ビビりな俺の後方支援日記

kiiichan

ハーブ

「お腹が空きましたー」


 〈フガーナク〉から、少し離れた森のなか、短剣を携えた少女がふらふらと歩く。


「あれは何ですか?」


 少女は赤い光を見つける。


「いい匂いがしますっ」


 少女はそこへと駆け出した。




ーーーーその頃 


「カイトー、これでいいの?」
「おう、後は金網をひくだけだ」


 カイトが作ろうとしているのは、BBQコンロ。この世界になかったのでカイトがアカリへと提案した。
 そして、今が焼く直前である。ちなみに食材は何か分からない肉。紫色の光沢を放っている。


「アカリー、これなに?」


 カイトは、並べられた肉をを指して言う。


「んーとね、[ポイズンフロッグの肉]っていうアイテムだった気がする」
「え・・・ポイズン?ダメな感じのやつじゃね?」
「そうかなー、火を通せば何でも食べれる気がするけどなー」


 いったい、この女はどんな環境で育ってきたんだ!!と、内心でつっこみを入れつつカイトは尋ねる。


「もちろんアカリが先に食うんだよな?」
「は?なにいってんの?あんたが先に決まってるでしょ!?」


 言っていることが矛盾しているアカリはカイトの皿に、レアで焼いてある[ポイズンフロッグの肉]を置いた。


「さあ召し上がれ」


 満面の笑みを浮かべ、アカリは言った。


「え?でも・・・・」
「召し上がれ」


 アカリは笑みを保ったまま、声色だけを変えカイトへ早く食えと迫る。


ーーーーと、その時


「わあー、美味しそうなお肉ですね。いただきまーす!」


 机の下から聞こえてきた、少女の声。アカリとカイトは思わず戦闘態勢をとった。
 カイトの索敵スキルにも写らないとはいったいどれ程の高レベルプレイヤーなのか。
 そうアカリが思っていると、少女はカイトの皿の上にあった肉を素手でつかみ食べ始める。


「あっ・・・・・・」


 カイトが止めようとするがもう遅い。少女は毒にやられ倒れた。


「食ってなくて良かったわ」


 目の前の少女を心配する気持ちよりも、自分が食べていなくてよかったという気持ちの方が強いカイトはそう口にしたのだった。




「ふにゅっ!」


 少女はカイトの目の前で、変な声をだしてガバッと起き上がる。


「おお、起きたか」
「あなたは誰ですか?」


 そう言って少女はカイトの顔をまじまじと見つめる。
 そこで初めて、カイトは少女の顔をしっかりと見ることができた。 
 歳は13,14歳くらいだろうか。ボブカットの金髪で、右目がエメラルド色、左目はレッド色の瞳を持つ少女。
 カイトは心を動かされそうになるが(アカリの時もそうだったが)どうにか自制し、踏みとどまる。


「俺の名前はカイトだ、で、この怖そうなお姉さ」


 カイトがそこまで言ったとき、アカリの足がカイトの脛へとめり込む。


「いっっっっっってえええ!!!骨折れたわ。絶対骨折れた・・・」
「うっさいわね、黙ってなさいよ」


 地面にうずくまり、ゴロゴロと転がるカイトを、軽蔑するように見つめアカリは少女へと向き直った。
「私の名前はアカリ。で?あなたの名前は?」


 未だに名乗っていない少女へアカリは問いかける。


「私の名前はハーブですっ!ご飯ありがとうございました」
「あんなのでよかったなら、いくらでもいいぜ



 カイトは×印の〈印〉を結ぶと、アイテム欄から持っていたゲテモノ系の[エスカルゴワーム]を約30ほど具現化させる。


「ほらよっ」


 カイトはうねうねと動く[エスカルゴワーム]をアカリへと投げる。


「〈爆ぜろ 魔の者〉っっ!!」


 即効で攻撃魔法の詠唱を終え、アカリの目の前で[エスカルゴワーム]が爆発。四散した肉がアカリへと降りかかる。
 アカリは震える拳をカイトへと向けた。


「まあ待てアカリ・・・な?一旦落ち着こうぜ・・・な?」


 しどろもどろになりながら、カイトはジリジリと後退する。


「お兄さんとお姉さんってなかいいんですね」


 ハーブが突然そんなことを言い出すので、カイト達は揃って首を振る。


「「いや、ないからっっ!!」」
「やっぱり仲良いんじゃないですか」


 揃って叫んだ二人を見てハーブは笑う。


「で?ハーブは何でこんなとこに?」
「んー、覚えてないんですよね、何一つ。いわゆる記憶喪失ってやつです。美味しそうな匂いがして来たらお兄さんとお姉さんがいました!」
「うーん・・・・・。記憶喪失か、困ったな」


 頭をかくカイトに何かを思い出したかのようにハーブは言う。


「あ!そうでした。私は〈別れの翼〉というアイテムを探しているのです」
「〈別れの翼〉!?」


 いち早く反応したのはアカリだった。


「アカリー、知ってるなら教えてー」
「え!?知らないの?
 まあいいわ。〈別れの翼〉っていうのは、魔王を倒したときにドロップするアイテムと言われていて、噂によればそれを使えばこの世界から飛び出し神に謁見することが可能らしい。もう全プレイヤー憧れのアイテムなのよ!!」


 説明を聞いてカイトは少し考える。


「〈別れの翼〉か・・。この世界から飛び出すのと〈別れ〉が関係しているとしたら?」


 カイトはまだ推測の段階ではあるが、〈別れの翼〉がこの世界から出るためのキーアイテムではないか、と考えた。


「で?その魔王とやらを倒したやつは?」
「まだいないわ、ていうか魔王がいる全25層の塔を3層上がるだけで精一杯よ」
「マジかよ・・・」


 カイトはがっくりと肩を落とし、見るからに凹んでいる。
 そんなカイトのこともお構い無く。


「このお肉まだ食べて良いんですか?」


 ハーブは〈ポイズンフロッグの肉〉をパクパクと食べ、そのまま気を失った。 
 


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品