子猫ちゃんの異世界珍道中

石の森は近所です

第25話、強いおじさん

豚さんから討伐証明と骨を取った僕達は、お腹が空いてきました。


ここにある食べ物は、豚さんのお肉と骨だけです。


せめて美味しく食べられる、調味料というものが有ればいいのですが……。


そんな物は買っていません。


しばらく森を歩くと、小川がありました。


僕達は、そこで休憩する事にして犬の骨を水で洗い齧りました。


ミカちゃんに一番大きな骨をあげます。


「こんなに大きい物、食べていいのかにゃ?」


「みゃぁ~!」


「有難うにゃ~」


ミカちゃんは、はにかみながら僕にお礼を言って大きな骨を口にします。


食べ終わると、ミカちゃんがぷるぷる震えました。


何かを覚えた様です。


僕も。3個目の狼の骨を齧った時に体の毛が光りました。


「子猫ちゃんも、魔法覚えたにゃ!」


「みゃぁ~!」


後で、2人で試してみましょう。


僕達は、小川を後にして歩き出します。


まだお昼を少し過ぎたあたりです。帰るには早すぎます。


あまり奥には行き過ぎないように、気をつけながら進みました。


このまま真っ直ぐ歩けば、街の反対側に出るはずです。


すると目の前から、見慣れない大きな人が歩いてくるのが見えました。


その人を見た、ミカちゃんがビックリして尻餅をつきます。


どうしたんでしょう?


ミカちゃん、お尻が汚れちゃいますよ?


「子猫ちゃん、あれと戦ったらダメにゃ。今すぐ逃げるにゃ」


「みゃぁ~みゃぁ~」


何を言っているんでしょうか?


あれは人ですよ?


悪い人じゃないなら、戦う必要はありません。


そう思っていると――。


突然、僕達を認めた長身の男の人が『ぐわぁぁぁぁー』と喚き散らしながら駆け足で僕達の方にやってきます。


煩いですね。


そんなに大声を出さなくても聞こえていますよ?


おじさん。


おじさんは、僕達の前まで来ると足を振り回してきました。


『ビュー』僕の体が小さいから、頭上を掠めていきます。


危ないですね。


ミカちゃんは、お尻を付いたまま動いていません。


どうしたのでしょう?


「子猫ちゃん、逃げるにゃ。殺されるにゃ」


「みゃぁ~みゃぁ~!」


もしかして、このおじさんは悪い人なのでしょうか?


それなら僕の対応も、変わってきますよ!


掌をおじさんに向け、爪を飛ばし――。


その隙に、飛び掛りました。


くるくる回転した爪はおじさんに当りました――今までの相手は、これで倒れて傷を負っていたのに、このおじさんは無傷です。


あれ?


おじさんは、僕を捕まえようと手を出してきます。


そんなに遅かったら無理ですよ?


僕はおじさんの、足元を潜り抜け、抜ける瞬間に下から爪とぎをしました。


爪が当った時に分ります。


爪では倒せません。


僕はおじさんの背後に回って――この前覚えた魔法を使いました。


『ゴゴゴゴゥー』と言う音がすると空から丸い石が燃えて落ちてきます。


おじさんに当りました。


おじさんの体から煙が立ち込めます。


火傷をしたようです。


僕達に悪さをしようとするからですよ!


悪い事をすると――罰があたるとお婆さんだって言っていました。


でも。少し時間が経つだけでおじさんの怪我が綺麗に治りました。


このおじさん、強かったみたいです。


ミカちゃんが、逃げようと言うのもわかりますね。


足元をちょろちょろと動き回り、撹乱します。


僕の速さには付いて来られないので、捕まらなければ問題は無さそうです。


おじさんの足元を抜けようとしたら――。


おじさんは急に腰を落とし、座りました。


僕は足元を抜ける事が出来なくなります。


でもおじさん、僕が背後に回ったら見えないんじゃ?


僕はおじさんの背後に回り、掌を翳して燃える魔法を使います。


人も。オークもみんな燃えた青い炎です。


おじさんの体の表面が『プスプス』言って焼けていきます。


まだ倒れてくれないので、僕もずっと魔法を継続します。


もういいかな?


そう思い、僕がおじさんの目の前に行くと――。


おじさんは口から何か尖った物を吐き出しました。


僕は油断してしまいました。


僕の足に棘は当たり、僕は傷つき転がります。


おじさんの顔がニヤリと笑い、立ち上がりました。


あ~幸せな時間って終わるのも早いのですね。


ミカちゃんだけは逃がさないと……。


そう思ってミカちゃんに声をかけます。


「みゃぁ~みゃぁ~みゃぁ~!」


「子猫ちゃん――」


何やっているんですかミカちゃん――逃げないとダメですよ。


おじさんが伸ばした手が僕の足を掴んだ瞬間――。


ミカちゃんの手から、魔法が放たれます。


おじさんは、一瞬で凍り付き僕が何度攻撃しても倒れなかったのに――。


体が、バラバラになって動かなくなりました。


ミカちゃんは、いつの間にか僕より強くなっていたのですね。


おじさんが動かなくなった事を確認したミカちゃんは、僕の足に掌を翳します。


すると――僕が舐めた時の様に青く光りました。


ミカちゃんも同じ魔法を覚えていた様です。


僕はミカちゃんにお礼を言います。


「みゃぁ~!」


「子猫ちゃん。無事でよかったにゃ~死んだらダメにゃ」


そう言って、ミカちゃんは泣き出しました。


どうやら1人が寂しいのは、僕だけでは無かったみたいです。



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