デュエル・ワールド・オンライン

ノベルバユーザー46822

オーガ討伐ミッション!③

「あれ大丈夫か?」
「さあ。でも一パーティーでボスを相手するって凄いな」
「しかも九人パーティーだろ?凄いっていうか神だろ」
「きつそうだけど、こっちはこっちでえぐいんだよな~」


 エーテル近くの木にもたれて休憩をしている四人プレイヤーは、キングオーガ、クイーンオーガの討伐メンバーで、今はHPが心もとなくなったので一度下がり、回復薬を飲んでいる。ヒーラーは戦線で回復をしているので、自分たちで回復しているのだ。
 その四人は全員クラスはナイトで、刀剣を持っていた。
「ほんとに。クイーンは魔法で後ろから攻撃してきてうざいし、キングは防御力が高いは、立ち位置がクイーンを守ってるは、盾が分厚いはでガチガチに固められてるのが、やっぱこの運営らしい」
「でもどんどんエーテルからプレイヤー集まってるし、普通にいけるんじゃね?」
 HPの回復の待ち時間に意見交流を行っており、無駄一つないできる男たちだが、この人たちはネットで「デュエル・ワールド・オンラインにて、討伐ミッション発令中!」というものを見つけ、DWOに飛んできた大人たちだ。
 仕事までの時間をできるだけ削って、ダイブしているのは、もちろん協力するため、そしてクリア報酬としてお金と経験値、より活躍した人に渡される豪華な景品のためだ。
 男たちの会話の中にもあったが、ネットで見た人、普通にログインした人がファーストワールドに流れ込んできているので、どんどん人数は増えていってるのだが、数があってもキングオーガは倒せない。戦況はあまり変わってなく、じわじわと削っては削られている、シビアな戦いになっている。
「どうだろうな。HP減らしすぎると強くなるし・・・」
「あ~そっか。うわあぁ~なんか無理っぽくね?」
「諦めてどうすんだよ。諦めたらそこで戦闘終了ですよ?」
「終了せずにぼこぼこにされると思うんだが・・・」
 そんな雑談をしていると、突如おっさんのような叫びが聞こえてきた。かなり離れているのに、耳を覆いたくなるほどの音量の大きさだった。
「なんだ!?」
「ジャイアントオーガだ!突破したか!?」
「いや、それはないだろ」
 休憩所にいるプレイヤーの興味が、男たちによってジャイアントオーガに向けられる。
 そこを見ると、ジャイアントオーガが顔を九十度上げて、雄叫びを放っていたところだ。
「何がしたいんだ?」
「さあ・・・」
「お、おい!オーガが寄ってきたぞ!?」
 剣と刀を持った二人のプレイヤーが顔を見合わせて話し合っている間に、エーテルの後ろ、木の陰から続々とオーガが登場してきた。
 薙刀を持ったパーティーリーダーが気づいたからよかったのだが、気付いていなければ棍棒に殴られてお陀仏だっただろう。
「あっぶねーなおい」
「お返しをくれてやるよ!」
 狙われた二人は威勢よくそう言ったのだが、後方でドゴォンという爆発音が聞こえてきて、肩を揺らしてびっくりする。
「こ、これはヒーローものにある背景演出か?」
「いや、ジャイアントオーガが反撃してる!」
 剣を構えた男はオーガに向きっぱなしだったが、刀を構えていた男は気になって振り向くと、ジャイアントオーガが前とは別の方向に剣を振り戻していたのだ。
「やべぇぞあれ!参加しに行くぞ!」
「ういっす!覚えておけよ!」
 リーダーの判断で大人たち四人グループと、他にもやばい、と判断したプレイヤーが急いでジャイアントオーガ戦に参加しようと、草原を駆け始めた。
 その矢先、ジャイアントオーガの後ろにいた三人のプレイヤーに向かって、柄が石で出来た長剣の刃の部分が、地面をぶっ叩く勢いで振り落とされた。
「おい!!」


「はぁ・・・はぁ・・・生、きてる・・・?」
 迂闊だった。攻撃パターンが変化したんだから、こっちにも斬撃が飛んでくることくらい予測できたはずなのに。思考が遅かった。
 幸い、反射的にスキルを発動させ、長剣とぶつかり合い、その結果、風圧でシオンが飛ばされ、両手でシーナとエレナの肩を掴み、一緒に斬撃から逃れられたので、デスはしなかったが、全身が動かないし、特にぶつかった左手が痺れている。
 HPを見ると、残り五。MAXが千七百五十なので、本当に運で生き残った感じだ。
「大丈夫!?」
「シオン君!」
 エレナとシーナは動けるらしい。でも、ジャイアントオーガはこっちに向いていると思うし、追撃で確実に死ぬ。
「に、げろ・・・」
 かろうじて口は動かせたので、二人に逃げるように言ったのだが、肩が持ち上がり、体が起き上がった。
「何やって・・・」
「デスをしないで済んだのはシオンのおかげだからね~」
「置いてなんかいかないよ~」
 二人は片方ずつ持って、バランスを保ちながら闘争を開始した。
 そんなことをしていると、ジャイアントオーガが追撃をしてくると思ったのだが、顔だけそちらに向けると、ジャイアントオーガが前に倒れていた。
 一時は目を疑ったが、よく見ると、右足がくるぶしの下からない。
 与え続けた傷が響き、他の三人が攻撃して折ってくれたのだろう。本当に運に救われた、と心底思った。


 一旦距離を置き、木の下で全員回復薬を飲む。クエストを全部クリアするつもりでファーストワールドに来たので、回復薬はかなりある。
 瀕死のHPだと二本飲む必要があるが、一本目の回復が終わるまで、飲んでも意味がない。
 こういうときに即時回復薬があれば便利だが、それはまだ手に入らない。
「ふぅ~・・・危なかったね~」
「なんでそんなエレナさんは呑気なんですか・・・?」
「その方が楽しいからに決まってるじゃん!それと敬語なしにさんは付けなくていいよ」
「わ、分かった。頑張り、っす!」
「タメ口慣れてないんだ・・・」
 エレナとシーナが友達になろうとしている会話が謎すぎて、シオンは思わず笑ってしまった。
「ほら、さっさと行くぞ。オーガと一人でバトりたいんだったら残ってもいいぞ~」
 シオンは背後から足音が聞こえたので、立ち上がり、二本目の回復薬のビンを振りながら走って戻りだした。
「「え?えぇぇぇ!?」」
 まさか二人とも気付いていなかったとは・・・もう少し警戒しなよ、そんなんだから男子にすぐに近くに入られるんだよ、と呆れながらもジャイアントオーガの方に戻る。もう動けないほどじゃないが、HPは回復しきっていない。
 後ろから必死になって追いかけてくる二人に気を配りながら、回復薬を飲み、戦況を確認する。
 ジャイアントオーガは右足が消えていて、今は袋叩き状態。後方のコグの氷魔法が、次々とジャイアントオーガのうなだれた頭に刺さっていってる。めっちゃ痛そう。けたたましい悲鳴が口から漏れていて、ジャイアントオーガを守ろうとオーガが寄ってくるが、ウォッカが相手をしている。
 後方に増援も発見したし、ジャイアントオーガはひとまず大丈夫。
 クイーンオーガは未だキングオーガに守ってもらっているが、ジャイアントオーガをかなり気にかけている様子だ。キングオーガはさっきと変わらず、防御して隙が生まれれば剣で攻撃をしている。優劣も全然変わっていない。
 プレイヤーの数は増えているし、攻撃パターンも分かってきているプレイヤーもいる。これは今のところ心配ないだろう。心配なのはHPが減って暴走した時だ。
 もし、そのシステムがあった場合、恐らくジャイアントオーガが暴走し、次にキングオーガ、最後にクイーンオーガの順になって、暴走したボスが二体になるというのはなさそうだ。
 でも、暴走したところでプレイヤーはまだまだいるし、暴走した時の攻撃に慣れてしまえば討伐は然程苦ではなくなるはずだ。
 あれ?案外勝機が見えてきた?
 そう思って肩の力が抜けかけたが、いかんいかんと自分を奮い立たせ、ジャイアントオーガへ復讐しに行く。エレナとシーナもシオンの後ろにつき、武器を構え、こちらに気付いたオーガ二匹を一人で相手する。
 左のオーガの棍棒を、下にもぐって回避し、心臓に跳びかかるように刀を刺し、すぐさま引っこ抜いて、もう一体のオーガの膝を踏み台にして棍棒を避けつつ、顔の位置まで体を持っていき、落下時に首を横に斬って仕留める。
「うわぁ・・・つよ・・・」
 エレナの口から自然に言葉が出た。その言葉に、シーナは大きく頷いた。
「そうか?もうオーガの動きは把握できたしいけるんじゃない?」
 振り向いて言ってきたシオンの無意識天才の言葉に、二人は顔を見合わせ、手で口元を隠して、ひそひそと話し始めた。
「やだね~・・・天才ってやつは・・・」
「ほんと・・・凡人にはできないって・・・」
「そんなことより敬語直ってるよ」
「あ、やった」
「イエイ!おめでとう!」
「ありがとう!」
 途中から内緒話でも何でもないただの会話になっていたが、ハイタッチまでして楽しそうなので良しとしよう。
「そんなことよりも!討伐!」
「「は~い」」


 全く、世話の焼ける友達と妹だこと。ジャイアントオーガはさっきとは違い、手を振り回して抵抗を始めていたが、斬撃よりも結構遅いため、抵抗になっていない。
(じゃあ、ちょっと活躍度頂いちゃいますか!)
 三人がジャイアントオーガの手の攻撃範囲内に入り、いきなり右手が迫ってきた。まだ遠いところにいるので、手は地面を擦って動いていた。
 二人はその手を跳んで回避しただけで、もう一度走り出したのだが、前にシオンがいなかった。
 疑問に思ったのだが、視界にシオンが現れたと思えば、ジャイアントオーガの腕に乗って、刀の切っ先を皮膚に当てながら、肩へ移動しようとしていたのだ。
「嘘・・・」
 その姿を見て、二人は関心もしたが、同時に自分との力の違いに悲しくなった。
 一方、シオンはそんなことは気にせず、移動する不安定な足場から踏み外さないように、体のバランスを保ち、肩に向かって急いで走っていた。
 肘を過ぎると、急に角度が上がったので、足に力を込め、刀で攻撃するのを忘れずに上った。
 ジャイアントオーガの顔がどんどん近付き、ついには肩に到達したとき、丁度ジャイアントオーガは右手を大きく上空に振り上げた。
 シオンを振り落とすとしたのだろうが、もう遅い。シオンは肩に立って、深呼吸をしていた。
「フッ!」
 思い切り跳躍し、刀をどこに向けているのか分からない目に刺した。
 グチュッという気持ち悪い音が手を伝わってきて、その次にジャイアントオーガは悲鳴を上げて、手で捕まえようとしてきた。
 それを予想していたシオンは、刺さった刀の金色の竜が書かれた柄に左手を当てて、足場として蹴る。
 そして、刀を引き抜くというよりは、斬り抜く感じでその場を離れ、左肩に移動。その後耳を刺し、またそれを足場として、もう一段階高い位置に移動、移動、移動、と三回繰り返し、頭まで上がった。
 頭に上った敵を排除しようと手で叩こうとしてきたが、シオンはひらっと躱し、指の親指以外の四本をスキル<連斬>で斬り飛ばす。
 連斬はアサシン討伐クエストが終わったときに、スキルに増えていたもので、数体の的を同時にロックオンすることで、一回振っただけなのに、その的全てに斬撃が入る、というなかなか強力なスキルだ。しかし、的には限度があるため、四本しか斬れなかった。
 また遅れて説明することになるが、スキルには段階がある。
 難易度、SP(スキルポイント)の消費を左右する<スキルラック>とは別に、スキルの完成度を表す<スキルランク>というものがある。
 スキルラックは多数、中数、少数、極数の四種類あって、多数から五、十、二十、五十のSPを消費するのだが、まずSPはどうやって増えるかというと、例えばランクの昇格であったり、クエストの報酬であったり、スキルランクが上がったりすればもらえるらしい。これはもちろんサイトに書いてあったものである。
 次にスキルランクだが、これはそのスキルを使う度に上がり、スキルでも動きが良くなったりするので、その成長の度合いで上昇する。
 スキルランクにも段階があり、下から下位、中位、上位、練達、奥義の五段階に分かれている。ランクが上がる毎に威力が上がるようだ。
 つまり、連斬のスキルランクを上げると、威力上昇と共に、的にできる数も増えるのだ。ちなみに、連斬のスキルラックは中数だった。
 シオンはここに来ることを目標にしていて、ここに来た時にすることは決まっていた。
 それは、少し残酷だが、頭にダメージを与えまくる。頭はダメージが大きいと思われるし、何よりジャイアントオーガは自分の頭なので、強く攻撃することができない。器用さも低いようなので、簡単にはここから落とせないだろう。
 とりあえず斬る。刺す。休憩せずに斬ったり刺し続ける。流石に頭を攻撃されて麻痺したのか、頭がふらつき始め、悲鳴も弱弱しくなっていった。地上でも他のプレイヤーが攻撃しているし、手が思うように動かなくなっている。地面も叩くだけで、掴んだりしない。シオンのいる頭上に限っては、手が届かないのか完全に攻撃し放題になっている。
「これでちょっとは減ってくれよ!」
 そして、フィナーレの頭から背中を伝い、地面に降りるまでずっと刀をジャイアントオーガに突き刺す。
 落下の勢いで刃がちゃんと通り、皮膚を削っていく。
 シオンが地面に着地して、上を見上げると、ジャイアントオーガの背中に縦の切り傷が引いてあった。


「グ・・・!ガァァァァァァ!!」
 来た。やっぱりこのゲームにも、このシステムはあった。
「攻撃パターン変更、およびHPの減少・・・」
 シオンの言葉に、ジャイアントオーガは隻眼を赤く光らせた。





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