子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第47話、凱旋

 正門を攻撃していた敵兵を倒し、次に左側の門の敵兵を倒した僕達は、反対側の門へ向かうべく、一度街壁から街へ下りて街中を突っ切って駆け出します。途中で冒険者の人達から声援をもらい、ミカちゃんもはにかみながら手を振ったりしています。


「ミカさん、有名人さんなのですわね」


エリッサちゃんが微かに微笑みながらミカちゃんに尋ねます。


「そんな事は無いにゃ。あの人達は冒険者ギルドで前にあった事がある人にゃ」


 そんなエリッサちゃんの問いかけに、ミカちゃんはかぶりを振るってギルドで会った事が有る程度と説明していました。
 いくら冒険者でも普通の人ならこんな声援はもらえませんよ。きっとオーガを倒した英雄だからでしょうね。所々で手を振り反対側の門が見えてくる場所まで来ると丁度、門が破壊され破れた門の隙間から敵の兵が雪崩れ込んできた所でした。


「急ぎませんと――」


 エリッサちゃんが門の状態を見て、真顔で焦ってそう言いますが、


 雪崩れ込んできても、こちらも門の前には守備隊が待機していて直ぐに街の中までは入り込めていません。
 僕達3人には、僕が掛けた結界魔法が切れずに残っていますが、用心をしてその上から僕が上掛けをします。


「子猫ちゃん、ありがとうにゃ」


 薄い青色の瞳をキラキラ輝かせてミカちゃんがお礼を言ってくれますが、これは僕がしたいからするだけです。お礼なんていりません。でも気持は大切ですから素直に受け取ります。


「みゃぁ~!」


 一言、すまし顔でそう伝えるとミカちゃんが微笑み返してくれました。


 門の前にいた守備隊の人達の活躍で何とか抑えられていますが、数は敵兵の方が勝っています。さっさと片付けてしまいましょう。


 僕は守備兵の人達の股の間を潜り抜けて、一気に敵兵の股の下を潜り抜けながら爪で足首に切りつけていきました。足首を切断された兵は何が起きたのか分らない内に一方的に転がされ、足首が消えている事を認め漸く悲鳴をあげます。その隙を逃さず倒れた敵兵の胸に守備隊の槍が突き刺さり、あれ程激しかった攻撃が一瞬で下火になりました。


「子猫ちゃんがやったんですの?」


 目の前に居た敵兵がバタバタと倒れていくのです。その光景を目の当たりにしたエリッサちゃんが目をぱちくりさせながら驚きミカちゃんに問いかけました。


「そうですにゃ。これだけの接戦なら子猫ちゃんに勝てる者はまずいない筈にゃ」


 いつも僕の戦闘を近くで見ているミカちゃんも誇らし気な感じで答えます。


 お互い鎧を着込んだ兵が近接戦闘をしていても足元だけは、埋められませんからね。子猫である僕の独壇場です。次々と混戦ムードの中を縦横無尽に走り回り、ミカちゃん達が追いついて来る頃には、立っている敵兵は1人も居ませんでした。


「す、凄いですわ」


子猫の僕1人で全滅させると、エリッサちゃんは短くそう言って大きな瞳を目一杯広げて驚いています。


「にゃはは、子猫ちゃん大活躍にゃ」


 ミカちゃんは苦笑いを浮かべて僕を褒め称えます。
 大きく瞳を見開くエリッサちゃんと、笑顔のミカちゃんの元に戻った時には、僕の自慢の毛並みは血油で真っ赤に染まっていました。


「子猫ちゃん、随分汚れちゃったにゃ」


 温かい眼差しで僕を迎えてくれたミカちゃんの頬が引き攣り、目元が少し下がります。
 僕も汚れた自覚はあるので、ミカちゃんに体を擦り付ける訳にはいきません。僕が項垂れていると、僕の汚れを気にもせずにミカちゃんが僕を抱き上げ、持っていたハンカチで僕の顔に付いた血を拭ってくれました。


「みゃぁ~」


僕がイヤイヤをしながら首を横に振ると――。


「洗濯すれば汚れは落ちるにゃ」


苦笑いを浮かべながらも目は優しく僕を見据えそう言ってくれます。


「お城に戻ってお風呂の支度をさせませんと……」


 はっ、と気づいたようにエリッサちゃんがそんな提案をしてくれました。僕達はお城に戻る事にします。


 壊れた門を潜り、街中に入ると――大勢の守備兵、街の人達から歓声があがります。その中には以前、ミカちゃんをパーティーに誘ったナンパな冒険者も居ましたが、それはスルーして……他の住民の人達には手を振りながら、僕達3人はその中を堂々と胸を張ってお城に帰りました。



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