子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第50話、フローゼ姫との邂逅

 伯爵捕獲の日程も決まり、子爵も流石にここで隠し立てする事も出来ない。フェルブスターにミカちゃんを呼んで来るように伝える。




 ミカちゃんとエリッサちゃん、僕は庭園で紅茶を楽しんでいると、フェルブスターさんが来てミカちゃんと僕に子爵様の執務室まで来るように告げられます。


「なんの話かにゃ?」


 ミカちゃんは恐らく伯爵の件だろうと当りは付けていましたが、小首を傾げてフェルブスターさんに確認します。すると――。


「王都から騎士団長様、第一王女様がお見えになりオーガ討伐の英雄に是非御会いしたいと申しておりました」


 フェルブスターさんは僕達の前を歩きながらそう教えてくれます。


 ミカちゃんは、騎士団長さん? と呟くと首を傾げましたが、次の第一王女様と聞いて、足を止めてしまいます。僕がミカちゃんを見ると、緊張して顔が強張っているのがわかりました。


「みゃぁ~」


 僕がどうしたの? と問うと……。


「子猫ちゃん、この国で一番偉い人の娘さんにゃ」


 声を震わせそう教えてくれます。でも悪い事をした訳でも無いのに緊張し過ぎですよ。僕はミカちゃんを勇気付けます。


「みゃぁ~!みゃぁ~!みゃぁ~!」


 僕の言葉を受けてミカちゃんは、


「そうだにゃ、普通にしていればいいにゃ!」


 そう言ってまた歩き出しました。僕達の様子を見て取ったエリッサちゃんも後ろから付いて来ています。きっと偉い人が来ていると聞いて挨拶をしなければと、貴族の令嬢らしく思い立ったのでしょう。


 屋敷の中に入り執務室の前まで来るとフォルブスターさんがドアをノックします。直ぐに中から応答があり扉を開くと――。


「おぉ、そなたがオーガを討伐した英雄ど……の……サースドレイン子爵これはいったいなんの戯れだ!」


 扉が開くと、目の前に躍り出た銀髪に澄んだ青の瞳を持つ少女が眼を見開いて手を差し出してきたのだが、発する言葉の途中で首をかしげ子爵様を怒鳴りつけた。


「いえ、決して戯れなどではありません……彼女がオーガを討伐した本人で御座います」


 フローゼ姫は訝しげに子爵の方に向けていた首をミカちゃんへと戻します。彼女が口を開く前に――ミカちゃんから口を開きました。


「オーガを討伐したのは子猫ちゃんと2人でにゃ!」


 その発言を正面で受け、フローゼ姫の眉がぴくりと上がります。


「ほぉ、妾を前にして臆する事なく声を上げられるか……くく」


 愉快そうに含み笑いを浮かべたフローゼ姫は、ミカちゃんでは無く後ろに立っている長身で巌の様な青年に聞きます。


「騎士団長、お前はどう見る?」


 眉一つ動かさずに騎士団長が告げます。


「身体つきだけでは分らぬ。獣人である事から敏捷性に優れてはいるのだろうけれどな」


 吐き捨てるようにそう言います。


 すると、僕達の後ろにいるエリッサちゃんが前に出てきて、ドレスの裾の左右を両手で摘むと右足を左足の後ろに引きそのまま腰を下ろし、フローゼ姫と騎士団長に挨拶をしました。


「お目に掛かれて光栄ですわ。私はサースドレイン子爵の長女でエリッサと申します。後ろで拝聴しておりましたが、オーガを討伐した英雄様をお呼びだとか――オーガを討伐されたのはまさしくここにいるミカさんと子猫ちゃんに相違ありませんわ」


「ほう、そなたが……子爵が大事にしておる理由も分ると言うもの。挨拶が遅れて済まぬな。アンドレア王国が第一王女、フローゼ・アンドレアである。そう硬くなる必要は無い。友人に接するように接してくれ」


 フローゼ姫がそう微笑み挨拶を交わすと、その後ろの騎士団長からも挨拶をされた。


「俺は第一騎士団長のボルグ・ハイネだ。宜しくな。可愛いお譲ちゃん達」


 強面顔の奥の瞳を少し和らげ、そう挨拶したのだが、直ぐに話題はオーガ討伐の英雄の話に戻った。


「それで、その獣人の娘がオーガを討伐した英雄だという事だが……」


 フローゼ姫がミカちゃんを素通りしてエリッサちゃんを見つめながらそう聞くと、


「お初に御目にかかりますにゃ。オーガを討伐したミカと、この子が子猫ちゃんですにゃ」


「みゃぁ~!」


 ミカちゃんが足元にいた僕を一度しゃがんで抱え上げ、フローゼ姫に挨拶しました。僕もそれに続きます。


「ほう、やはりそなたが英雄殿で間違いないと?」


 フローゼ姫は静かに両手を腰に当て威嚇しながら問いかけた。


「そうですにゃ!」


「みゃぁ~!」


 僕達にそんな威嚇は通用しませんよ。負けずに言い募ります。


「ふふ、はっはっは――」


 何が面白いのか、フローゼ姫が笑い出した。


「何が可笑しいのかにゃ?」


 不思議そうにミカちゃんが尋ねると、


「すまない。あまりにも突拍子も無い話を聞かされた様に思ったのだが、妾の威圧に全く動じないその度胸――信じよう」


 そう言って僕達に頭を下げました。偉い人って頭下げないとお婆ちゃんが言っていましたが、このフローゼ姫も子爵様も違うみたいです。きっといい人なんでしょうね。


「信じてくれて良かったにゃ」


「これから妾相手に一戦してもらおうか!」


 ミカちゃんもホッと嘆息しましたが、次のフローゼ姫の提案で一瞬体を強張らせました。


「お待ち下さい。何故そんな話になるのでしょうか?」


 エリッサちゃんがそこに割って入り、理由を伺います。


「そんなの決っておろう。武人は強い者と戦いたいからだ!」


「――っ」


 理由を聞いたエリッサちゃんの息が詰ります。


「エリッサちゃん、大丈夫にゃ。お姫様分りましたにゃ。でも室内では出来ないから、お外でやるにゃ」


 ミカちゃんは、エリッサちゃんを見つめ安心させると、フローゼ姫に向き合い、試合を受けました。


 僕はミカちゃんを信じていますから心配はしていませんが、子爵も、エリッサちゃんも、騎士団長もフェルブスターさんでさえも心配そうに見守っていました。


「子爵、どこか戦える場所はあるか?」


 城の中には花壇があった場所の他に、騎士達が訓練出来る場所、いつもミカちゃんとエリッサちゃんが魔法を行使している場所があります。子爵様に案内してもらい皆でその場所に向かいました。

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