子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第107話、子猫と子狐の戦闘

 子猫ちゃんからは2人を守る様に指示されましたが、良い人だった筈の冒険者2名が2人を連れて屋敷の中に入っていき、今は姿を見る事は出来ません。


 早く追いかけないと……。


 僕が子猫ちゃんの様に格好を付けて魔法を放とうとしなければこんな事にはならなかったのに、少しだけ後悔しながら僕は尻尾の先に魔力を纏います。


 これなら僕が魔法を放つ瞬間を気づかれる事はありません。


 しばしの間対峙していましたが、騎士の隣に冒険者が追いつき杖を持ち上げると――杖の先が薄っすらと青く光り次の瞬間、ヒュン、と風切り音が鳴り何かが接近してくる気配を感じます。


 僕は尻尾の先の魔力を霧散させない様に注意しながら、それをジャンプしてかわすと、僕の背後に止っていた馬車に何かが当たり、馬車の側面に深い傷を3本付けました。


 あの冒険者さん、魔法使いだったようです。


「ちっ、まだ使い慣れない分外したか!」


「助力感謝する」


 僕は纏っていた魔力を魔法に変換し、着地と同時に騎士へと放ちます。


 お喋りしている暇なんて与えませんよ!


 子猫ちゃんならそう言うに違いありません。


 僕が放ったのはエリッサちゃんとお揃いの、お気に入りの魔法です。


 氷の鏃は真っ直ぐに騎士へと向かい飛んでいきますが、呆気なく騎士の剣で弾かれてしまいました。


「アーン」


 僕は悔しくて声に出しますが、ここでは誰も突っ込んでくれる人は居ません。


 もっと僕が強かったら、簡単に2人を助ける事が出来るのに……。


 僕の攻撃がかわされると、気を良くしたようで冒険者が再度僕に向けて杖を指してきます。すると――またさっきと同じ様に何かが飛んでくる気配を感じ、右に避けようとジャンプします。そこには冒険者が魔法を放つ瞬間に接近してきた騎士が剣を振りかぶった姿勢で待ち構えていました。


 僕がお母さんの様に賢くて強かったら……。


 僕の横を風が通り過ぎまた馬車に直撃し、バーン、と豪快な音を立ててぶつかるのと、僕目掛けて剣が振り下ろされるのは同時でした。


 僕がもっと早く動けたら――。


 僕の中で何かが覚醒したような、そんな閃きが脳を駆け巡ります。


 剣がスローモーションの様な動きで、僕の目の前に来た時に感じます。


 僕も子猫ちゃんやお母さんの様に速く動けるのだと。


 こんな遅い攻撃、僕に当る訳がありませんと。


 剣先を横目に見ながら当る寸前で、剣先に足を掛け一気に飛び上がりました。


 大空へ向かって高く、騎士や冒険者よりも高く。


 宙に浮いている体勢のまま僕は騎士目掛けて、ファイアを放ちます。


 騎士と冒険者は僕の動きについて来られず、周囲をキョロキョロと見回しています。僕の放った真っ赤な炎が降り注ぎ鎧を纏った騎士を炎が包み込みました。


 流石に子猫ちゃんの様に青い炎ではないので一瞬で灰には出来ませんが、全身の肉を焼ききる事は可能です。周囲には何とも言えない臭い匂いが漂います。


 僕が着地すると冒険者の男は、杖で必死に漕いで逃げ出そうとしていました。


 良い人じゃ無かった冒険者なんて、生きている価値はありませんよね!


 敵は増やす前に殺せとお母様も言っていました。


 僕は冒険者の背後から氷の鏃を放ちます。


 冒険者の男は館の扉を少しだけ開けた所で、氷の鏃3本を背中に受け絶命しました。


 さぁ、これからが本番ですよ!


         ∞     ∞     ∞




 馬車の天井に飛び上がりましたが、騎士達からは屋根が死角になっている様で、気づいていないようです。すると「おい! 馬車の上だ! 馬車の上に猫が飛び出してきたぞ!」と、騎士達の後方にいた背の高い屈強そうな男が僕に気づいて叫んでいます。


 アンドレア国の騎士団長の様な大男ですね。


 僕にはあっさり負けましたが……。


 騎士団長を思い出したついでです。馬車の周囲に隕石を降らせましょう。


 僕は迅速に魔力を練ると、掌を空高くに掲げます。


「何やっているんだ――あの猫は?」


 大男には魔力を練ったのは見えないようです。


 魔法を使える人は多くないとエルフで聞きました。という事はこれを認識出来る人も少ないという事ですかね?


 僕が掌を下に降ろすと、周囲にまばらに影が出来て刹那――『ゴゴゴゴゥー』轟音と共に真っ赤に燃え盛る隕石が大量に降り注ぎました。騎士団長の時は個人戦だったから魔力控えめでしたが、これは違いますよ!


 騎士達は何が起きたのか認識する間もなく、隕石に押し潰される者、運よく隕石の直撃を免れた者も隕石が発する高温の熱で体を焼かれ助けを叫びながら倒れていきました。あの大男も例外では無く、隕石が肩にぶつかったのか肩を消し飛ばした状態で燃え尽きていました。


 馬車の周囲は熱波の影響で汗が吹き出るほどで、馬車の上からこの先のお城を見ると陽炎の影響で歪んで見えます。更に酷いのが、人が焼けた匂いです。何度嗅いでも人が焼けた匂いは臭いですね。


 ミカちゃんが起き上がれれば、直ぐにでも立ち去りたい心境ですが……。


 僕は馬車の天井から内部に倒れているミカちゃんを見つめます。


 ミカちゃんは先程屑折れるように倒れた状態のままです。


 お城から大勢の兵、騎士達が出撃してくる様子が見て取れます。ミカちゃんを足置き台にする様な執事の上司です。碌な奴じゃないのはあのお爺さんを見れば分ります。ここは何としてでも死守しなければいけませんね。


 子狐さん達は無事なんでしょうか?


 早くここから脱出して助けに行かないと――。



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