべます。


 ミカちゃんも、一気に食べ終わりお皿に残った肉汁を舐め取っています。


 普段ならはしたないですよ! と苦言を漏らしますが、今日ばかりは止めときましょう。皆、異世界の料理を始めて食べたのですから。


 野営地でそんな美味しそうな匂いの料理を作ったからか?


 僕達を取り囲む様に角の生えた3つ目の豚が、数十頭集まってきました。


 近づいてくる気配は感じていましたが、皆が笑顔で食事を楽しんでいたので害が無い限りはスルーしていました。でもここまで囲まれれば状況も変わります。ウガァァァァァァ、と奇声を叫びながら近づいてくる魔物に対し、僕は覚えたての魔法を行使します。


 僕の腕から黒い粒子が掌に集まり、魔法を放つとその粒子は空気に溶けるように広がり、僕の意図した方向へ飛んで行きます。


 僕が狙ったのは――。


 馬車の隣で夕食をしている僕達の周囲、ドーナツ状の広範囲を対象に魔力を抑え気味で放ちました。


 普通の人間であるエリッサちゃん、フローゼ姫には暗くてよく視認出来ない様ですが、ミカちゃんには見えている筈です。


 黒い粒子が広範囲に広がった瞬間――。


 粒子が質量を帯び、地面に落下しました。


 肌色をした角が生えた豚は、一瞬で粒子に押し潰され周囲には肉片だけが散らばっています。


 焚き火の明かりで魔物が潰れた所は2人にも見えたようで、驚き声を漏らします。


「何が――」


「なんだ――今のは」


「凄いにゃ、これはグシャの上位魔法かにゃ?」


 流石ミカちゃん。よく見ていましたね。


 今、僕が放ったのは重力圧縮の上位版で、重力殲滅魔法です。


 任意のものを対象に、かかる重力を調節も出来ます。しかも広範囲を対象として選べる様で……前の重力圧縮が単体にしか効果が及ばなかった分、凶悪な魔法ともいえます。でも威力を調節すれば――周囲の兵を殺さずに無力化も可能になるかもしれません。


 制御が難しいので、魔法制御を不得意としている僕には難易度が高い気もしますが……。


 それを皆に話して聞かせると――。


「これなら王国軍が押し寄せてきても――無力化して殺傷無しで素通り出来るのではないか?」


 フローゼ姫からは、この先に待ち構えていると思われる王国軍に対し、有効な魔法となりえると興奮して提案されましたが、どうでしょうね?


 それまでに僕の、魔法制御が追いつけばですが……。



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