終わる世界の召喚者

kiiichan

エーゲ村

 目を覚ますとこちらをのぞき込む少女の顔があった。

「良かった、目が覚めたのね」

 どうやらこの少女がタイキをあの絶体絶命の状況から救ってくれたらしい。お礼をするべく体を起こそうとする。

「まだ起き上がっちゃだめよ!傷が・・・」

「いっってぇぇぇええ!」

 そういった時にはすでに遅く、背中に走る激痛でタイキはもう一度倒れこんだ。

「治癒魔法で応急処置はしたけど、完全に治せたわけじゃないから。多少の痛みは我慢してね」 

 タイキは涙目で恐る恐る起き上がる。
 
「聞きたい事は沢山あるんだけど、後でにしましょうか。ここは危ないから」

 そう言って立ち上がる彼女をタイキは初めてしっかりと見た。
 腰の少し上まで伸びた長い金髪と、ハーフのような顔立ち。日本にもしいれば、街行く人々の視線を間違えなく釘付けにするような美しさだ。

「安全なところに行こっか」

 そう言うと彼女はタイキの手を取った。異性に触れることの少なかったタイキは期待に目を輝かせ顔を見るが、そういう感情は見受けられないことに気付き少しがっかりする。
 次第に周りの空気が重くなる。タイキにとってこの感覚は嫌な思い出しかない。そして、転移が行われた。



「で、君は、誰でなんであんなところにいたの?」

 転移した先は木造の一軒家だった。彼女の家らしく、椅子に座ったタイキは向かい合うような形になる。

「えーと、俺の名前はタイキで・・・」

 自己紹介には何の問題もないがあんな所にいた理由が問題だ。
 異世界から召喚されて気付いたらあの森に、なんて言ったら完全に頭のおかしなやつだ。最悪ヴァルベルからされたように殺されるかけるかもしれない。慎重に言葉を選び、タイキの出した答えは

「道に迷って気付いたらあの森に・・・」

 この時ほど自分の馬鹿さに呆れた事はない。そんな見え透いた嘘をいえば逆に怪しまれる、そう思ったタイキは必死に良い言い訳を探すが何一つとして浮かばない。

「タイキか。この辺じゃあんまり聞かない名前ね。まあ生きていれば辛いことだってあるんだし、命を粗末にしちゃだめよ?」

 あそこはもしかしてそういうスポットなのだろうか、予想だにしていなかった答えが帰ってくる。

「なんか勘違いしてない!?本当にただ道に迷っただけだよ!!」

 まだ訝しげな視線を浴びるタイキは苦笑する。それと同時にこちらに来て初めてまともな会話ができていることに安堵する。

「私の自己紹介がまだだったね。私はソフィア、よろしくねタイキ」

 差し出された手をしっかりと握り返す。

「ところでタイキ、家はどっちの方角なの?森は危ないから私が家まで送るけど」

またしても答えにくい質問にタイキが言いよどむ。

「答えづらいなら答えなくてもいいよ。きっと何かあったんでしょう?帰りたくない理由とかも
あるだろうし」

 答えに詰まるタイキを見て家出してきた少年とでも思われたのだろうか。

「じゃあ、どうしよっか・・、家は私の家に住めばいいとして、お金とか他にもいろいろしなきゃいけないことはあるよね」

 ソフィアはそう言ってタイキの体を見た。ソフィアが言っているのは服などのことだろう。ジャージで召喚され、背中をズタズタにされ、もう服が服としての機能をなしてない。
 そんなことよりも家のことだ。女の子と一つ屋根の下、日本の両親が聞けば、あんたが!?と猛烈な勢いで突っ込まれそうな展開だ。

「じゃあ必要なものを買いに行きましょう」

 地形も文化も何もわからないタイキはソフィアに従う他ない。ソフィアに言われるがままタイキは外へ出た。
 寂れた街だ、というのが素直な感想だった。周りを森で囲まれた場所にこの村は建てられたらしい。木造の一軒家が4~50棟程並んでいるが、通りに人通りは少ない。過疎集落といういう言葉が頭をよぎる。
 その中にも生活必需品を売っている店はあるらしく、ソフィアはそこに向かって歩いていく。

「ところでさ、あの犬ってなんて呼ばれてるんだ?」

「あなたが襲われていた魔獣のこと?あれはブラッディハウンドって呼ばれているわ」

 ブラッディハウンド、あの化け物を呼ぶには相応しすぎる呼び名だ。それほどまでに禍々しく、恐ろしかった。しかも、言い方から察するに魔獣というものは沢山いるらしい。
 タイキが少しだけこの世界についての知識を深めると、丁度店に辿りついた。

「着いたよー」

 この村では大きめの建物に着くと、ソフィアの後に続いてタイキも店内に入る。店内は物で溢れかえっていた。謎の液体が並々に入った瓶や食料、武器や防具なども販売してあった。

「そこの坊や、あるものは触らない方がいいぞ?瓶の中には爆発性のものや何でも溶かしてしまう液体が入っておる。割ったら一大事じゃ済まされんぞ」

 後ろからしたその声にタイキは伸ばしかけていた手を素早く引っ込めた。振り向くと杖をつき、腰を深く曲げた老人が立っていた。

「こんにちは、ネイソンさん」

「おおー、ソフィアちゃんか。来るなら来ると言っておれば菓子の一つや二つ出せたというのに」

「いいんですよ、今日はこの子の紹介に来たんですから」

 そう言ってソフィアはタイキを指し示す。

「この辺りでは見ない顔じゃな。どこか遠くから来たのか?」

 その質問にタイキが答えるよりも早くソフィアがネイソンに近寄りなにやら小声で耳打ちする。先ほどよりも少し気の毒そうな顔をするネイソン。
 絶対何か勘違いされているが、誤解を解くのもめんどくさいのでこのまま話を進めることにした。

「そうか、災難じゃったな」
 
 ソフィアに1歩前に出されタイキは浅くお辞儀をして話し出す。

「初めましてネイソンさん。ソフィアが紹介してくれた通り俺の名前はタイキって言います。少し事情があってしばらくこの村でお世話になろうと思います」

 目上の人にこちらから握手を迫るのはどうなのかと思いつつ、恐る恐る手を差し出すとネイソンは笑顔で握り返してくれた。

「ようこそ、ここエーゲ村へ。村長としてタイキくん君を歓迎しよう」

 ここからタイキの異世界生活が始まろうとしていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品