子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第58話、オードレイク伯爵の居城

 門を攻略した僕とミカちゃんは暗い路地を駆け出します。


 目指すは街の何処からでも見る事が出来る、高台に聳え立つ尖塔です。


 日が暮れてだいぶ時間も過ぎた事で、明かりが点いている家は少なく、僕達の足音が微かに響きます。


 それでも人が走る足音よりは煩くはありませんよ。


 街の見周りをしている兵もすべて門に集まっていた様で、すれ違う人は誰一人として居ません。


「こんなに静かだとかえって不気味にゃ」


「みゃぁ~」


 そうですね。僕もミカちゃんに同意します。


 小半時《30分》も経たない内に城壁が見えてきました。城壁の前には堀があり城門へと続く橋は上がっています。


「あの堀が邪魔で、街壁みたいに飛び越せないにゃ」


「みゃぁ~」


 僕にいい手があります。


 幸い橋の手前には兵の姿はありません。僕は堀の手前で立ち止まり手を上がっている橋に肉球を向けます。


 僕の掌が黒く光ると、次の瞬間には黒い玉は橋を包み込みます。


 バン、と大きな音が鳴り響くと門は木っ端微塵に砕け飛びました。


 次は門ですね。


 僕が再び手を翳すと――。


「子猫ちゃん、危ないにゃ!」


 ミカちゃんが注意を促します。でも僕の手は既に黒く輝きだしています。


 シュッ、暗闇の中を何かが飛んで来る気配がします。


 僕はそのまま魔法を行使しました。刹那――僕の足元に矢が突き刺さり、バキン、と轟音を響かせ門が潰れます。


 門の補強に使われていた金属の板が丸まり転がると、堀に落ちていきました。


 門の内側に居た兵士達は、門が急に潰れ慌てています。


 矢を放てと叫ぶ声が聞こえます。


 僕はまだ薄っすらと青い光が身体を覆っていますが、念の為ミカちゃんに上掛けをしました。


 堀の向こう側にいる兵達が矢を番えて弓を引き絞ります。


 僕が姿勢を低くし跳躍の態勢を取ると――。


 矢を放とうとした兵達の頭上に稲妻が降り注ぎ、


 『ゴゴゴグワァーン』と耳を劈く轟音が鳴り金属を纏っている兵達へと流れていきます。


 兵達は皆武装していた為、橋の周囲にいた兵達は煙をあげ卒倒します。


「今のうちにゃ!」


 ミカちゃんが、僕が狙われているのを認め助けてくれた様です。


「みゃぁ~!」


 僕はミカちゃんにお礼を伝えると、堀を飛び越え門を潜ります。


 ミカちゃんも僕の後に続いて、掘りを跳躍してきます。


 僕は周囲を確認し、襲い掛かってくる兵がいないか探しますがあっという間に仲間が無力化されて足が竦んで動けないようです。


 こういう場合どうしたらいいのでしょう?


「無抵抗の人は放って置いていいにゃ」


 ミカちゃんがそう指示してくれたので、僕は首肯し開いていた扉から城の中へと侵入します。


 ミカちゃんの優しさに救われましたね。


 外にいた兵と違って城内に入ると、鎧を着た騎士が待機していました。


 騎士達は既に剣を手に持ち構えています。


 僕はすかさず手を翳し、前方にいる騎士達へと爪を発射します。


 爪は狙い違わず3人の騎士に命中し、うめき声をあげて倒れます。


 ミカちゃんは横から接近した騎士に手を翳し、足元を凍らせていきます。


 どこから湧いて来るのか、奥からガチャガチャ音がすると前方の角から大勢の騎士が押し寄せてきます。


「切が無いにゃ」


 ミカちゃんが愚痴を漏らします。


 僕は騎士団長を倒した魔法を現れた集団に使います。


 空中に燃え盛る石が出現すると、周囲が一気に明るくなります。


 次の瞬間――。


 『ゴゴゴゴゥー』と轟き騎士達へと降り注ぎ、石が当ると人は燃え出し、鎧は溶解します。


 大勢の騎士は断末魔を残し、消し炭となりました。


「子猫ちゃん……」


「みゃぁ~……」


 ミカちゃんが、何ともいえない面持ちを向けてきたので、僕はしおらしく小さく声音を漏らしました。


 今の騎士達の末路を目撃した兵、騎士が逃げ出します。


 逃げてくれるなら問題ないですね。


 僕達2人は逃げる兵達の足音を背中に聞きながら、目の前に見える階段を駆け上がります。


 何処に伯爵はいるんでしょうか?


「みゃぁ~」


「う~ん、分らないにゃ」


 ミカちゃんも分らないみたいです。


 階段を駆けていると、何かいい匂いが漂うフロアがあります。


 匂いに釣られた訳じゃ無いですが、2人でそちらに行ってみましょう。


 匂いの元は夕食を作った残りを温め直し、賄いにしていたコックやメイド達の食事の匂いでした。


 僕達が扉を開き中に飛び込むと、一瞬驚いた表情を見せますが、ミカちゃんを認めホッとした様子で、


「何だ驚かすなよ。伯爵様かと思ったじゃねぇ~か」


 そんな事を言われます。


「食事中に悪いにゃ。伯爵様は何処にいるのかにゃ?」


 ミカちゃんが尋ねると、伯爵様にばらすのかと聞かれました。


 僕達はそんな告げ口はしませんよ。


「用があって子爵領からやってきたにゃ」


 ミカちゃんが答えます。すると案内役の兵は何をやっているんだか、と小言を漏らした後。


「伯爵様なら最上階の書斎で、メイドとお楽しみの筈だぜ」


 そう教えてくれました。


 僕達はお礼を言って退室すると、また階段を駆け上がります。


 階段が途切れ、上には昇れない場所まで来たのでフロアを探索します。


 これだけの騒ぎが起きているのに可笑しいですね……人が居ません。


 僕達は一通り各部屋の扉を開け確認しましたが、結局誰とも会いませんでした。階を間違えたのでしょうか?


 最上階のテラスから上を覗きましたが、やはりここが最上階の様です。


「居ないにゃ」


「みゃぁ~」


 いったい何処にいるのでしょう……。


「下の階も探すにゃ!」


「みゃぁ~!」


 気合付けに元気な声でミカちゃんが告げます。


 僕もそれに同意し、また駆け出しました。


 この城は、階段を駆けてきた時に数えたフロアの数が4つだったので4階建てです。


 全部見て回れば見つかるでしょう。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品