ビビりな俺の後方支援日記

kiiichan

ある日の話

 

「寒いー!」

 音をあげ始めたアカリにカイトは言った。

「もうギブアップかよ、まだ全然いけるだろ?」  

 薄暗い洞窟に男女の声が響いていた。
 ここは〈氷の洞窟〉地下4階。    
 ここまで来ると、地上の暖かさも消え失せ、逆に冷たい氷がそこらじゅうを埋め尽くす。

「まだ出てこないのー?ダンジョンボス」
「もう少し進めば見えてくるはず・・・」

 カイトが言った矢先にそれはあった。
 三メートルはありそうな、様々な模様が彫りこまれた扉。カイトとアカリは大きく息を吸うと扉を開け放った。
  そこにあったのはいつも通りの半円のドーム。その真ん中には龍が鎮座していた。
 スターダスト・ドラゴン。頼まれた依頼はこいつの討伐だ。

「さっさと倒して、地上に帰ろう?」

 アカリはそう言うと、背中に担いでいた大剣を外し、真正面から竜に向かって突撃する。  
 切っ先を竜に向け突進するアカリに向け、竜は口を大きく開いた。
 開いた口が青く輝きだし、空気がよりいっそう冷たさを増す。

「カイト!!支援よろしく」

 カイトはアカリに向けて右手を突きだす。
開いた手から、緑色をした光が放出された。
 その光はアカリの体に吸い込まれ、その瞬間、アカリの体が淡い緑の光を放つ。


 支援魔法〈氷属性攻撃無効果〉。
 竜の口から放たれた、触れたものすべてを凍らせる絶対零度の息吹でさえも、アカリの突撃を止める手段にはならない。

「おりゃああああああぁぁ!!」

 アカリの大剣が竜の体を真っ二つに切り裂く。
ーーーーーと、甘い話があるはずもなく。
 目の前の竜の鱗は堅さでは有名で、高級防具の原料にもなっているくらいだ。アカリの剣ではかすり傷程度しか与えていなかった。     

「あれ!?なにこいつ、堅すぎじゃない?」

 再度モーション。竜は尻尾で凪ぎ払う体制をとる。

「アカリ!!」

「わかってるって」

 その龍の尾をカイトの心配も要らないような、華麗なジャンプでかわして見せた。
 カイトの右手から再び、光球が飛び出す。
色は、赤、黄。黄はそのまま、アカリの体に吸収される。赤は大剣へと吸い込まれた。
 アカリの体に〈速度上昇〉、大剣に〈炎属性付与〉がかかる。

「今度こそ行くよー」

 状況に似合わず、能天気な声をあげたアカリはまた、突撃を開始する。
 しかし、そのスピードはさっきの比ではない。
 竜があまりのスピードについてこれず、つい先刻までアカリがいた場所をまだ見ていた。
 赤く燃え盛る大剣を上段から竜に向かって降り下ろす。
 硬い鱗を砕き、竜の体についた霜を溶かしながら大剣は今度こそ真っ二つに切り裂い
た。


ーーーー響き渡る、断末魔の悲鳴。
 その声を聞きながら、カイトとアカリはハイタッチした。

 こっちに来て3ヶ月、カイトはこの世界では有名人になっていた。



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