子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第67話、迷い人

 旅をしながら帰ると決ったものの、方向が分りません。


「妾は王都が太陽の昇る方向にある故、そちらに向かえば良いと思うぞ」


「子爵領も同じですわ」


 そんな2人の会話から太陽を目安にして歩き出します。


 1時間も歩くと、真上にあった太陽は、僕達の進行方向に傾いていました。


「むっ、これはいかん。方向が逆だ!」


 お日様から割り出した時間は、もうお昼を過ぎています。


 お腹も空いて来た頃に、また戻ると告げられ……。


「お腹が空いたにゃ」


「みゃぁ~」


「少し休みたいですわ」


 3人の意見を耳にしたフローゼ姫は、


「う、うむ。仕方無いのぉ。休息とするか」


 押し切られる様に休憩を取る事にしたようです。


 でも見渡す限り、一面花畑で食べ物は何もありません。


 せめて魔石でもあれば、空腹を紛らわす事も出来るのですが……。


 子爵城に着替えと一緒に置いて来ました。


 お花畑の中で動いているのは、虫。蜂。僕達だけです。


 僕が子猫ちゃんでも虫は食べませんよ!


「喉が渇いたな……」


 フローゼ姫が愚痴を零しますが、ここに小川はありません。


 そんな重い鎧を着ているからですよ。


 僕達と比べて、倍以上の量の汗をかいています。


 大丈夫なのでしょうか?


「みゃぁ~?」


「子猫ちゃんが、そんな鎧を着て暑くないにゃ? と言ってるにゃ」


 ミカちゃんが、僕の話を通訳してくれます。


 フローゼ姫は、ハンカチで汗を拭いながら――。


「勿論、暑いに決っておろう! だが騎士たるものこれしきは我慢出来るのだ!」


 そんな大汗かいて言われても、説得力に欠けますよ。


「ここで休んでいてもお腹は膨れないにゃ。先に行くにゃ」


 ミカちゃんが出発するように提案します。


 それを受け、皆も同じ事を思ったようで、歩き始めます。


 でも一度通った道です。


 何も無いのは分っています。


 希望が無いと人は余計に疲れる様で……。


 最初に僕達が落ちてきた場所まで戻ると、フローゼ姫が休憩を提案してきます。


 僕には身分とか関係有りませんが、他の2人は違います。


 フローゼ姫の提案を受け入れ、休憩する事になりました。


 フローゼ姫が何度も深呼吸をして息を整えている間、僕は落ちてきた穴を見つめると――。


 穴の開いていた場所の煙がどんどん薄れ、最後には消滅しました。


「みゃぁ~!」


 僕は皆に知らせます。


 皆、僕の目線の先を追います。


「あっ」


「にゃ!」


「ふっ」


 3人共、穴が消滅する瞬間を見て絶句しました。


「きっと子爵領にあった穴で起動して、部隊が全員通った位の時間で切れる様になっておったのだろうな」


 恐らく、あの森の穴の側には魔道具が隠されて居たのだろうと、フローゼ姫が説明してくれます。


 どっち道、こちらから行けないのでは、あっても無くても同じですね。


「どうする? まだ夕方には早いが、ここで野宿するか?」


 フローゼ姫の疲労はかなり激しい様です。


 僕達はまだ余裕がありましたが、お姫様に無理をさせて病気にでもなったら大変ですから。


 今晩はこのまま、ここで野宿が決定しました。


「みゃぁ~」


 僕が何か食べられる物が無いか探してくると伝えると、


 ミカちゃんが、エリッサちゃんと、フローゼ姫の様子を見て――。


「ごめんにゃ。子猫ちゃん。私も行きたいけど無理にゃ」


 そう言って謝ってくれます。


 大丈夫ですよ!


 僕にも分ります。


 落ち込んでいるエリッサちゃんに、疲労困憊のフローゼ姫を置いていって何か問題が起きたら大変ですからね。


「みゃぁ~!」


 僕は大丈夫だからと言葉をかけます。


「有難うにゃ。子猫ちゃん」


 ミカちゃんは申し訳無さそうな表情で、お礼の言葉をくれました。


 さて、まだ足を踏み入れていない方向に行ってみましょう。


 僕は1人でお花畑を駆けて行きます。


 僕がこの世界に来た時は、直ぐに小川があって魚も居ましたが……。


 ここはどうなんでしょう?


 さっきまではフローゼ姫達が一緒だったので走れませんでした。


 でも1人なら走る事が出来ます。


 とにかく飲み水と食べ物を探さないと……。


 しばらく走ると、正面から見た事がある生き物が飛んできます。


 僕がミカちゃんと会う前に遭った魔物です。


 今の僕は、以前の僕とは違いますよ!


 走りながら起用に手を翳し、爪を飛ばすと前方から接近してきた大きな蜂5体を一瞬の内に切り裂きます。


 絶命し落下した蜂の魔石を、僕は爪で切り裂いて取り出します。


 狩り用に僕の首には小さなポーチが掛けられています。


 それに魔石を入れていきます。


 取り敢えず5個確保です。


 僕は、道に迷わないように曲がる所の花を切り裂いて目印を付けました。


 どんどん先に進みます。


 すると今まで見た事の無い、生き物が現れます。


 これはお婆さんの家にあったテレビで見た動物に似ています。


 頭に2本の角を生やし『ブモォー』と雄叫びを上げますが、テレビでは4本足で立っていたのに、2本足です。


 僕は足元を潜り抜ける刹那――お得意の攻撃で足を切り裂きます。


 足を切られた動物は、やっとテレビと同じ態勢になりました。


 尚も、鉄の武器を振りかざす動物の背中に飛び乗り、首に向かって爪で切り裂きます。


 呆気なく倒れた動物は、動かなくなりました。


 僕はその動物の胸を切り裂くと。中から魔石を取り出します。


 まぁまぁの大きさですね。


 流石に死体は重くて運べないので、このまま残します。


 僕は夕方まで水場を探しましたが、見つける事が出来ませんでした。


 一度、皆の所に戻りましょう。


 僕は来た道を、駆け足で戻ります。


 すると――僕が倒した動物の周囲に、野生の犬? でしょうか?


 犬に似ていますが、色が金色です。


 その子供が7匹も集まって、僕の獲物を食べています。


 僕が近づくと、不思議な物を見るような、きょとんとした表情を浮かべます。


「みゃぁ~?」


 それは僕が倒した動物ですよ。と伝えると――。


 『アーン、アーン』と一斉に鳴きだします。


 どうしたのでしょう?


 全く言葉が分りません。


 すると背後の花がカサカサ擦れる音がして後を見ると、


 2mはありそうな大きな大人の犬? が現れました。


 僕は警戒します。


 すると――。


『珍しい迷い人とは……何百年ぶりだな』


 この大きな犬? の話す声は僕にも分ります。


『君は誰だい? それとこの動物は僕が倒した獲物だよ』


 僕は動物の権利を主張します。


『それはすまない事をした。腹を空かせた子供達の食事を探しておったら、こんな所にミノタウロスの死体があるでは無いか! 都合が良かったんで子供達に食わせてやっていたのだ。それにしても珍しい、そなた何処から来た?』


 僕の誰何には答えずに、獲物を横取りした理由を話します。


 それにしても迷い人とは何でしょう?


 聞いてみましょう。


『僕は子猫ちゃんです。お婆さんの家から、この世界にやって来て、今はミカちゃんと一緒に旅をしているよ。所で迷い人とはなんだい?』


『旅をしているとな……それは愉快。まるで大昔の勇者の様では無いか。ぐはははは。迷い人とはエルフが作ったゲートを通り、稀に現れる異世界の住人の事。お主もそうなのだろう? その魔力と力を見れば分る』


 僕には良く分りませんが、この大きな犬? は僕の様な人を知っている様です。


『ここは僕の居た場所とは違います。僕の様な人が過去にもここに来ていたんですね』


 訳知り顔の犬? に尋ねてみましょう。


『やはりな。お主の様な迷い人は稀にやって来る。我が会った者が全てでは無いがな。それで、子供達の食事はこのままでいいのか?』


 流石に、美味しそうに食べている子犬? に駄目とは言えません。


『少しは残してくれると助かるんだけれど……それと水場が何処にあるか教えて欲しいかな?』


 僕がそう伝えると、


『すまぬな。我も久しぶりの子育てでな……ぐははは。子供達も全部は食べられぬ。余ったら我が運んでやろう。』


 それは助かります。


 これでミカちゃん達の所へ連れて行ってガブリなんて起きなければですが。


 その後、子犬? 達と、この大きな犬? に水場を教えてもらい、ミカちゃん達のいる場所に戻ってきました。


 皆、僕が連れている、大きな犬? と子供達を見て驚いています。





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