デュエル・ワールド・オンライン

ノベルバユーザー46822

勝てるか分からない!

 今、目の前にいるアサシンの女性は、さっきの獰猛な視線を全く感じさせないほどに普通の人間だった。
 息を荒げて、全身が震えている姿は、悔しさが溢れていた。
「おかしいでしょ!?私は強化されてるのに!なんでなの!?」
 静かな高原に、高い叫びが響き、三人は戸惑って固まっていた。


「何も言ってくれないのね。そりゃそうだよね。だって・・・だって私はあなたたちと違うから!」
 落ち着いたかと思ったが、盛大に喚くとまた戦闘に戻った。いきなりだったが、シオンは納刀していなかったので、すぐに構えなおした。
 上段から振り下ろされた小太刀を刀を横にして受け止めたが、さっきよりも力が上がっていて、数センチ押し込まれた。
 しかし、受け流しが得意なシオンには、力は受け流す前の一瞬だけでいい。すぐさま敵の方に刀を流し、無防備な胴を斬りつける。分かってはいたが、空振りするのは少し嫌だ。
 思わず溜め息が出てしまったが、完璧に場違いだ。空気を読む以前の問題で、自分でも酷いとシオンは思った。


「まあ、どう攻略するか・・・」
 あの瞬間回避をどうするかだが、どうしようもないんじゃないかとも、シオンは考えている。間違いなく、アサシンは運営によってステータスが強化されており、操作しているのは人間。さらに、ダメージを与えようとすれば、姿が消え、攻撃が無効化される。これってーーー
 ーーーもしかして詰んでる!?
 また溜め息を吐いてしまうところだったが、相手もそんなに暇を与えはしない。
 流石に正面から掛かったら勝てない、と踏んだのか、溶けるように廃墟の中に潜り込んだ。
「うわ~面倒くさいことするな。負けず嫌いなのか?」
 カイトが心底呆れた、という顔で愚痴をこぼしたが、シオンとシーナも同感だった。
「どうする?」
「それ私に訊く?」
 やばい、時間が止まった。


 何をしたらよいか悩み、悩んで悩みつくした挙句、廃墟に侵入し、連れ去られた女の子を見つけて保護、その後アサシンと戦う。ということにした。
 このクエストは、一応ワールドクエストだが、報酬は一人、もしくはクエストクリアに貢献したプレイヤーにもらえるのかもしれない。じゃあ強力な武器が手に入るかも、という欲望に勝てるはずもなく、お金稼ぎは後回しにした。
 必ず勝てるとは三人とも思ってはいなかった。相手はチートに近い能力を持っているし、腕前も高かった。
 でも、この三人は他のVRゲームではなかなか有名なプレイヤーで、シオンに限っては、作ったギルドが半端なく強くなり、ランキングで一位をずっとキープしていた、なんて偉業も持っている。
 そして、プレイヤーから呼ばれた名が、<彗星・シオン>という超恥ずかしい名前だ。碧とカイト(リアルでは新崎海翔)に散々馬鹿にされて、顔が真っ赤になった経験がある。


 シーナは美少女戦士として有名で、一時期はファンクラブまであった。兄のシオンからすれば、とても複雑だったが、関係ないカイトからすれば、素直に喜んでファンクラブに加入していた。
 紫音だけ知っているのだが、海翔は碧のことが好きなのだ。一方の碧は、どうやら男性にはあまり興味がないらしく、誰かと付き合うんだったらお兄ちゃんがいい、なんて意味の分からないことを言っていた。


 そのかわいそうなカイトだが、日本でもトップレベルの有料情報サイトを運営している。この歳にして営業を営む彼は学校で崇められている人気者。
 さらに、実力もかなりあって情報屋の中では名の知れた人だ。
 だから、この三人は一朝一夕で勝てる相手ではない。


「これは不意打ちされやすい。ずっと警戒」
「「了解」」
 この廃墟は、以前は貴族の屋敷のようで、かなり豪華な構造になっていた。置いてある家具も高級品ばかりで、すごい貴族が住んでいたと予想できるが、今はどれもこれも使えなさそうだ。
 床も腐敗しており、階段と同じで歩くたびに軋む。そのため、相手から位置がばれやすくなっているので三人は警戒態勢を取っている。
 こういう屋内ではカイトが非常に頼もしい。一番前で偵察と視界のクリアをしてくれている。ハンドサインも分かりやすく、順調に廃墟を進んでいった。
 最上階の四階に上った時、カイトが手で止まれ、と示した。
 どうやら何かがあるらしい。一階、二階、三階のどれもはずれで、たまにアイテムが落ちているくらいだったので、シーナは気を抜いていたらしく、シオンの背中に顔をぶつけた。
 ぶつかった反動でバランスを崩したのか、今はシオンにしがみついて立っている。
 カイトは全員大丈夫なことを確認してから、ゆっくりと階段から右に廊下を見た。


「うっし!」
 間一髪、カイトは変な声を放ってアサシンの奇襲をしゃがんで回避し、右拳で殴ろうとしたのだが、案の定大きく跳んで躱された。
 一気にシオンとシーナが階段から飛び出して距離を詰め、最初にシオンが影のように素早い斬撃を繰り出す。
 アサシンは小太刀の切っ先で弾いているが、シオンの斬撃の速さに段々押され始めていた。シオンもただ闇雲に刀を振っているのではなく、右上を狙ったら、次は左下、その次は上と、防御しにくい所をピンポイントで崩していく戦法を使って、ステータスの不利を埋めている。
 さらに追い打ちをかけるように、シーナの突きが炸裂する。敵を捕らえたのだが、当たりはしない。


「やっぱ戦闘しない。女の子回収して逃げる」
 シオンはいくら戦っても、倒せないと判断し、アサシンをできるだけ無視して連れ去られた女の子を先に助け出して、後は多少強引でもいいから逃走すれば、クエストが進むだろうと考えた。
 クエスト差し出し人は女の子の母なので、女の子だけでも救えたら報酬がもらえるかな、と予測。
 他の二人はその作戦を実行するため、シオンの両脇を通り抜けて、女の子を探しに行こうとしてくれた。
 当然、アサシンはそれを阻止しようとするが、当然、それをシオンが阻止する。
 直感でシオンが放つ異様な威圧感に気圧されたのか、アサシンは数歩後ずさった。刀を正面に構え、腰を落として悠々としている態度が、異常なほどアサシンにプレッシャーを与えていた。
 観念したのか、アサシンも足に力を入れなおし、床を思いっ切り蹴って、右足の強烈な蹴りをかましてきた。
 アサシンは予想外の攻撃で一発食らわせられると思っていたのだが、シオンは体を前に倒してあっさりと回避した。それだけではなく、一太刀を繰り出し、敵はすれすれでシオンの頭上を通り過ぎ、左手で勢いを殺し、また駆け出した。
 手に汗握る闘いとはこのことだ。両者、一瞬も気が抜けない。
 今度はアサシンが連続斬撃をシオンに叩き込む。しかし、シオンはいとも簡単に斬撃を捌くと、一気にゼロ距離まで詰め寄り、左足を敵の足に絡めて、左手で床に押し倒した。そして右手で胸の上辺りに、手の甲で衝撃を与えようとした。するとーーー
「がっ!」
 攻撃が当たった。この事態になぜかシオンがあたふたと焦り、「うわぁ!すいません!」と素っ頓狂な声で謝っていた。
 アサシンはシオンの間抜けな声を聞いて、クスッと笑い、
「まさか一撃を食らうとは思ってもいなかったわ。じゃあまたね」
 最後の言葉を耳元で囁き、シオンの頭を優しく撫でて、彼女は消えた。
 心臓の鼓動と、顔が赤くなっているのを必死で抑え、シオンは溜め息を吐いた。
「あの人はなんなんだろう?」
 謎が多い、アサシンの女性プレイヤー。この人は誰なんだろう、という疑問が頭の中を支配し、深く考えることにした。
 操作しているのは運営に関わりのある本物の人間で、NPCではない。さらに、感情の起伏が激しく、自分に対して、何かコンプレックスを抱いているように思えた。年齢はシオンよりは年上で、二十歳くらいだろうか、
「って何考えてるんだ?」
 そういえば、名前を訊いていなかったな、と少し後悔をしたシオンだった。


 あの後、連れ去られた女の子は見つかり、しっかり保護し、ジェイカンド都市の貴族の宮殿まで連れて行った。女の子の名前は<カナ>と言い、外見に目立った傷もなく、何もされていないと言っていた。シオンが見つけ出したのが原因なのか、帰りにシオンと手を繋ぎたがっていたりと、えらくシオンを気に入った様子だった。貴族の屋敷を後にすると、三人は真っ直ぐ大神殿へ向かった。
 クエストの報酬を渡したい、とカナの母親に言われ、その時もらったサインの入った紙をクエスト受付のNPCに渡すと、クエストが一時クリアになった。
 報酬の武器だが、レア度の高い武器の一覧が書かれたパネルが出てきて、この中から一つずつ受け取ってもいい、と言われ、三人とも目を輝かせてじっくり一覧と睨み合った。
 ここにある武器は、レア度が四のものばかりで、かなりのお宝だ。
 ちなみに、アイテム、武器にもランクがある。
 一が低く、七が最高級のアイテムになっている。初心者用の装備はすべてレア度は一だったので、一から四へ大幅にレベルアップするのはとても嬉しい。
 シオンは新しい刀、<正宗>を手に入れ、カイトはブーツ、シーナは長剣を選択した。他の武器も魅力的だったのだが、<正宗>に魅かれたシオンだった。


 流石はレア度四の武器なだけあって、特性が付いている。効果は、相手にダメージを与える度に切れ味、威力、速度が上昇する、という序盤にしてはなかなかゲームバランスが崩壊していたが、通常の攻撃が当たらず、ステータスが強化されている敵を倒した、と考えると、この強さも納得できなくはなかった。


 レベルも上がり、新しくスキルを習得したところでタイムリミットが来たので、やむを得ず、一度ログアウトすることになった。
 次ログインしたら、いろいろしてみようと心に決めて、右のパネルの一番下にある、<ログアウト>を押した。



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