子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第96話、エルフと砂漠の明るい未来

「此度の事、本当に有難う御座いました。お陰さまで砂漠の国建国以来初となる湖をも持つ事が出来、民達も喜んでおります」


 ビックウッドローズの討伐と僕の不注意から作ってしまった湖の事で、ジェニファー王女から深々とお辞儀をされますが、そんなお礼はいりませんよ。


 僕達は冒険者としての仕事を行っただけですから。湖の事は……1歩間違えれば大惨事になりえる僕の失敗でしたからね。


「お礼は依頼の報酬だけでいいにゃ」


「妾たちこそ勝手に正門の前にあんな大きな湖をこしらえてしまったのだ。お礼を言われるいわれは無い」


「そうですよ、私達こそエルフから――ごめんなさい」


 つい口が滑ったとでも言うように、エリッサちゃんが謝ります。


 道に迷ってこの地に来たのではなく、エルフからこの国の調査を依頼された事を、謝罪を交えながらフローゼ姫が説明しました。


「妾達が道に迷ったのは確かなのだが、ルフランの大地で千年狐殿に道を聞き、川に出た所でエルフと遭遇。招待されアルフヘイムに赴くとこの国の人間が大樹に火を放った場面に遭遇したのだ。――何故、砂漠の民達が木々を欲したのか? 何故、エルフの力を必要としたのか? それの調査を長から依頼されていた。エルフの事、黙っていてすまなかった」


 1国の王女が真摯な姿で謝罪をすると、ジェニファー王女もギルマスも――。


「そうでしたの。でも皆さんがこの街の為にビックウッドローズを討伐してくれた事にかわりはありませんわ。感謝こそすれ、エルフの事を怒るのは――むしが良すぎですわね」


 微笑みながらジェニファー王女が、謝罪を受け入れてくれました。


「エルフで事情を聞いた上で、此度の討伐を請け負ってくれたのです。全ての元凶を退治して貰って、偶然にしても新たな水源まで築いてくれた勇者殿たちを攻める事など出来ないわ」


 ギルマスもジェニファー王女と同じく許してくれます。


 問題は僕達の動向を探る為にエルフが後を追ってきた事でしょうか? ビックウッドローズに襲われ人数を減らしたキャデナさん達が、砂漠の民達の事情を長に説明しエルフ達がそれをどう判断するのかで今後の動きも変わってきます。


 エルフ絡みの件は、エルフからの使者が来るまで様子見となります。


 その後、討伐報酬をギルマスから渡されますがそれをギルド貯金に充ててもらい、ラクダ3頭もここを旅立つまでは使用する事が無い為に、お城で預かって貰う事にしました。


 エルフからの使者がやってくるまでは身動きが取れませんね……。でもアルフヘイムからここまでは歩いて1日の距離です。そう遅くならない内に何らかのアクションは起こるでしょう。


 そう思っていましたが、3日経っても、4日経過してもエルフからの使者はやってきません。どうしたんでしょうか? 流石に僕達もアンドレア国に帰らなくてはいけません。いつまでも砂漠の民やエルフに構っていられる訳では無いので、皆でどうするか宿の部屋で話し合っていると――。


 ドアが強くノックされます。


 この展開、何か嫌な感じですね……。


 皆で顔を見合わせ、頷き合うとミカちゃんがゆっくりドアを開きます。するとドアを開けた先に立っていたのは……。


「お待たせしたのじゃ、迷い猫殿!」


 エルフの長でした。


 エルフの使者がやってくると思っていた僕達も流石に、エルフで一番偉い人の登場に目が点になります。


「何でエルフの長がここに来ているんでしょう?」


 僕が尋ねると……。


「今回の件で、アルフヘイム内で揉めに揉めたのじゃ。砂漠の民が行った事のあらましはキャデナから聞いたのじゃ。納得は出来ずとも理解は出来る。じゃがシャラドワの件で、昔追放した者を許す勢力と認められない勢力で争いが起こったのじゃ。シャラドワが魔王の手先に成りえないのであれば、彼のものを許し、砂漠の民と国交を交わしても良いのではないか? そう皆に提案したのじゃが……年寄り連中が頑として首を縦に振らなかったのじゃ」


 エルフは長が一番年寄りではなく、長はエルフ達全員の代表者で長の上には長老衆という1000年をも生きた生き字引がいて、古くからの仕来りに煩く昔、長がギルマスをアルフヘイムから追放したのもその長老衆の意見を汲み取ってのものだったのだとか……。


 1000年を生きるとか本当に人間ですか?


 あ、エルフですか――。


「丸3日掛けて若い連中とスヴァルトアールヴヘイムの皆をも巻き込み、長老衆の反対意見を押さえ込む事に成功した。そこでの条件が、迷い猫殿の意見を取り入れる事なのじゃ。率直に聞くが、シャラドワ・ドラウは魔王の手先になるだけの力は有るか? 否か?」


 なんでそれを僕に尋ねるのか分りかねますが、ギルマスの魔力ではCランクの魔物までが限界です。僕が思ったままを話すと――。


「それを聞いて安心したのじゃ。魔王の手先になるものは暗黒の魔法を使い、Aランクの魔物をも一撃で消滅させるという。シャラドワの魔力ではそれは無理じゃ。なれば長老衆も納得してくれるのじゃ」


 暗黒魔法で消滅ですか……あれ?


 僕は心に引っ掛りを覚えましたが、きっと気のせいですね。


 キャデナさん達はあの後、半日でアルフヘイムに帰り着き事情を説明。その後3日掛けて話し合い、船を使ってこの地に長が自らやってきたらしく湖には僕達も乗った船が浮かんでいました。


 この地に湖が出来ただけでも珍しいのに、船がやってきた事で砂漠の民も一目見ようと観光地の様に人だかりが出来ています。


 宿屋での会談の後、長を連れお城へ赴きジェニファー王女とギルマスとのお話し合いの後、一旦長がアルフヘイムに戻るというので皆で湖まで見送りにやってきました。


「それでは2日後にまた来るのじゃ。船の話と黒い油の話はその時に詰めるとするのじゃ」


 そういい残し、長を乗せた船は湖から川へ向かって進んでいきました。


 長と久しぶりに会ったギルマスは、最初は硬い表情を崩しませんでしたが、長からの謝罪の言葉を投げかけられ、涙腺が破裂した様に泣き出した姿が印象的でした。


 長く続いたエルフとギルマスの確執もこれで一安心ですね。


 長老衆に僕の意見を報告後、正式に和平の為の調印式を行うと言っていました。


 僕達一行もギルマスもジェニファー王女の表情も晴れやかで、今後のお互いの発展が期待できそうですね。


 軽く話しただけですが、長からこの湖の周辺を再生した緑化の魔法を大樹の周りでも使ってくれないかとお願いされたので、アンドレア国に向け旅立つ前に一度立ち寄る事になっています。


 まずは調印式までは、砂漠の国に滞在です。


 湖が出来た事で上空の空気が変わり、砂漠の頃よりも水分を含んだ空気を吸い込みながら皆で小さくなっていく船を見送りました。

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