未来の日本は、魔法国になっていました

goro

第一話 タイムスリップ

ヒュー、と風がなく。
大きな大樹、大きな青空、大きな雲。
何も変わらない景色。
だけど、その手元には一枚の紙があり、そしてその文面にはこう記されていた。

――――40XX年――――
日本魔法協定における、行政の発達…と。


「………40XX年…って」

震える手つきでその紙を握りしめる12歳の少女、朝月 葵あさつき あおいは真っ青な表情で自身の背後に建つ建物を見上げた。
それは、微かに原型が留めていた見慣れた建築物。
朝月 葵が今も通っていた、中学校の校舎だ。しかし、その記憶にあった色合いとはまるで別物のように、材質はもう既にボロボロに変わり果て、いつ壊れてもおかしくない現状に陥っていた。


何故こんなことになったのか、わからない。
数分前まで、友達とかくれんぼをしていた。そして、近づいてくる鬼の子から見つからないよう、しゃがみこみつつ目を瞑った。
ただそれだけのはずだった。
それなのに、目を開いたそこは今まで見たことのない、見知らぬ場所だった。


夢だ。そう、夢なんだ!

現実を見たくなくて、視線を前へと向ける朝月。だが、その視線の先に広がっていたのは―――――



三角帽子のいわゆる魔法使いの恰好をした人々いた。
しかも、機械にまたがり空を飛んでいた。
そして、その下にある地上にもまた皆が魔法使いの恰好をして平和に暮らしていた。

「…………」

言葉が出なくなった。
どう、反応していいのかもわからなくなった。
だが、そんな彼女をさらに驚かせるように、視界の中。突然と宙に魔法陣が現れ、そこから日本人のような顔つきをした微笑みを見せる赤髪の魔女が輪を通るようにして現れたのだ。
そして、その唇を開き、


「どうしたの、お嬢ちゃん?」


魔法使いだから、英語か何かを話すんだろう、と思っていた。
だけど、まんま日本語だった。
数秒思考が停止したのちに、朝月葵は表情を困惑させたまま、心の中で叫ぶ。

(ここって、本当に……………未来の日本なのっ!?)


こうして、朝月葵の新しい生活が始まるのだった。




数時間後。

「うーん…」

怖い顔つきの眼鏡を掛ける魔女が目の前の椅子に座っている。
そして、朝月はというと、

「…………」

持ち物全てを机の上に出させられた。
そして、魔女の向かいに座り、取り調べをされている。

何この状況っ――!? と心の中で泣きながら叫ぶ朝月。
対して眼鏡魔女=遠闇 志保とおやみ しほは眉間に皺を寄せたまま、机に置かれて見慣れぬ物品たちを睨んでいる。

「…あ、…あの…」
「これは確かに、かつて大昔に使われていたと機械というものですね」
「…………」
「それにこれもまた、古い…確かペットボトルという代物でしたか」
「………」
「今のご時世、魔法で水なんてすぐに手に入るというのに………」

…なんだろう、今凄く馬鹿にされている気がしてならない。
正直頬を膨らましてもいい気がしたが、今ある自分の現状からではそんな表情一つすらとれるわけもなく。
ただただ、脂汗を全身から噴き出すしかできなかった。
すると、その時。
再び宙に魔法陣が現れたと共に。

「どう? 何かわかった?」

数時間前、この場所に連行してくれた魔女が姿を現した。

「あ、校長」

しかも、この魔女がこの場所。どうやら学園らしき建物を仕切る校長ときた。
もう驚くのが馬鹿らしくなってくるほどのレベルだ。

「彼女の脳内に残っている記憶やまた所持品から察するに、この少女はやはり過去から来たようです」
「そうか………うーん」

赤髪魔女=木下 理沙きのした りさは口元に手を当てながら、じっと朝月を見つめる。そして、平然とした口調で、

「不法侵入…じゃないか」
「それだと、即死刑判決になりますけどね」

今、無茶苦茶怖いこと言ったッ!? もう心でとか言っていられなくなるほどに、涙を流す朝月。
あ、泣いちゃった……と呟く二人の魔女。だが、とくに気にするそぶりも見せず会話を続け、

「…その、校長。どうします? 大都市の魔法協会に連行しましょうか?」
「………」

例え、泣き顔を見せられたとしても、それで考えを退くわけにはいかない。
だからこそ、彼女の言葉に間違いはなかった。
遠闇は真面目な表情で、校長に判断を仰ぐ。
また、朝月は不安に染まった顔で思わず目を強く瞑ってしまった。


そして、数秒の沈黙が落ちた取調室。
その中で、木下は――――――口元を緩ませながら呟く。



「それは、やめておきましょう」




え? と顔を上げる朝月。
だが、その直ぐ側には木下の顔があった。

「わ、わっ!?」
「所で、お嬢ちゃん。お名前は?」
「は、はいっ! あ、朝月 葵ですっ!?」
「そっか〜。葵ちゃんか〜」

まるで子猫のように怯える朝月。
木下はそんな彼女を見つめ、また新しいおもちゃを見つけたかのような笑みを浮かべると、その唇を動かし、こう言ったのだった。




「葵ちゃん。魔法使いになってみない?」
「………へ?」



過去から未来に飛ばされ、40XX年のその日を境に。
朝月葵の――――――魔法使いとして日常がこうして始まるのだった。



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