パラディン・フリード  この狂った世界は終わることなく回り続ける

ノベルバユーザー46822

ウェポンとパラディンとフリード

 僕は剣をぐっと掴んだ。
 その瞬間、体に何かが流れ込んで来るような感覚を感じた。
「ん!?」
 体が燃えるように活性化し始め、僕の体から力が溢れている様だった。
 さらに、
「初めまして、ご主人様。私はあなたにお仕えするウェポンです」
 と、明るい女の子の声が直接耳から聞こえた。
「ど、どうも。初めまして・・・」
 真面目に挨拶を返し、混乱している頭を必死に動かしていた。
 え~と、まずお父さんが助けてくれて、モンスターが消えて、父さんから剣を貰って、その剣を取って、力が溢れて、女の子のウェポンに話しかけられて、僕がご主人で。
「なんじゃこれは・・・?」
 完全に頭がパンクした。
 だめだ。処理が追い付かない。誰か代わりに対応して。
「ご主人様?」
 再び声をかけられ、「はい?何でしょう?」と馬鹿みたいに返事をし、誰かにで頭を叩かれた。
「いたぁ!」
「しっかりしろよ。カゲト」
 どうやら、僕はシンに叩かれたらしい。鍛えているからか結構痛い。
 けど、そのおかげで(そのせいで)脳が冴えた。
「え、えっと・・・君は僕のウェポン?なのかな?」
「はい!その通りです!」
 僕がウェポンの女の子に問いかけると、とても元気な返事が返ってきた。
「私はあなたのために生まれてきたのです!」
(なんか凄い話が大事だな・・・)
 半分呆れて聞いていると、後ろから肩を叩かれた。
「カゲト、お前誰と話してんの?」
 シンが、大丈夫か?みたいな顔で僕に訊いてきた。
「え?誰って、この子とだよ」
 僕が答えるのと同時に、剣を指差すと、シンは仰天した。
「まじで!?ウェポンに意識があるって本当なのか!?すげぇ!天才かよ!?」
「いや、天才じゃないけど・・・」
「お前じゃない!お前の父さんたちだ!」
「あ、そう・・・」
 興奮するシンと謎の会話を行い、シンは[ウェポン]について知っていたことが分かった。
 そして、「うおー!?」とか、「やべぇー!?」とか言っている。
「何やってんだよ・・・」
 僕が呆れてため息を吐くと、ウェポンの女の子は僕に色々と話してきた。
「ご主人様!あなたはどの武器が使えますか?それと、私の名前はリオナと申します」
 どうやら、ウェポンには生まれつき名前があるらしい。このような人工知能[AI]がウェポンに組み込まれたときに、名前を付け、自我を植え付けたのだろう。
 活発なこの子は、リオナという名前らしい。
 恐らく、ウェポンというのは最先端の技術を使って製作している。
 機械で中を構築し、外を耐久性の高い金属で覆う。そして、人工知能を超えた自立式の知識で危険な部分を抑え、暴発しないようにしている、ということだろう。
 そんな物をお父さんは作っていたのだ。並の知能じゃ、こんなことは出来ない。
 改めて、お父さんの偉大さを感じる。
 とりあえず、リオナが武器の選択をずいずいと迫ってきているので、不明な点を明確にする。
「武器って、僕が選んで、どうするんだ?」
 僕の質問に対し、リオナは「まっってました!」と言い、説明を開始した。
「私たち[ウェポン]は、この地球に現れる、敵対する生物、[フリード]を駆逐するために開発されました。そして、ご主人様はウェポンを操る[パラディン]なのです!パラディンは時と場合によって、武器を使い分け、フリードを討伐するのです!てことなんで、ウェポンはパラディンの好みに合わせて、形を変えるわけなのです!ので、剣とあと一つ、好きな武器を選んでください!」
 うん。なんか他の情報まで言ったね?それ、早く言わないといけないやつだよね?
 そう思ったが、そこは我慢しよう。子供じゃあるまいし。
 リオナに悪気はないだろう。少し呑気っぽいし、お転婆少女、というのが第一印象だ。
 まあ、普通に愛らしい。元気をもらう。
「武器を選択か・・・なんかゲームっぽいな。・・・じゃあ、[銃]で」
 今のところ、使ったことがあるのが剣と銃だけで、遠距離の武器の方がいいかな?という勘で選択した。
 刀もありかな?と思ったが、剣と刀は似ているので、銃にした。
「了解しました!ご主人様!では、これをお渡ししますね」
 剣なのにどうやって渡すの?なんて、下らないことを考えていたが、次、目にした現象に驚愕した。
「え!?」
 何と、剣が光ったと思えば、左手首に半透明の結晶で出来たブレスレットが直接付いた。
 これも最先端の技術なのか?恐ろしいほど、未来的だ。
「そのブレスレットは、私とご主人様の契約の印です!互いに認め合うことで、残りの部分にもプレートが嵌まり、その度に新しい武器を登録することが可能らしいです。まだ、三つ以上、武器を使えるパラディンがいなかったので。けど、開発中はそう言っておられました!」
 確かに言われてみると、ブレスレットは縦長の水晶の枠で出来ており、その中に、物体(剣と銃のレプリカ)が入っている枠が二つ、他は半透明のままで、あと三つ枠があった。
 これは、パラディンとウェポンが絆を深め、互いを尊重し合うと枠に武器が嵌まり、その武器が使える、ということだと思った。
「そうか、ありがとう。ところで、その[ご主人様]っての、なんかくすぐったいから[カゲト]って呼んでくれないか?リオナ」
「おおー!ご主人様・・・ではなくカゲト様に名前を呼んでいただけるとは!光栄です!」
「いや、敬語じゃなくていいし、[様]はいらないよ。カゲトでいいよ。そんな風に呼ばれたことないから・・・」
「えっと・・・うん!わかった!カゲト!」
 僕は、リオナは関わりやすいな、と感じた。素直で、明るくて、新しい友達ができたみたいだ。
 知らないうちに、僕は顔が笑っていた。
 お父さんが言ってた、精神的に守ってくれる、とはこのことだろう。
「よろしく、リオナ」
 僕がそう言うと、リオナは笑った。それにつられて僕も笑った。
 なんだか胸が一杯になった。多分、これが優しさであり、愛というものなのだろう。
 泣きそうな気持ちを抑るため、僕は深呼吸をした。
「は~い、吸って~、吐いて~」
「のわぁぁ!?」
 完璧に忘れていた。背後に、少し前までやばかった奴がいることを。
 僕が放置していたそいつは腕を組み、とても機嫌が悪く、顔が怒っていた。
「あ、おう・・・シン・・・」
「おうっす。カゲトぉ?何やってたんだぁ?一人で・・・二人か。随分楽しそうじゃないかぁ?おい?俺にもそういうのないのかねぇ?なあ、カゲト?」
 怒ってる。怒ってる。やばいほど怒ってる。
「あ、あるんじゃない・・・?多分・・・」
 控えめにそう言うと、シンは組んでいた腕を戻し、普通のトーンで発言した。
「まあ、あんまり気にしてねぇよ。左腕の傷も治ってるし、また、ウェポンは配られるだろうよ」
 そういえばそうだ。ついさっきまで、シンの左腕は力がなかった。
 だけど、今は腕組みをしていた。お父さんが治したのだろう。けど、何で?まあ、いいか。
「酷い様だな・・・」
 シンは振り返り、中心が消滅した学校を見て、そう言った。
 地面にはコンクリートが粉々になり、ガラスや机などの勉強道具が散らばっていた。
 この状態では、もう授業どころの話ではない。復旧作業が主な時間割になるだろう。
 教師や、生徒の指示を飛ばす声や、生きているか、と声をかけている姿が、僕の目に焼き付いていた。
 そして、巨大なフリードを一人で止める、父の姿も。





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品