子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第52話、子猫ちゃんVS騎士団長

 呆気に取られている騎士団長に子爵様が近づき、恐る恐る声を掛けます。


「騎士団長、オーガを倒したのはミカ殿1人では無く、この猫ちゃんもなのです」


 子爵様からそんな説明をされても納得が行かない騎士団長は、ミカちゃんが戦いたくないからそんな話をされていると思ったようです。声を荒げて苦情を伝えてきます。


「先程の戦いは見事であった。その上でミカ殿と戦いたいのだが、何故戦わぬ!」


 ミカちゃんはそんな事を言われても苦笑いしか出せません。僕が更に言い募ります。


「みゃぁ~!」


「煩い猫だ!」


 騎士団長は苛立ち短くそう言うと、僕を蹴り飛ばそうと足を振るってきました。でも、そんな遅い蹴りが僕に当る訳がありません。僕は悠々とそれをかわし、その刹那――足首を覆っている鋼鉄製の靴に切りつけました。


 ギャン、と甲高い音が鳴り響き2層ある内の1層の防御用の部位を綺麗に切り裂きます。


「――なっ」


 鳴り響いた音を聞き不思議に思ったのでしょう。自分の足首を直視すると、傷すら付いていなかった綺麗な銀色のブーツのプロテクターが綺麗に裂けているのを見つけ細い瞳を最大限に見開き驚いています。


「だから言っているにゃ。オーガを倒したのは二人でにゃ。それも殆どは子猫ちゃんがやったにゃ!」


 可愛く小さな唇を吊り上げ自慢気にミカちゃんが話すと、騎士団長は僕とミカちゃんを交互に見やり、吐息を漏らすと大笑いしだした。


「ふっ……はっはっは!」


「どうしちゃったにゃ?」


 ミカちゃんが急に大きな声を出して笑い出した騎士団長を訝しげに見ると、僕に聞いてきます。僕にも分りません。


「みゃぁ~みゃぁ~」


「子猫ちゃんも分らないにゃ」


 未だに笑い続けている騎士団長を、僕が目を細めて見つめていると、フローゼ姫が教えてくれました。


「騎士団長は、余程ご機嫌らしいな。強敵に会えた事に心から歓喜しているのであろう」


 エリッサ姫は、澄んだ青い瞳の上の眉を下げ、『仕方無い奴だ』と言葉を漏らします。


「いやぁ、すまんすまん。あまりに馬鹿げていると思ってはいたが、これを見せられれば、武人としての血が騒いでしまってな……」


 騎士団長はそう言うと、自分の足元を指差しニヤリと笑った。


「それでどうするにゃ、子猫ちゃんと戦うのかにゃ?」


 ミカちゃんが騎士団長を見上げながらそう台詞を投げかけると、


「勿論、やる!」


 全身に気合を漲らせ、騎士団長はそう短く宣言した。


 その言葉を聞きつけ、僕は先程ミカちゃんと対峙したフローゼ姫が開始時に着いた場所まで移動します。騎士団長も、ミカちゃんが魔法を発動させた場所まで来ると、フローゼ姫が開始の音頭を取るようで、中央へと歩き出しました。


 今日の天候は快晴で、風も無く、気温も温かいので日向ぼっこには丁度いい条件が揃っているのに、何で僕はこんな事をしているのでしょうか……。でもさっさと終わらせれば、いいだけですよね。


 フローゼ姫が中央へと到着し、片手を大空に向け振り上げます。そして、いよいよ開始の宣告がされます。


「はじめ!」


 フローゼ姫が片手を振り下ろした瞬間――『ざっ』と音だけを残し、20m離れていた騎士団長の姿が消え、どんな技を使ったのか既に僕を剣の間合いに捕らえていました。剣は刃先が上を向いている事からどうやら峰打ちの様です。
 袈裟懸けに振り下ろされた剣先を見切り、僕に当る刹那――横に飛びます。僕が小さい為に、勢い良く振り切られた剣は地面を穿ちます。


 次は、僕の番ですよね……僕は以前覚えた神速を使い、騎士団長の後ろへと回りこみます。僕の姿を見失った騎士団長が慌てて後ろを振り返りますが、既に魔法の態勢に入っています。


「――なっ!」


 騎士団長はまさか子猫の僕が魔法を使えるとは思ってもいなかったようで、口を大きく開け驚き短く声を漏らしました。


 僕は騎士団長の剣の柄部分目掛け爪を飛ばしますが『ギャン』と甲高い音が鳴り、爪は打ち下ろされてしまいました。咄嗟の反応でしょうけれどこの攻撃をかわすとは中々やりますね。


「ふぅ、今のはやばかったぜ! まさか猫が魔法を使うとはな――」


 苦笑いを浮かべながら嘆息した騎士団長はそんな事を語ってきますが、
 話の途中、使うとはな――の、――の間に横薙ぎに剣を振るってきます。僕はそれを軽々とかわし距離を開けると、すかさず手を掲げます。


「ほう、今度はどんな魔法だ? まさか同じって事は無いよな」


 愉快そうに瞳を輝かせそうのたまう騎士団長目掛け、僕は魔法を発動しました。上空から炎を纏った大きな石が複数落ちてくると、


「ちょ――ちょっと待て、それまともに当ったら死ぬから。俺」


 大汗をかきながら騎士団長は、自分に直撃する石に対し剣を振り上げます『ガッ』と鈍い音がした瞬間――剣は石に飲み込まれ激しく燃え出し、騎士団長は剣を手放し次々に押し寄せる石から逃げ出しました。


 石が全て落下した後の練習場にはまだ熱を持ったままの石がごろごろ転がっていて……辛うじて直撃を避けた騎士団長がぜいぜいと息を切らし仰向けに倒れていました。


 石の熱は観戦していた周囲にまで漂ってきています。


 その光景に呆気に取られ声を出せないフローゼ姫に代わり、ミカちゃんが大きな声で、


「勝負あったにゃ!」


 満面の笑みでそう伝えたのでした。



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