パラディン・フリード  この狂った世界は終わることなく回り続ける

ノベルバユーザー46822

攻略成功?

 前にジグさんが言っていた。
「俺がパラディンになったのは、目の前で家族が全員フリードに殺されて、何もできなかった自分を変えるためだ」
 と。
 パラディンには役目がある。フリードを殺すという役目が。
 だが、パラディンになるきっかけは、フリードによるものだ。
 僕ら人類はフリードに襲われ、ウェポンという武器を持って、フリードと対抗できるようになった。
 今、僕らがしているのは、前に僕らがされた事と変わりないのだ。
 弱い者を殺し、強い者だけが生き残る。ただそれだけ。








「くそがぁぁ!!」
 ガントさんがボスに負けないくらいの雄叫びを放ち、大剣で三体のフリードを薙ぎ払った。
 それに負けじと、シンも素早くフリードを一体滅多刺しにした。
 僕は銃で四体フリードの体を破壊した。
 順調に倒しているが、まだフリードは飽きるほどいる。その奥にはラスボスも。
 僕は刀と銃を器用に使い、距離を保ちながら次々にフリードを屠る。悲鳴のような断末魔を何度も上げる敵を見ず、目まぐるしくターゲットを変え、囲まれないようにする。囲まれてしまえば終わりだ。一気に叩き潰される。
 ガントさんは一回の攻撃をするのに時間が掛かっているが、一回の攻撃で何体もフリードを動かなくしている。
 シンは動き回り、一体一体を確実に消していっている。
 何体倒しても、何体も出てくる。無限湧きに近い状態だ。
 直にこちらは体力がなくなり、フリードに食われる前に逃げないといけないのだが、逃げれない気がする。
 なんせ司令塔がしっかりしている。ちゃんと囲むように命令し、慎重に攻めてきている。じわりじわりと体力を削り、確実に倒す。自分さえ生き残ればいい、そう思っているのだろう。
 こちらがやられるのは時間の問題だ。
(さて、どうするか)
 戦闘中だが、頭を必死に動かす。
 打開策を。生存策を。僕ら人類が勝利する策を探し求めて。
「カゲト!大丈夫!?」
 リオナが僕に話しかけてきた。
 ウェポンは空間を移動した分と、その力の分だけ疲れる。
 たとえ数メートルしか動いてなくても、零コンマ一秒の間に移動したなら、かなり疲れるらしい。その逆もまた然り。たとえ時速一メートルでも、百キロ移動すればとても疲れる。
 空間を移動するといっても、車に乗せられての移動なら、疲れは感じないらしい。人間と疲労する仕組みは同じだ。
「うん・・・!大丈夫!」
 今のところ、まだ呼吸はそんなに乱れていない。判断力も機動力も問題はない。かなり余裕に捌けている。
 だけど、思っていたよりも数が多い。
 包囲網に穴を開けて、そこから逃げる、ということはそう簡単にはできなさそうだ。
 そうなれば徐々にショッピングモールに近付き、増援をひたすらに待つ方が良い気もする。
(結構やばい状況だな)
 ネガティブになってしまい、足から力が抜けそうになり、慌てて踏ん張り直す。さらに、捨て身で躍りかかってくる三体のフリードを、刀で弧を描くように斬る。
 今、何体倒した?五十体?もっとか?それとも五十より少ないか?
 何はともあれ、段々感覚が狂ってきた。
 戦況も確認する余裕もない。落ち着け!そう自分に言い聞かせるが、なかなか落ち着かない。
 ガントさんもシンも押され始めている。攻撃頻度が下がり、顔に疲れが見え始めた。このままじゃまずい。ジュンさんにかけてもらった魔法も切れかかっている。
「一度引こう!」
 僕のその言葉を聞き、ガントさんは思いっ切り大剣を振り、囲もうとしていた五体のフリードを宙に舞わせた。シンは素早くフリードの背後に回り、首に刀を突き刺した。
 相手の陣形が崩れたので、一気に二人とも急いでフリードの鳥籠から抜け出し、凹凸のあるアスレチックパークのようなところに移動を開始した。
 ジュンさんはもう移動していたのだが、フリード数体に追いかけられている。
「ジュンさん!」
 僕が彼の名を呼び、ジュンさんはこちらに方向転換、僕が強く踏み込み、跳んで、すれ違うようなスピードでフリードを切り刻んだ。
「ふぅ~・・・助かったよ・・・」
 かなり疲労している様子だった。それも無理はない。戦闘職ではない上に、フリードに追いかけられるのは精神的にもきついだろうし、何より恐怖が襲い掛かっていただろう。
「おい・・・!」
 いきなり袖を掴まれ、遊具の中に引きずりこまれた、と言ってもガントさんにだが。
「これからどうするんだ・・・?」
 全員天井に頭をぶつけないように屈みこみ、一息吐きながら、一番先にガントさんは尋ねた。
「もう一度出て、フリードの注意を惹くしかないですね」
 この状況下でも、ここまで冷静なジュンさんがとても羨ましい。普通なら、こんな瞬間的に良い答えは導き出せない。
「まじか・・・」
 そうぼやいたシンは左手を怪我していたので、ジュンさんに治療してもらっている。
 魔法には[回復魔法]という種類もある。
 負傷した体の一部をルーンを細胞の代わりに使い、傷を再生するという、医者の必要性が消滅してしまいそうなものが出てきたが、風邪などの病気は治せないらしい。あくまで傷を回復させるだけだ。それだけでも十分凄いんだけど。僕とガントさんはほぼ無傷なので、ジュンさんのルーン温存のためにそのままだ。
「それとも、一回ショッピングモールへ強引に入りますか・・・?そこなら、もしやられても、代わりになってくれるパラディンがいる・・・挟み撃ちになるけど、距離を保てば何とかできるかも・・・かなり時間稼ぎはできた。僕らの時間稼ぎはもう大丈夫だと思います」
 みんな悩ましい顔をしている。実戦とはこんなにも思い通りにならないものなのか?そう思っているのだろう。
 確かに難しい。臨機応変に対応しなければ待つのは[死]のみだ。戦況なんてすぐに逆転する。こんなにもハードなのか、正直きつい。
 体と脳を同時に精一杯活用する。それはとても疲労するが、手を抜いたらフリードに食われてしまうかもしれない、そんな恐怖とも格闘しながら、フリードと本当に格闘する。
 そして、思考する時間さえ満足に与えられていない。
「っ・・・!」
 ジュンさんが屈んでいた遊具の後ろのプラスチック製の壁が壊された。
 そこからは、凶悪な恐竜型のフリードのギラギラした牙が生えている。
「屈め・・・!」
 ガントさんがそう叫び、ジュンさんとその隣に座っていた、治療が終わったシンの二人が同時に床にしゃがみ込み、その上をガントさんの毒々しい紫色の柄の大剣が通り過ぎていく。
 その大剣の刃が恐竜型のフリードの顔に直撃した。
「ガァァァァァァ!!」
 フリードの顔が飛び散り、フリードの砕けた口から甲高い悲鳴が迸った。
 そのフリードはもちろん力尽き、ゆっくり後ろに倒れた。その背後には、闘志を燃やしている何十ものフリードの群れが発見できた。
「ここはまずい!」
 シンはそう言うや否や、真っ先に外へ駆け出した。シンに釣られるように僕らも外に出たが、外も罠を張るように綺麗に包囲されていた。
「ふざけやがって・・・!」
 ガントさんが悪態を吐いた。僕もここまで集団に団体性があるとは思っていなかった。フリードを甘く見過ぎていた、いや、フリードのボスを甘く見過ぎていた。
 当のそいつはプラスチックで出来た巨大な塔の頂点で座っていた。
 赤黒い炎のようなものが体に纏わり、不気味に煌く青い瞳は僕らをしっかり見据えていた。まるで、お前たちの力を見せてみろ、そう言っているようだった。
 明らかに雰囲気が違う。他のフリードとは全く別の、馬鹿みたいな自信ではなく、自分の実力を知っている上での圧倒的な自信。
 だが、今はそいつに気を取られている場合ではない。
 目の前に迫りくる敵を一瞬で捌き、噛み付こうとしていたフリードの頭に銃弾をお見舞いしてショッピングモールへ突破口を開き、一気に斬り抜ける。
 左右からフリードが寄ってきたが、近くの敵は刀で切り伏せ、こちらに走ってくるフリードを銃で撃ち、他の三人の出口も同時に確保する。
「急げ急げ!」
 ガントさんがジュンさんを肩に担いで笑いながらこっちに走り寄ってくる。
「なんでそんなに楽しそうなんですか!?」
 僕らが横一列になって走り、その後ろに無数のフリードがつくという、鬼ごっこのような展開になった。
 全力疾走。いまだかつてこんなに必死に走ったことのないスピードで駆けていると、目的地の百メートル程先のショッピングモールの入口から続々と人が出てきた。
 その人たちは困った顔をしていた。さらに、僕たちを見て、驚いた顔で何か喚き散らしている。
「まじかよ・・・!」
 僕の右でシンが呻き、一斉に半回転した。
「戦うぞ!」
「勘弁してくれよ・・・」
 ガントさんの気合が入った声に、面倒臭そうにジュンさんは吐き捨てたが、魔法を掛けなおし、ガントさんの肩から跳び下り、身の安全が取れる場所まで避難した。
「うらぁぁぁぁ!!」
 ガントさんの大振りが竜巻の如く、フリードを宙に巻き上げる。
 シンも素早く動き回り、フリードの注意を惹いて隙があれば仕留める。それも確実に、一発で。
 僕はガントさんが前で撃退と一緒にタンクもしてくれているので、武器を銃とナイフに変え、銃で頭や心臓を撃ち抜き、ナイフで眼や足にダメージを与え、遠距離攻撃、サポートをする。
 後ろのショッピングモール内での戦闘は、挟み撃ちにされたフリードたちがこちらの東側に押し寄せてきている、といったところだろう。
 これだけ敵を倒しているのだから、さすがに目に見えるフリードの数が減ってきた。百体ほど減らしたのではないだろうか。初めに比べれば、掛かってくる間合いや包囲網もかなり手薄になってきた。シンにもガントさんにも余裕が出始めている。
 後はあいつだ。
 未だに戦闘には参加していない、王様気取りの炎野郎はどう出るのか?まだ何も自ら行動はしていない。部下に命令して好きにさせているのだが、そろそろ駒も減ってきてイライラしているだろう。
(どう出るのか・・・)
 ずっと見ているだけで、自分の身の安全を確保している。やはり、あいつがボスで間違いないだろう。
「大丈夫か!?」
 考え事をしていると、後ろから聞き覚えのある声が耳に届いた。
「ジグさん!」
 どうやら、合同部隊の他のみんなも駆け付けてくれたようだ。合同部隊結成に少し時間が掛かったが、ひとまず安心だ。
「ふぅ~・・・」
 自然に溜め息が口から零れ、肩の力をやっと抜くことができた。
 他の三人も少し気を抜いていた。
 刹那、その時を待っていたかのようにーーー
ーーーシュッ
「え?」
 僕の目の前で、ガントさんの体が宙に浮いた。
 暴風が遅れて吹き荒れ、僕の体を押し飛ばし、地面を約十メートルゴロゴロと転がった。起き上がったその先で見たのは、コアが起動し、横たわっているガントさんを無表情で見下ろす、炎を纏ったフリードの横顔だった。
 心臓の鼓動が急に激しくなり、体温が上昇する。それだけではなく目の焦点が揺れ、手が震えだす。
 その様子を嘲笑うかのように、フリードはこちらに向いた。
 青い瞳に見詰められた瞬間、全身の鳥肌が立ち、反射的に飛び退いた。
(やばいやばいやばいやばい)
 脳が混乱し始め、心拍数もさっきよりも上がった。
 体は燃えるように熱いのに、氷のように固まっている。
 すると、フリードの横から凄まじい速度でシンが斬りかかった。
 だが、敵は身を捩り、左、上、後ろへ流れるように避けた。
「カゲト!しっかりしろ!」
 シンが僕を呼び、意識が現実に戻った。
 とてつもない威圧感だ。一瞬で恐怖に引き摺り込まれた。恐らく、こいつはかなりの強者だ。
 あの速さに、一撃でガントさんを戦闘不能にさせたとてつもない威力。僕らじゃ勝てないんじゃないか?つい、そう思ってしまった。
「カゲト!ネガティブになっちゃダメだよ!」
「そうです!カゲト様なら倒せます!」
 息が上がっていたが、リオナとルナが励ましてくれた。
 ウェポンに励まされているようじゃ情けない。しっかりしなければ。
「ふ~・・・」
 深呼吸をして、気持ちを切り替える。スイッチを意図的に掛け、最大限の力を引き出す。
 全力で手合わせをしないと軽くボコられる。
 今はシンが危なげに闘っている。
 フリードの鍛えられた手足を使った鋭い攻撃を必死に防いだり避けたりして、たまに反撃をしているが、全く当たらない。運動神経が抜群のシンでも押されている。
 助太刀をするべく、僕は体を前に倒し、地面を力強く蹴り、フリードの後ろに回って無防備な背中を高速で斬る。
 しかし、フリードは炎の粉を散らせて、移動と並行して回避した。
 まるで瞬間移動だ。
 だが、こちらは二人ではない。
 爆発音がショッピングモールの方向から聞こえ、相手は驚いた様子でそちらに向き、爆発音の元を手で払って、鉄のようなものを壊した。
「あれ防ぐ~?」
 ミナさんが片膝立ちで金色の長い髪をなびかせ、スナイパーを構えながらそう呟き、もう一度引き金を引いた。
 それを見て僕も突撃する。
 敵は銃弾を左手で弾き、僕の剣と刀を大きく後ろに跳んで回避した。
 残念!そっちはーー
「俺がいるぞ?」
 シンが完全に気配を消し、潜んだまま刀を首に向かって振った。
 フリードも反射速度が高く、炎を全身から放ち、熱風でシンが飛ばされる。
 その隙に、ジグさんが驚異的なスピードで敵の懐に潜り込み、下から上に切り上げた。
 体に切り傷が縦に刻まれ、敵は苦痛で顔をしかめて、少し体の力が抜けた気がした。
 誰もがチャンスだと思い、畳み掛けようとした。
 だけど、フリードは少しも手は抜いていなかった。
 突然、両手に魔法陣が出現し、そこから伸びるように地面に直径二メートルほどの赤黒い円が、各パラディンの下に一つずつできた。
 嫌な感じがして、みんなその円の外側に逃げようとしたが、その時まで敵は足に力を込め、上から蹴りつけるようにその場に押さえつけた。
 ジグさんがその攻撃の餌食になり、直後、円からどす黒い炎のような靄が上に向かって噴き出した。
「ぐぁぁぁぁ!!」
「ジグ!」
 ミナさんが叫び、再び黒い風になって吹き荒れる。
 煙幕が張ったような暗い視界の中で、敵の傍の一部だけが眩しかった。ジグさんのウェポンのコアが起動したのだ。
 さらに、ジグさんを助けようと前に出たゼトさんに、炎の拳が襲い掛かる。
 しっかり盾で受け止めたのだが、その盾の内側から炎が噴き出し、またもやコアが起動した。
(どんどん削られている・・・!)
 まとめて潰さず、一人ずつ確実に、安全に消している。
 賢いし、強い。
 ここまで戦闘慣れしているフリードは、フリードの社会でも、かなり地位が上の部類なんじゃないんだろうか。
 パラディン達が何もできずにいると、フリードの右手の魔法陣が光り、突きと共に、その延長線上に螺旋の火炎が広がった。
 フリーダーの人が炎に巻き込まれ、また一人減った。
 シンに背中を見せたので、透かさずシンが斬りかかったのだが、後ろに見えるシンを、感覚か、それとも把握していたのか、左手から炎をまき散らし、後退させた。
 すると、僕が陣形の前に出ていることになり、やつは素早い右蹴りを見せてきた。
 剣と刀を交わらせ、蹴りは当てることで防御したのだが、足首にも魔法陣があった。
(やばっ!)
 魔法陣から赤黒い炎が出てくることを予測していなかったら、やられていたかもしれない。
 間一髪で回避し、大きく後ろへ飛び去ったのだが、相手も同じ距離を保ち、逆の左蹴りをかましてきた。
 その全身一体のような研ぎ澄まされた蹴りは、僕の目には弾丸に見えた。
 蹴りはズガァァァンと剣に当たり、僕の体は熱風に押され、投げられたように飛んでいく。
 その時、僕はある一つの疑問を感じた。
 勢いを何とか殺し、地面に立つ。そう、立てた。つまり、僕はコアが起動していない。
 なぜ、タンクのゼトさんが一発で起動したのに、僕は起動しないのか。
 隣にいるミナさんや、タツルさんは驚き、攻撃をしたフリードでさえ、少々気に食わない様子だ。
 だが、決してダメージがないわけではない。
 左手はだらんと下がっているし、右足も使えそうにない。また戦うには治療が必要不可欠だ。
 そのはずなのだが、僕の傷は魔法を掛けられたようにどんどん治っていく。いつの間にか、火傷も完治しており、元よりも力が溢れ出てきていた。
「そこまで進化しているとは聞いていないぞ・・・」
 ふと、耳に入った聞きなれない声。完璧な日本語で発声された、愚痴のようなセリフは、フリードの口から聞こえてきたものだと分かるまで、数秒の時間を要した。
「え・・・?」
 場の時間が凍り付き、集中力が散漫する。
「相性が悪いな、ここは退くとしよう・・・名前を聞いておこう、お主、名前は何だ・・・?」
 フリードに指を指され、反射的に「カゲトです・・・」と答えてしまった。
(何フリードと会話しているんだ!?)
「ホントに何やってるのさ!カゲト!」
「最低限の答えでしたけどね・・・」
 あまりの不思議さに自問し、ウェポンたちにも言われた。さらに不思議なこともあり、フリードは一切攻撃しなくなった。
 相性が悪いとは何だろう。ゲームみたいに属性があるのか、はたまた別の何かか。
 とにかく、あいつは退くらしいのだが、これは嬉しいのか嬉しくないのか分からない。正直、このまま戦い続けても勝てる気はしないのだが、それで逃がすのも、フリードを生かしたことになるので、役目が達成できているか微妙だ。
「そうか・・・カゲトというのか・・・」
 フリードは噛みしめるように小さな声で呟き、膠着状態となった。
 パラディンは誰一人として動こうとしない。いや、動けないのだ。この異様な雰囲気に対処ができていない。
 すると、天から液体が降ってきた。天から降ってくる液体といえば、もちろんあれしかない。
「雨・・・?」
 雨はかなり強く、ゲリラ豪雨のように急に降ってきた。
「む・・・」
 あいつが初めて強く感情を表に出した。嫌な顔をしている。
 その原因を突き止めるのはとても容易だった。
 体に纏わりついていた炎の鎧が、ジュゥゥ・・・と音を立て、徐々に剥がれてきている。
「まさか・・・水に弱い、のか・・・?」
 シンが半笑いでそう言うと、じりじりと距離を詰め始めた。それに倣って、他のパラディンも少しづつ前進し始めた。さっきとは逆の状況だ。
「ふむ・・・面倒なことになったな」
 フリードは顎に手を置き、なにやら悩みだした。
(そっちが動かないんなら、こっちが動いてやるよ)
 出来るだけ速く、出来るだけ静かに、腰の位置にあった刀を、滑らかに敵に向けて振った。
 距離もかなり空いていたので、これも最小限の動きで接近する。
 全ての動きが一体となり、奴に一発お見舞いさせた。
 刀の剣先が敵の体に刺さり、時が止まったような感覚に襲われた。実際には、時が遅くなっていたのだが、止まって見えるほどスローだった。
 その空間では、刀がわき腹に刺さったフリードの青い瞳が、瞬時に赤黒くなるところを僕の目に映し出していた。
 それと同時に体に纏わりついていた炎が消え、青い炎が爆発するように外に出てきた。
「っ・・・!」
 僕は刀を抜き、急いでフリードから離れたのだが、とんでもない熱が、後退できなかったパラディン達をバクリと飲み込んだ。
 青い炎に呑まれたパラディンは悲鳴を上げ、コアが起動した。まさに一撃必殺だ。
 フリードの体から出た炎は雨では消えず、逆に雨を蒸発させ、水蒸気が漂っている。爆発の時も水に熱い物体を放り込んだような音が聞こえたが、それだけでは威力はあまり下がらなかったということか。
「これは使いたくなかったのだが・・・」
 そう言うと、フリードはいきなり座り込み、何かを念じ始めた。
 チャンスだが、炎が邪魔で近づけない。
 僕らが何もできない状態でいると、フリードの下にさっきとは別の魔法陣が出現した。その魔法陣は明るい紫色をしており、大きい。
 出現と同時に上昇し、フリードの体をなぞるように消していった。
「いつか会おう・・・」
 捨て台詞のような言葉に、僕はこの魔法陣の正体が分かった。
「テレポート!?」
 僕が叫び、転送を阻止しようとするころには、頭まで魔法陣が上がっていた。
 完全にフリードを取り込むと、魔法陣は静かに消滅し、紫の鱗粉を散らしていった。
 取り残された僕たちは、紫色の光と、熱が消えていくのを黙って感じることしかできなかった。

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