ビビりな俺の後方支援日記

kiiichan

三十二守護者

「いやー、楽しかったなー」


 ここは、街の集会所。カイト達は〈癒しの森〉から帰ってきていた。


「楽しかったって・・・」


 アカリは大きな溜め息を吐く。


「カイト、本当にあんたって支援だけなら誰にも負けないんじゃない?」
「いやー、俺もそれ思ってた。はじめてにしちゃ良くできたと自分でも思うし」
「ん、初めて?」


 アカリがカイトのその言葉に反応し、どういうことか、という視線を送る。
 カイトは咄嗟に誤魔化すという選択肢を選んだ。


「いやいや、アカリと組んで戦うのが初めだったからさ。そういうことだよ」


 焦りぎみに言た言葉を怪しまれていないかヒヤヒヤしつつ、違う話題に逸らそうと頭を回転させる。


「もし戦闘で傷を負った場合どうするんだ?深いのだったら完治するのに何ヵ月もかかるだろ?」


 アカリは呆れたような表情を浮かべる。


「カイト、よくこれまで生きてこれたわね」


 この台詞にはカイトも苦笑いするしかない。


「ま・・まあな」


 アカリは腰につけたポーチから緑の液体が入った試験管のようなものを取り出す。


「この〈回復薬〉を傷口にかければ、傷が塞がるの。試してみる?」
「試す?」


 アカリは短剣を取りだし鞘から抜き放つと、カイトの腕に浅く切りつける。


「いてっ!」


 急に大声を出したカイトに周りの視線が集まる。


「そんぐらい我慢しなさい、男でしょ?」
「それとこれとは関係ないだろ!?」


 〈回復薬〉の蓋をはずし血が流れ出す傷口に液体をかける。傷を光の粒が包み込み、あっという間に傷が塞がり腕が元通りになった。


「おおー、スゲー。こんな万能な道具があるとは・・・」


 カイトが異世界の道具に感動していると、アカリが急に席から立ち上がる。


「どうした?」
「ヤバい、用事あったの忘れてた・・・
 どうしよ、間に合わないんだけど」


 焦った顔をして、おろおろするアカリはなにかに気がついたようにカイトを見た。


「え?何?まさか支援魔法をかけろと!?」


 アカリはブンブンと顔を縦に振った。


「分かったよ」


 先程の戦闘中に使った〈風支援〉の魔法をアカリにかける。


「ありがとー」


 それだけ言ってアカリはまさに風のような速度で集会所を後にした。


「なんか、忙しいな、あいつ」


 カイトは立ち上がり、集会所を出た。




 カイトが向かったのは、この街の外。
 〈回復薬〉の効果を目の当たりにし、そういう道具が欲しくなったカイトは一度プレイヤーハウスに戻り、部屋のなかを探すとありとあらゆる道具が見つかった。
 効果を見ようと街の外の草原、モンスターのいる場所までやって来たというわけだ。
 まあ、モンスターが近づかないようにするアイテムを使っているわけだが。
 腰につけたホルスターから、赤い液体の入った試験管を取り出す。


「どんなアイテムかなっと」


 蓋をはずし一気に飲み干す。


ーーーー草原に爆音が響いた。




「ゲホッ、ゴホッ、飲むんじゃなかった
 まさか爆発するとは・・・、ああ、腹いてえ」


 〈回復薬〉を一気に煽りカイトはそう言った。未だに口からは煙がで続けている。
 このアイテムはモンスターにぶつけて使うのだろう。
 モンスターが一撃で爆死するレベルの爆薬なので飲んで死ななかった、カイトも凄い。これを誰かが見ていていたなら、カイトのレベルが相当なものだということが分かったであろう。
 身をもって知ることができてよかったと、カイトはポジティブに考えた。
 カイトは更に何種類かのアイテムを実験して、プレイヤーハウスに戻った。




ーーーー〈フガーナク〉から、約25㎞は離れたSMOの中央都市、〈アウター・タウン〉にアカリはいた。
  

「カイトだったか?」


 [セントラル・タワー]最上階。広いホールに円形のテーブルが置いてある。そんななかに集まった32人の1人がそう言った。


「はい、支援魔法ならばこの場にいる誰にも負けないと思います」


 アカリがそう言うと、1人が立ち上がり激怒し、発言しようとする。


「まあ、待て、実力のある奴は大歓迎だ。攻略できないダンジョンもあるしな」


 この場で一番偉いと思われる男はそう言う。その男はだが、と付け加える。


「32人の席が足りないようならば、1人ここからいなくなることになるがな」


 その言葉に全員の目が光る。実力者の殺気が部屋を覆った。


「この〈三十二守護者〉の一席が変わるなんて何年ぶりだろうな」


 人がいなくなった部屋で男は笑みを浮かべ、そう呟いた。




「寒っ、誰か噂でもしてんのかな」 


 カイトは流石のレベルによる危機察知能力で、自分の話をされていることに気づいた。
 だからといってどうということではないのだが。


「寝るか」


 まだ数えるほどしか寝たことのないベッドにカイトは体を埋めた。

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