【お試し版】ウルフマンの刀使い〜オレ流サムライ道〜

ノベルバユーザー1192296

一章06

 どこかで自分は十分強くなった気がしてた。だけどこのエリアに一歩足を踏み入れてからすぐにそれが間違いだと知る。

 ズシン、ズシン……
 大地を揺らすほどの振動音は明らかにこちらに向かっておりま、それを現実として認識するのに数秒を要した。

「……うっそだろ、オイ」




 ウサギの住まう草原からエリア移動を行うと、目の前に広がっていたの水気を帯びた泥の匂いと、腰の高さまで伸びる草だった。
 足元はぬかるみ、注視しなければ滑って転んでしまうほど安定感がない。
 ここのMobはウサギではないみたいだな。
 身を隠すのには十分すぎる高さの草だが、逆にその長さが視界を遮ってしまうのですぐに違うとわかった。

 このエリアはただぬかるんでいるだけではないようだ。大きめな水たまりがいくつもあり、そのせいか湿度も高く感じられた。
 注意深く当たりを見渡し、歩みを進める。
 そこで、ドシンと地面を揺らすほどのなにかが空から降ってきたような音を聞いた。

 それはともすれば近距離で花火を体感するようなインパクトを誇り。
 だが確実にこちらへ近づいてきていた。距離を取るべく身をかがめて、走り出すも、泥濘に足を取られてうまく走り出せない。

 そこでオレの真上。太陽とオレの間に何かが割り込み、影を落とす。
 ここに居たらヤバイ。そう直感すると同時に、四足歩行で駆け出していた。
 元いた場所にデカすぎる何かが降り立った。直後その場所を押しつぶすようにして君臨したモノは、泥水をオレに向けて弾け飛ばしてきた。
 きったねーな。

 ゲコゲコと腹の奥に響くような鳴き声にゾッとする。
 振り向いて確認するまでもないだろう。それはカエルだった。
 それがオレに熱烈アピールを送ってくるMobの正体だ。

 だが自分の真上に飛ぶほどの跳躍力と、影を落とすほどのサイズはどういうことだ?
 一言でいい表せばデカイで済むが、本当にそれだけか?

 オレの正面に影が落ちる。真上から聞こえるグジュグジュとした粘り気のある水音に、背筋がぞわぞわと震え上がる。

 ヒ゛タ゛ン゛ッ゛!

 真上からの強襲に咄嗟に真横に交わし、回転しながら受け身をとった。
 さっきまでいた場所にはぶっとい舌が突き刺さっており、それを巻き尺のように巻き取ると何事もなかったかのようにオレに視線を向けた。

 –––ゲロゲロ、ゲロゲロ。

 目が合い、ヤツの名前とLVが浮き上がる。

【グリーンフロッグ  LV3】


 舌打ちをしながら刀を支えに立ち上がる。わかっていたことだが、こいつを倒さないとオレは先に進めない。そういう事か。
 ウサギの次がこれとか、企画したやつもGOサイン出したやつも性格悪すぎだろ。
 完全にプレイヤーの心を折りに来てる。
 そういう難易度だ。

「だがなぁ、こんなところで立ち止まっていられねぇんだッ!」

 闇影に成長した姿を見せるためにも、こんなところで立ち止まっちゃいられない。あいつがいなくたって一人でできるって事を証明して見せる。

 デカさにビビっていたが、動きはホーンラビットには劣る。

 ウルフの持ち味を活かせば行けるか?

 再度真上から突き刺さる舌の攻撃を体を無理やりひねって回避。

 あっぶね、紙一重だった。

 このエリアは頭で考えてから動き出すまで一瞬間が入る。だから直感で動く前に動き出さなければ避け損ねる。
 そうすると今度こそ死だ。

 考える前に動け。ここはそうしなければ無駄死にを繰り返す場所だと悟った。

 なんとかしてぬかるみのない場所に行かなければ……
 それだけを考えて距離をとった。
 ドシン、ドシンと一定の距離を保って速度を上げる。あまり距離を取るすぎるとジャンピングからのボディプレスが来るので、離れ過ぎないのがコツだ。

 足元の感触がぬかるみからしっかりとした土の感触に切り替わった。
 仕掛けるならここだ。

 オレの攻撃は速さを生かした攻撃だ。
 その速さを出すためには足元がおぼつかないんじゃお話にならない。

 周囲を見渡し、移動場所を確保してから仕掛ける。
 負けても次があるとは考えない。
 その考えが自分を弱くすると思い込んで仕掛けた。

 鞘ごと刀を投擲する。

 しかしグリーンフロッグはそのボヨボヨとした腹で受け止めると、そのまんま同じ速度で弾き返してきた。

「くそ、物理無効かよ!」

 舌打ちし、鞘の腹を蹴り上げて勢いを殺し、そのまま抜刀術を発動する。

「ええい、ままよ!」

 バックアタックが無い分威力は落ちるが、オレの全力を受け取れ!
 飛び上がって刀をキャッチし、上段の構えで力を溜める。

「秘技–––雷閃!」

 咄嗟に思いついた言葉を口に出し、勢いのまま刀を振り抜く。

 想像力を力に……具現化された力は風のヤイバを象ってグリーンフロッグに突き刺さった。体がデカすぎるのか貫通はしない。ダメージを与えている様子は見た目からは感じ取れなかったが、敵対する事で初めて見えるHPゲージは確かに減少していた。

 –––ゲローー!?!


「よし、出た。でもなんでだ?  バックアタックは取れてないと思ったが。まぁいいか、追撃だ」

 刀で鞘をキャッチ、そのまま納刀して距離を取る。デカイからって近接で相手取るのは無理だ。なにせ相手の攻撃手段がまだ出揃っていない。
 LVも一つ上だ。慎重に慎重を重ねてお釣りがくるくらいだ。







 刀でキャッチボールしながら一進一退の攻防が続く。

 そしてHPゲージがオレンジに入った頃からグリーンフロッグの攻撃方法は舌主体のものになった。
 飛び跳ねる事をしなくなったのは体力を温存してか?

 ほんの一瞬考え事をしていた隙を突いてグリーンフロッグから吐き出されたドロネバの体液がオレの足に命中した。

(うえっ、きったねぇ!  こいつツバ吐きやがった。少しネチャネチャしてるしちょっと臭い。だがそれだけだ)

 気分は酷く悪いが、まだ戦闘は継続できる、そう思って動き始め、急ブレーキをかけた時、グリーンフロッグの嫌がらせが効果を発揮した。

 オレは右足を軸にしてよく移動をする。
 だからブレーキももちろん右で、しかしオレの足は地面を氷の上を滑るように走ってしまう。

「くそ、あいつの狙いはこれか!」

 刀を大地に突き立てて、緊急停止。からの遠心力を利用しての猛ダッシュ。
 走り出すことができなくなったが、逆にこれを利用してやればいい。
 即座に判断し、都合六度目の雷閃を自分の体毎かました。

「秘技–––雷突、と言ったところかな?」

 これは自分にもダメージがくる自爆技だった。だが勢いは止まり、グリーンフロッグの伸びきった腹に弾かれるようにして距離を取った。

「お、便利」

 右足を軸にして滑り、刀で急ブレーキだ。不便だと思っていたが、これ結構便利だな。

 しかしさっきの攻撃で仕留め損ねたグリーンフロッグのHPはレッドゲージ。明らかに目を赤くしてお怒りモードになっていた。

 そしてグリーンフロッグの猛攻が始まった!

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