子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第102話、罠

「申し訳ありませんが……例え冒険者であっても獣人を泊める場所はこの国には御座いません」


 冒険者ギルドでけんもほろろに断わられ、僕達は途方に暮れます。


「野営は慣れているにゃ。皆は宿屋に泊るにゃ」


 このパーティーの実質的なリーダーはミカちゃんです。


 参謀役としてフローゼ姫、癒しでエリッサちゃんがいますが……。


 そのリーダーを厩に泊めて、自分達だけベッドでぬくぬくと休める筈もなく、


「ここで食糧を買いこんで、外で野営した方がいいのではないか?」


 フローゼ姫もそう言ってくれているし……。


 冒険者ギルドの外でそんな話をしていたからでしょうか?


「なぁ、あんたら今晩泊る所を探しているんだろ? 良かったら知り合いの宿を紹介出来るかもしれねぇぜ」


 3人組で革の鎧を着込んだ冒険者風の男達に声を掛けられました。


 見る感じ胡散臭い匂いがプンプンします。


 フローゼ姫が、ミカちゃん、エリッサちゃんと顔を見合わせて返事を返します。


「宿屋を紹介してくれるというのは本当か? こちらは見ての通り獣人が1人混ざっているが?」


 冒険者ギルドでさえ獣人が泊れる場所は無いと、はっきり断わられたのに本当にそんな宿があるのか? フローゼ姫が確認します。


「あぁ、勿論。人種に関わらず泊れる良い宿があるんだよ」


 胡散臭いとは思いながらも、このままでは野営する羽目になるのでその話に乗る事にしました。


 男達がついて来いと言うので、馬車で彼らの後を付いて行くと、街壁に近い場所にこぢんまりとした宿が確かにありました。


 男達は僕達がチェックインするのを確認すると、何事も無かったかの様に去っていきます。


「人相は悪人顔だったけど良い人だったみたいにゃ」


「人は見かけによらないという事だな」


「良い人で良かったですわ」


 女性陣はあの3人の評価を上げたようですが、僕は胸騒ぎがします。


 宿では前払いで1泊の料金、3人と2匹で銀貨2枚を支払います。夕食と朝食、湯浴み込みの値段なんで安い方でしょうか?


 でもこの宿、こんなに格安なのに他にお客さんがいません。


 なんででしょう?


 夕食の時間になり宿屋のおじさんが食堂に案内してくれます。


 食堂はこぢんまりとした作りとなっており、食事を取るとしても席に座れるのは8人位でしょう。もしかして食事が美味しくないからお客さんが少ないのかも知れませんね。


 僕達がテーブルに付くと程なく、パン、野菜と何かの肉を煮込んだスープ、香辛料をふんだんにまぶした肉のステーキが人数分並べられました。


 味は……特別美味しい訳ではありませんが、不味くもありません。


 格安料金ですから、納得出来ますね。


 子狐さんは香辛料が苦手らしく、パンとスープだけです。


 僕も子狐さんと同じ物を食べました。


 食事の時間も終わり、女性陣が眠気を訴えたので早々に部屋に戻ります。


 湯浴みのお湯を主人が持って入って来た時には、既にミカちゃん達はベッドの上に装備も解かずにうつ伏せに寝てしまっています。


 皆、珍しいですね。


 こんなに直ぐに熟睡する程疲れていたんでしょうか?


 宿屋の主人は、横目に女性陣を眺め湯浴みの桶を置かずに戻って行きます。戻る時に、机の上に置いてあったランプを消していきます。


 これで部屋の中は真っ暗になりました。


 でも僕は見てしまいました。


 ご主人のねっとりとした嫌らしい視線を――。


 これは何かありますね。


 一応、全員に結界の魔法を掛けておきます。


 主人が部屋を出て、1時間は経ったでしょうか?


 お客さんが居ないと思ったら、複数の足音が階段を上がってきます。


 僕はいよいよ警戒し、全員に結界を掛け直します。


 すると――。


「この部屋でいいんだな?」


「はい。娘達はぐっすりでさぁ。子狐と子猫は後で鍋にでもしますんで、娘達がここに泊った痕跡も残りません」


「鎧を着込んだ女と、お嬢様風の娘は薬漬けにして娼館にでも売り飛ばせばいい。獣人の娘は、旦那様がいつもの様に遊ぶだろうからな。今回の報酬は金貨10枚だ」


「ありがてぇ。宿を開業したはいいが、閑古鳥が鳴いちまって――助かるよ」


 無用心にも扉の外でそんな会話をしています。


 なるほど……紹介した冒険者も、宿の主人もグルですか。


 しかもミカちゃんを遊ぶ? 何様ですか。そんな勝手な事僕が許す訳が無いでしょうに。こうなると皆が爆睡しているのは食事に何か入っていたと考えた方が良さそうですね。


 子狐さんは、エリッサちゃんがベッドに倒れこんだ時に、嬉しそうにその隣に飛び込んで既に眠っています。


 武器を抜かれても、僕1人で十分ですけどね。


 僕は掌に魔力を集め、爪を飛ばす準備をします。


 打ち合わせは終わったのか? 1人だけ階段を下りて行く音が聞こえ、次の瞬間にドアが勢い良く開かれます。


 不法侵入ですよ!


 僕は発動体勢の魔法を、最初に入って来た革の鎧を装備した男に向け放ちます。回転しながら飛んで行った爪は狙い違わず男の足首を両断しました。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁー」


「主人! 眠ってねぇ~ぞ! 不意打ちされた!」


「ブロッソが邪魔で射線が取れねぇ~」


 足首を刈り取られた男は、腰に差した剣を抜かないまま前のめりに転びます。その後ろの男は、宿屋の主人に大声で文句を言うと、抜剣して構えます。その背後にいた男は弓を構えますが、小さな宿屋の扉と前の男が邪魔になって弓を射られない様です。弓を撃たれても僕の結界を抜けるとは思えませんが……。


 僕は倒れた男は無視して、今度は爪を抜剣した男の手首を狙い放ちます。


「いてぇぇぇぇぇぇ~何かで切られた!」


 部屋を暗くしたのが災いしましたね。


 まさか目の前の机の上から攻撃されるとは思わなかったでしょう。


 2人の男の苦痛の悲鳴を聞きながら、僕は男2人を飛び越えて廊下にいるであろう残りの1人に飛び掛ります。


「――なっ」


 目の前に蹲っている2人を抜いて、自分に攻撃してくるとは思わなかった様で呆気なく僕の爪で肩を切られます。


「うぎゃ~何かが――」


 深夜と言うほど遅い時間では無いですが、近所迷惑ですよ!


 僕は苦痛に喘いでいる3人の首にキックして意識を刈り取ると、階段を駆け下り主人を探します。確かに階段を下りていった筈ですが、厨房や、どの部屋を探しても見当たりません。


 逃げられましたか……。


 意識を失っているミカちゃん達を置いて、宿から出る訳にもいかず、僕は部屋に戻り皆が起きるのを待つ事にします。


 どの位時間が経ったでしょうか?


 まだそれ程時間は経過していませんが、宿屋の周囲が騒がしくなります。


 僕が壁際に移動し、外の様子を窺っていると――。


「賊はこの宿だ! 逃げられぬ様に周囲を囲め!」


 そんな声が聞こえてきますが、移動する音は鎧が擦れる音からすると騎士か、それと同等の装備を着用しているようです。


 賊は宿屋の主人ですよ!

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