子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第111話、救出!

「ミカちゃん!」


 僕は上半身を起こしたミカちゃんの胸に飛び込みます。


 せっかく高めた魔力も一気に霧散してしまいました。


 ミカちゃんは僕の頭を撫でながら、


「人の話は最後まで聞かないと駄目にゃ」


 そう言ってはにかみます。


 綺麗な薄い青色の瞳でしっかりと僕を見つめ、そんな事を言われたら――僕には何も言い返せませんよ。


 僕は頭をぐりぐりと胸に押し付けながら尋ねます。


「でも何でエリッサちゃん達の救出をしないの?」


「えっ、エリッサちゃんがピンチなのかにゃ! それは大変にゃ!」


「ぷっ――」


 思わず噴出しちゃいました。


 直ぐにでも飛び出して行きそうなミカちゃんを今度は僕が宥めます。


「ちゃんと理由を聞かないと……」


「にゃ! そうにゃ。お姉さん、何で助けに行かないのかにゃ?」


 僕達の会話を隣で聞いていたミランダさんは、呆れた口調で言います。


「今中に入ったら、私の魔法で息をする生物は皆気を失うわよ」


 へっ?


 何の事でしょう?


 それじゃ……今頃中の人達は全員……。


 僕が瞳を大きく開き、ジロリとミランダさんを見ると、


「あっ、あぁ~心配しなくていいから。あくまで気を失うだけだから。もう少ししたら中に入っても良い筈だからぁ~!」


 僕の威嚇に冷や汗を背中に掻きながら、タイミングを計っているのよぉ、と言い訳がましく説明します。


 さっきの魔法は、この人の師匠である迷い人、なぎささんと自分しか使える者が居ないほど高度な魔法らしく、その内容は酸素を一時的に決めた範囲から排出すると言うもの。酸素とは何かわかりませんが、尋ねたら空気ね! と簡単に説明してくれました。でも酸素が無ければ人は死にますよね? それに関しては、一時的な仮死状態になるだけでヒーリングを施せば生き返ると言われました。しかもそれを覚えるのに、なぎささんから実験台にされた経験まであるとも語っています。


 恐るべし――なぎささん、いや、納豆の人。


「じゃ~入りましょうか?」


 約束は守るわよ! と言ってくれますが、ミカちゃんが回復した手前正直もう必要はありません。と告げると、そんな寂しい事言わないでと何故か懇願された為に2人と2匹で鎮火した屋敷に入る事になりました。


 正面の入り口はまだ熱くて入れなかった為に、燃えていない右の一番奥側の窓を突き破って入る事にします。


 子狐さんの話では、ここにエリッサちゃんがいた筈です。


 窓は鎮火した際の煙か、はたまた燃えている際の煙か分りませんが、白く濁っていて外から中を窺う事は出来ません。


 僕が窓に重力圧縮を放つと、一瞬でグシャ、と鈍い音が鳴り響き潰れて消えました。


 それを見たミランダさんが、


「えっ、今の何? 何やったの?」


 連れて来たのは失敗だったかも知れません。


 こちらの手の内を見せるのは控えないと――なんせまだ敵なんですから!


 燻っていた煙は開いた穴から一気に排出されていきます。


 これで中の様子が良くわかります。


 中を覗き込むと、部屋の隅にエリッサちゃんを守る様にフローゼ姫が折り重なり倒れています。僕達は急いで中に飛び込みます。


 ミカちゃんがハイヒールをぐったりしているエリッサちゃんに行使している間に、僕が首に付けられている隷属の首輪を爪で切り裂きます。


 エリッサちゃんの首輪の次はフローゼ姫の首輪です。


 でも良く見ると、首輪の一部が燃えて溶けています。道理でフローゼ姫の綺麗な顔には火傷の痕が酷い筈です。


 もしかして、炎で首輪の機能が停止して直ぐに意識を回復してエリッサちゃんを守ろうとしたのでしょうか?


 ミカちゃんでさえ直ぐには起き上がれなかったのに……。


 ミカちゃんは何度もエリッサちゃんに、ハイヒールを上掛けしています。


 中々思った様には回復しない様です。


 やはり時間が経過し過ぎたんでしょうか?


 僕もフローゼ姫ヒーリングを掛けてみます。


 フローゼ姫の顔の火傷は簡単に治り、微かですが吐息も聞こえています。


 うん。フローゼ姫の方は問題無いようですよ!


 僕は朗報として皆に伝えます。


 ミカちゃんは一瞬ニコッと笑顔を向けると、直ぐにエリッサちゃんの治療に集中します。


 何度目かの治療で漸く、エリッサちゃんは吐息をするまでに回復しました。


 これで一安心ですね!


 子狐さんはエリッサちゃんの胸に顔を埋めて、嗚咽を漏らしながら泣いています。自分の過失でここまでの状態になったのですから、その心労は大変なものだったのでしょうね。


 僕も自分の魔法に巻き込まれて、ミカちゃんが瀕死になったら――。


 そう考えただけで、鳥肌が立つ思いがします。


 流石に直ぐには2人を動かせないので、僕達は意識を取り戻すのをその場で待ちます。その間の食事はというと、善意から小間使いを買って出てくれたミランダさんに頼んで用意してもらいました。


 何か裏があるのか、本当に善意なのか分りませんが、食事に毒が入っている訳でも無さそうなので、善意という事にしときましょうかね?


 結局、フローゼ姫の意識が戻ったのは僕達が食事をしている最中で、エリッサちゃんの方は夕方になってからでした。


 さて、今回の説明を皆にしないといけません。


 お城では無茶苦茶しましたし、またミカちゃんに泣かれそうな予感もします。


 気が重いですね……。



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