子猫ちゃんの異世界珍道中
第89話、砂漠の民は一つの家族
お城は風通しがよく、空気が篭らないようにどの部屋も、見る気になれば通路から覗ける作りになっています。
ジェニファー姫が先頭を歩き談話室までの道すがら説明してくれます。
「ここは年中気温が高いですから、こんな作りにしないと暑さで倒れてしまうんですの。寝室以外は全て開放的な空間になっておりますわ」
来訪した客人を案内するにしても、隠し事は無いというアピールにも使われているそうです。
エルフを虐殺した砂漠の民の王家と聞いて、若干構えていた部分がありましたが、それも霧散してしまう程に開放的な人達に見えます。
時々すれ違う使用人の女性達も、ジェニファー王女とすれ違う度に笑顔で冗談を交しあっています。
なんでしょう。
この違和感は……。
使用人ですら友達の様に接する様子を窺いながら、僕達一行は談話室に到着しました。
部屋は勿論外から丸見えです。
「ふっ、驚かれたでしょう? この国は元々1つの家族だったのです。私達の祖先はルフランの大地とこの砂漠をラクダと山羊を伴い遊牧して彷徨う遊牧民だったのです。最終的に拠点を定め、この地に永住する事になった様ですが」
使用人との距離感が無いのは、全ては遊牧民時代に1つの家族だった事の名残からだったようです。
使用人との距離感が友達や家族のそれだった事に、フローゼ姫も驚いていましたが、この国の成り立ちを聞き、さもありなんと思った様です。
「早速だがジェニファー王女。次回のビックウッドローズが現れた時に、それを討伐してくれる事になった勇者殿の一行を紹介しよう」
「――冒険者の方々では無く、勇者様ですの?」
ジェニファー王女が困惑するのも当然です。
勇者として紹介された僕達も、何故そう呼ばれたのか耳を疑ったのですから。
「ああ。間違いない。アルフヘイムに伝承として残っていた異世界からやってきた勇者殿とその一行だ」
「みゃぁ~!」
僕は勇者じゃないよ!
そう伝えますが、ギルマスは妖艶な微笑みを湛えながら説明し出します。
「種族戦争の折、エルフは絶滅の危機に瀕した。それを救ったのが異世界からやって来た勇者とその仲間達だった。勇者の能力は――ご自身が良く理解しているのだろう?」
確かに僕が認めた人だけが、魔石を食べれば魔法を覚えます。
でも僕は勇者ではありません。
僕は子猫ちゃんです!
僕の考えている事をミカちゃんが解説してくれます。
「子猫ちゃんは、子猫ちゃんにゃ。勇者様なんていう偉い人とは違うにゃ」
エルフからすれば類似の能力を持っているだけで、勇者認定されている様なので、そこの所ははっきりさせましょう。
「ジェニファー。この異世界の勇者殿は謙遜されているようだが、勇者殿の力を借りればビックウッドローズの討伐も可能と考える。アンダー王の事は無念だったが……これで助かる」
勇者云々の話を飛ばして、討伐の話になりました。
「うふふ。シャラドワお姉様は相変わらずせっかちですわね。皆さん勇者認定をされるのは迷惑そうですわよ? それに自己紹介を先にして頂けませんと私、何と言ってお呼びしていいのか分りませんわ」
ギルマスよりずっと年下の王女様の方が、余程しっかりしていますね。
「あぁ、すまない。アンダー王の無念を晴らせると思ったら気が焦ってしまった様だ」
バツの悪そうな面持ちでギルマスが謝罪します。
「会話の途中ですまないが、先に妾達から紹介をさせて貰おう。妾はアンドレア王国王女のフローゼ・アンドレアだ」
さすが王女様ですね。
毅然とした態度で名乗りをあげます。
「私はミカですにゃ。そしてこの子が子猫ちゃんにゃ!」
「みゃぁ~!」
ミカちゃんも負けじと胸を張って紹介します。
ですが……いえ。なんでもありません。
「私はアンドレア国のサースドレイン子爵が長女エリッサ・サースドレインですわ。そしてこの子は子狐さんですわ」
「アーン」
僕達の紹介を興味深そうに見つめていたジェニファー王女は、一通りの挨拶が終わるのを待って口を開きます。
「ご丁寧な挨拶関心いたしましたわ。私はこの砂漠の民の国の王女でグラッセル・ジェニファーですわ。私は王女と言いましても、この街しか民がいない小さな国の王女に過ぎません。あまり畏まらないで頂けて助かりますわ」
「国が小さいというのは、妾の国も左程変わらん。こちらこそ堅苦しい会話よりは気さくな方が助かる」
フローゼ姫のは確実に謙遜ですね。
アンドレア国は周りの国と比べれば小国でも、大きな街をいくつも持つ立派な国です。
各自の自己紹介も済んだ所で、ギルマスが声を出します。
「さて紹介も終えた事だし、討伐の流れを説明しよう」
僕達はギルドで既に打ち合わせ済みです。
ギルマスはこれからの流れを、ジェニファー王女に説明しています。
ギルマスが説明している間、その様子を窺っていましたが部屋の外からパタパタと駆ける足音が聞こえて皆はその発生源に視線を投げます。
足音は僕達がいる談話室の前で止り、その姿を現しました。
「お姉様、お客様が来ているって聞いてきました!」
溌剌として今にも踊りだしそうな程に元気な少年が、談話室に飛び込んできます。
その少年の後からパタパタと通気性の良さそうな麻のメイド服を来た少女が追ってきました。
「坊ちゃまお客様にご迷惑ですよ」
メイドの注意を聞く耳持たずで、少年は声をあげます。
「そなた達がこの街を守ってくれる冒険者か! だが父さまより強そうには見えないぞ!」
見た感じまだ5歳位の少年は僕達を指差しながら、そんな失礼な事を言ってきます。
「バルザー、失礼だぞ! 仮にも勇者殿に対し――」
ギルマスがこの少年を窘めます。
ですが勇者と聞き意表を付かれたのか、ぽかんとした表情を浮かべます。
「すみません。この子はバルザーと言いまして、この国の王子ですの」
王が無くなった場合は、王子がその政務を引き継ぐと聞きましたが……。
まさかこの子供じゃないですよね?
お婆さんの家の近所の子供に、雑に撫でられ、尻尾を掴まれた記憶が思い出されます。
「みゃぁ~?」
この子が王様の代わりをするの?
そう問いかけると……。
「勇者殿、流石に幼少の身で政務は無理じゃ。今この国の政務を取り仕切っているのはジェニファー王女なのだ」
ギルマスが苦笑いを浮かべ説明してくれます。
なるほど……それで討伐の話とか僕達と自己紹介を行ったんですね。
ジェニファー王女はエリッサちゃんと歳は同じ位です。
若くしてそんな立場になったジェニファー王女を僕達は、憐憫の情を込めて見つめました。
ジェニファー姫が先頭を歩き談話室までの道すがら説明してくれます。
「ここは年中気温が高いですから、こんな作りにしないと暑さで倒れてしまうんですの。寝室以外は全て開放的な空間になっておりますわ」
来訪した客人を案内するにしても、隠し事は無いというアピールにも使われているそうです。
エルフを虐殺した砂漠の民の王家と聞いて、若干構えていた部分がありましたが、それも霧散してしまう程に開放的な人達に見えます。
時々すれ違う使用人の女性達も、ジェニファー王女とすれ違う度に笑顔で冗談を交しあっています。
なんでしょう。
この違和感は……。
使用人ですら友達の様に接する様子を窺いながら、僕達一行は談話室に到着しました。
部屋は勿論外から丸見えです。
「ふっ、驚かれたでしょう? この国は元々1つの家族だったのです。私達の祖先はルフランの大地とこの砂漠をラクダと山羊を伴い遊牧して彷徨う遊牧民だったのです。最終的に拠点を定め、この地に永住する事になった様ですが」
使用人との距離感が無いのは、全ては遊牧民時代に1つの家族だった事の名残からだったようです。
使用人との距離感が友達や家族のそれだった事に、フローゼ姫も驚いていましたが、この国の成り立ちを聞き、さもありなんと思った様です。
「早速だがジェニファー王女。次回のビックウッドローズが現れた時に、それを討伐してくれる事になった勇者殿の一行を紹介しよう」
「――冒険者の方々では無く、勇者様ですの?」
ジェニファー王女が困惑するのも当然です。
勇者として紹介された僕達も、何故そう呼ばれたのか耳を疑ったのですから。
「ああ。間違いない。アルフヘイムに伝承として残っていた異世界からやってきた勇者殿とその一行だ」
「みゃぁ~!」
僕は勇者じゃないよ!
そう伝えますが、ギルマスは妖艶な微笑みを湛えながら説明し出します。
「種族戦争の折、エルフは絶滅の危機に瀕した。それを救ったのが異世界からやって来た勇者とその仲間達だった。勇者の能力は――ご自身が良く理解しているのだろう?」
確かに僕が認めた人だけが、魔石を食べれば魔法を覚えます。
でも僕は勇者ではありません。
僕は子猫ちゃんです!
僕の考えている事をミカちゃんが解説してくれます。
「子猫ちゃんは、子猫ちゃんにゃ。勇者様なんていう偉い人とは違うにゃ」
エルフからすれば類似の能力を持っているだけで、勇者認定されている様なので、そこの所ははっきりさせましょう。
「ジェニファー。この異世界の勇者殿は謙遜されているようだが、勇者殿の力を借りればビックウッドローズの討伐も可能と考える。アンダー王の事は無念だったが……これで助かる」
勇者云々の話を飛ばして、討伐の話になりました。
「うふふ。シャラドワお姉様は相変わらずせっかちですわね。皆さん勇者認定をされるのは迷惑そうですわよ? それに自己紹介を先にして頂けませんと私、何と言ってお呼びしていいのか分りませんわ」
ギルマスよりずっと年下の王女様の方が、余程しっかりしていますね。
「あぁ、すまない。アンダー王の無念を晴らせると思ったら気が焦ってしまった様だ」
バツの悪そうな面持ちでギルマスが謝罪します。
「会話の途中ですまないが、先に妾達から紹介をさせて貰おう。妾はアンドレア王国王女のフローゼ・アンドレアだ」
さすが王女様ですね。
毅然とした態度で名乗りをあげます。
「私はミカですにゃ。そしてこの子が子猫ちゃんにゃ!」
「みゃぁ~!」
ミカちゃんも負けじと胸を張って紹介します。
ですが……いえ。なんでもありません。
「私はアンドレア国のサースドレイン子爵が長女エリッサ・サースドレインですわ。そしてこの子は子狐さんですわ」
「アーン」
僕達の紹介を興味深そうに見つめていたジェニファー王女は、一通りの挨拶が終わるのを待って口を開きます。
「ご丁寧な挨拶関心いたしましたわ。私はこの砂漠の民の国の王女でグラッセル・ジェニファーですわ。私は王女と言いましても、この街しか民がいない小さな国の王女に過ぎません。あまり畏まらないで頂けて助かりますわ」
「国が小さいというのは、妾の国も左程変わらん。こちらこそ堅苦しい会話よりは気さくな方が助かる」
フローゼ姫のは確実に謙遜ですね。
アンドレア国は周りの国と比べれば小国でも、大きな街をいくつも持つ立派な国です。
各自の自己紹介も済んだ所で、ギルマスが声を出します。
「さて紹介も終えた事だし、討伐の流れを説明しよう」
僕達はギルドで既に打ち合わせ済みです。
ギルマスはこれからの流れを、ジェニファー王女に説明しています。
ギルマスが説明している間、その様子を窺っていましたが部屋の外からパタパタと駆ける足音が聞こえて皆はその発生源に視線を投げます。
足音は僕達がいる談話室の前で止り、その姿を現しました。
「お姉様、お客様が来ているって聞いてきました!」
溌剌として今にも踊りだしそうな程に元気な少年が、談話室に飛び込んできます。
その少年の後からパタパタと通気性の良さそうな麻のメイド服を来た少女が追ってきました。
「坊ちゃまお客様にご迷惑ですよ」
メイドの注意を聞く耳持たずで、少年は声をあげます。
「そなた達がこの街を守ってくれる冒険者か! だが父さまより強そうには見えないぞ!」
見た感じまだ5歳位の少年は僕達を指差しながら、そんな失礼な事を言ってきます。
「バルザー、失礼だぞ! 仮にも勇者殿に対し――」
ギルマスがこの少年を窘めます。
ですが勇者と聞き意表を付かれたのか、ぽかんとした表情を浮かべます。
「すみません。この子はバルザーと言いまして、この国の王子ですの」
王が無くなった場合は、王子がその政務を引き継ぐと聞きましたが……。
まさかこの子供じゃないですよね?
お婆さんの家の近所の子供に、雑に撫でられ、尻尾を掴まれた記憶が思い出されます。
「みゃぁ~?」
この子が王様の代わりをするの?
そう問いかけると……。
「勇者殿、流石に幼少の身で政務は無理じゃ。今この国の政務を取り仕切っているのはジェニファー王女なのだ」
ギルマスが苦笑いを浮かべ説明してくれます。
なるほど……それで討伐の話とか僕達と自己紹介を行ったんですね。
ジェニファー王女はエリッサちゃんと歳は同じ位です。
若くしてそんな立場になったジェニファー王女を僕達は、憐憫の情を込めて見つめました。
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