デュエル・ワールド・オンライン
このゲームは異常だ!
何とか光の柱が見えるところまで戻ってきたのだが、プレイヤーがモンスターの奪い合いをしていた。
あれは俺の獲物だとか、横取りするんじゃねぇとか、実に醜い。
さっきの大人数戦闘で、心身疲弊しきっているシオンは呆れて溜め息を吐いた。
でも、そんな言い合いをして、ウルフに噛み付かれたり、ボアーに突進されて吹き飛ばされるプレイヤーは一人もいない。なんせ、ここにいるプレイヤーのほとんどが、カイトがネットに載せた情報を見たものばかりなので、上級者と言っていいだろう。
カイトのサイトはお金を払うと見ることができるサイトだから、まず初心者はお金を払ってそういうことをする以前に、サイトがあることさえ知らないであろう。
「いや~、それにしても賑やか賑やか」
カイトがそう喋ると、戦闘をしていない何人かがカイトに向かって「ありがとよ」と親指を挙げて言った。
流石は一流の情報屋ですな、と知らぬうちに思っていたシオンであったが、視界にフリーのオーガが入ったので、口端を吊り上げ、刀を素早く抜いてオーガに向かって駆け出した。
「あいつ戦闘狂かよ・・・」
カイトが顔を引きつらせていると、シオンが起こした旋風を防ぐために腕を挙げた。
一体何時間狩っていただろう。いくらゲームとはいえ、疲れるものは疲れる。
見れば、ファーストワールドに来ているプレイヤーの年齢層が若くなっていっていた。おじさんたちは仕事だろう。
それに代わって春休み真っ只中の子供たちが朝早く起きて、大人たちと変わるようにDWOをプレイしているのだ。
「ワールドクエストどうするよ?いけるのか?」
カイトが木にもたれ掛かり、シオンとシーナに問うてくる。
二人は悩み、先に言うことが見つかったシオンが答える。
「う~んとね・・・これは僕の勝手な予想なんだけど、他のRPGをやっていた人たちはこのクエストの重要性が分かっていると思うから、後は初心者とお金が集まるかどうかが問題になってくるんじゃないかな」
「それに、まだ騎士団のなんちゃらドラゴンズの場所も分かってないもんね」
「ジェイス・ドラゴンズな」
シーナが言ってくれたので気付いたのだが、まだ投資場所が見つかってなかったし、騎士団にお金が入るということは、何かプレイヤーにとって有利なことになるのではないか、とシオンは考えており、それで初心者にも分かってもらえなだろうか、と頭を悩ませていた。
シーナの曖昧なところにしっかりツッコミを入れるカイトに苦笑しながらも、シオンは懸命に解決策を考えていた。
もし、クエストがクリアができなかった場合どうなるのか。それが一番不明なところだ。
普通のワールドクエストは何時間掛かっても、絶対クリアできるクエストに設定されており、仮に時間制限が付いても、そのクエストはただのラッキークエストに過ぎなかったのだが、今回のは違う。
そもそもメインストーリーの一部として出てきた時点でかなり異常だし、クエストに失敗したら、騎士団の準備が完全に調っていない状態で、不吉な何かを迎えないといけなくなるだろう。
というかドーナさん。めっちゃモンスターいますやん。
まあ、さっきまでは少なかったから、良しとしておこう。
これだけモンスターがいれば、狩りすぎてモンスターが消えることはなさそうだし、狩りまくってもモンスターは無限に湧くので大丈夫だ。全てのモンスターを狩れれば、目標金額くらいサクッと集まる。だけど、そう簡単に狩れないのが問題点。
こんなにもクレイジーなゲームは初めてだ。
「じゃあ少し狩りますか」
「は~い」
「うい~」
呆れながらも、自分を奮い立たせてくれるゲームをやらないわけにはいかない、と立ち上がるシオンだった。
とある企業のビルの一部屋で、パソコンにひたすら向かって、ゲームのデータを集めている人たちがいた。
「こんなにもログインしてくれるとは思ってませんでしたよ」
黒縁の眼鏡を掛けた、いかにも不健康そうな男性がパソコンの画面を眺めながら、嬉しそうにそう言った。
「本当に。これだと問題はなさそうかな、リーダー?」
少し太った、これもまた眼鏡を掛けている男性がローラーのついた椅子で下がり、窓際に腕を頭の後ろで組み、堂々と座っている髭を生やした男性に向かって言葉を投げた。
「ん?まあ・・・そうだな。どうやら、ずば抜けて強そうなやつが数人いるからな。それに情報屋に有名人までもDWOをプレイしてるから、そういうやつらが協力するよう他のプレイヤーを躾けたら大丈夫だろ」
その<リーダー>と呼ばれた男性は、ファーストワールドにいるプレイヤーと、チェックしてある数人のプレイヤーのリストを遠目で眺めていた。
そして、子供っぽく笑い、立ち上がった。
「これは楽しくなりそうだ」
ーーージェイカンド都市では、狩りに疲れたプレイヤーや、今ログインしたプレイヤーなどで、溢れかえっていた。
シオンがログインした時よりも、何倍もの人数がジェイカンド都市をうろうろしていた。
日本人にとっては、この西洋風の建物を見るだけでも楽しいだろう。
「ジェイス・ドラゴンズは大神殿の地下にあったらしいぞ。これで残すは資金集めだな」
カイトが画面を消しながら、隣で歩いているシオンに話しかけてきた。
今は三人でジェイカンド都市にも仕掛けがないかを、三人で確かめているところだ。そして、ついでにサイトには書いていなかった新しい情報も入手したいとシオンは考えている。
「にしても、ネット上じゃDWOの話で持ち切りだ。もうすぐメンテナンスが入るらしいし、早くも更新だとよ。どう思う?」
カイトがポケットに手を入れる、いつものおちゃらけスタイルでシオンに意見を求めてきた。
そう。なんとサーバー開始から一時間ほどでアップデートの実施が決定し、新しいシステムの搭載や、ジェイカンド都市の拡大を行うそうだ。
「これは運営の予想よりも伸びてる、ってことだと思うけど、それにしてはおかしいところもあるから、何かが裏に隠されてるんじゃないかな」
シオンが違和感を感じたところは、新システムの[コロシアム]の急遽開場と、武器を作ってもらったり、強化してもらう[鍛冶屋]に、アイテムをランダム生成する[アイテムの壺]の出現という、ゲームのサブ要素とメイン要素が混じったアップデートだということ。
ジェイカンド都市の拡大は納得できる。でも、なぜ始めからほぼ必須の鍛冶屋を入れなかったのか。最初からコロシアムとアイテムの壺があっても、別に良かったのではないか。
こんな短時間で用意できているということは、サーバーが開始した時から完成していたと考えるのが普通で、運営は渋ったのか、あえて外したのか、考えていることが理解できない。
とにかく、運営の動きが何かを企んでいるかのように感じられた。
「そんなことあるか?」
カイトはただ単にアップデートだと思っているそうだ。シーナも顔をしかめて、なんか難しい会話来た、なんて思っているだろう。
「考えすぎかもしれないけどね」
シオンは微笑んで肩を揺らした。
こればかりはゲーム制作に関わっていないので、分からないからしょうがない。
「それより、ワールドクエストどうするの?」
シーナが頭が痛くなりそうな話題から、簡単な話題に変え、カイトとシオンが口をそろえて、
「「クエストで稼ぐ」」
と、見事なシンクロっぷりだった。
<クエスト>とは、いわゆるアルバイトのようなもので、その種類は様々だ。
モンスターの討伐が目的の<討伐クエスト>や、指定のアイテムを集める<収集クエスト>など、山ほどある。
そんなクエストを受注して、目的をクリアすれば、お金やアイテム、経験値などなど、冒険に役立てることができる。
二人が言っているクエストは、時間と獲得できるヴェノムの比率を考えた、効率が良いお得クエストのことを差すのだろう。
「流石二つ名持ちのプレイヤーだね・・・」
シーナは似たような雰囲気を持った、この二人を見て、顔をひきつらせた。
でも、実際にクエストで力を付ける人も多い。
全然見かけなかった人が、次に見たときに装備がいかにも上級者だった、なんてことは他のゲームでよくあった。
シーナの友達に、それに近いことをして、一気に前線に上がった人までいる。
つまり、クエストはなかなか良いシステムなのだ。
「それじゃあ、良さそうなクエスト探しに行こうか」
シオンの提案に、
「ほいっす~」
「は~い」
各々返事をして、大神殿へと向かう三人であった。
しかし、大神殿に向かう途中の道中で、ある事件が起こった。
「ん?なんだあれ?」
カイトが言っているのは、道路一杯に広がるプレイヤーのことだろう。
人十人は余裕で横になって歩ける広さのあるジェイカンド都市の街路だが、その街路が全てプレイヤーで埋め尽くされていた。これは確実にトラブルがあったに違いない。もしくはイベントの取り合いか。でもそれにしては静かすぎるか。
興味が湧いてきて、人だまりの中心が見たくなった三人は、人を退けるのが無理そうだと判断し、大神殿から逃走するときにやったことと同じことをして、住宅の屋根に上った。
一番先に最もパルクールがうまいシオンが屋根に上ったのだが、中心を見たときに、あまりの衝撃で屋根から滑り落ちそうになった。
正直、心臓が止まるかと思った。なんせ、人が首から血を流して倒れていたのだ。
黒い、スーツのような服装からして、恐らくNPCで、貴族のような、比較的地位が高いNPCだと分かった。
首にざっくりと切り傷があり、首からながれた血は石タイルを赤く染め上げており、かなり酷い殺され方をしていた。
「シーナは来るな」
低い声でそう言ったので、シーナはからかっているわけではないと感じ、地面にとどまった。
カイトはお構いなしに上がってきたが、惨状を見て、「うわ・・・」と言葉をこぼした。
確かデュエル・ワールド・オンラインの年齢制限は十二歳だった。でもこれは間違いなく十八歳制限の域に達している。
よく見れば、群衆の中に気絶している人がかなりいた。それはそうだ。これは仮想世界であるとはいえ、面白みを増すために、リアルと近いように作られている。それがかえってグロくなってこのような事態を招いているのだが。しかも、年齢層が若生なっているのも、若干効いているだろう。
「これ収拾できる?」
「いや、きついだろ。てか誰がやったんだ?攻撃できるっていうのもおかしいし、ダメージ食らってもエフェクトで傷がつくだけじゃないのか?」
カイトはいつになく真剣で、頭もキレている。いざって時にカイトはとても頼もしい人物だ。前に説明したが、ダメージは、攻撃を受けてところに傷がつくだけで、血は流れないはずだ。しかも、HPがゼロになれば爆散するはずだし、まずここは街中で、攻撃はできないのではないか。そう疑問に二人は思ったのか、顔を見合わせて、頷き合った。
その次の瞬間、シオンが手のひらを差し出し、その手をカイトが小太刀で刺した。
「な、なにやってるの!?」
下からシーナの驚きの声が聞こえたが、それよりも、傷がどうなっているかの方が二人にとっては意識が強かった。
結果はーーー
「やば・・・」
「嘘だろ・・・!」
シオンの手には普通に小太刀の刃が貫通しており、痛みもかなりあった。さらには、小太刀の先から血がだらだらと、オレンジ色の屋根に流れ落ちていた。
シオンは小太刀を顔を歪めながら引き抜くと、自分のHPを見た。デュエル・ワールド・オンラインは相手のHPだけじゃなく、自分のHPも視界に表示されない。唯一、プレイヤーがHPを見たい、と念じた時にだけ、視界の下のほうにバーと数字で表される。
そして、表示されたHPバーは、なんと空白があり、数字も減っている。
「ありえない・・・!」
シオンは自分が今とても焦り、恐怖していると感じた。刺された手が痛みだけじゃない要素で震えているし、呼吸も乱れていた。
カイトに伝えなければいけないのだが、衝撃が大きすぎて言葉が喉から出てこない。でも、カイトはシオンの表情と態度だけを見て、どうだったのかを察した。
もしかすると、都市の中であれば、こういった出血と、HPがゼロになったときは死体が残るのかもしれない。都市だろうとフィールドだろうとどこだろうと、安全な場所はひとつもない。死ぬのが怖ければ、ログアウトするしかない、という運営の計らいか。
「やばいゲームだな、これは」
カイトが呟いた瞬間、地面が揺れたと思わせるほど、巨大な悲鳴が轟いた。
「キャアアアアアアア!!!」
声がしたほうを向くと、倒れている男に、小さな女性が膝を地面につけて寄り添っている姿が見えた。
泣き叫び、必死に体を揺らしているが、男はただ揺さぶられるだけ。そんな光景を見て、二人は胸を締め付けられた。
「ねぇ、何があったの・・・?」
下から恐る恐るシーナが訊いてきて、答えようか迷ったが、これは伝えておいたほうがいいだろう。
「人が血を流して死んでた。多分NPC」
案の定、シーナは口を手で押さえ、ふらついたが、悲鳴を上げるまではいかなかった。
シーナを操作している碧は、こういうバイオレンス系はとても苦手で、家でそういうテレビを見ていれば、チャンネルを変えて、と言うか、なるべくテレビの画面を見ずに、耳を抑えて二階の自分の部屋に上がっていくのだ。それほどに怖いのだろう。というか、これが正常であり、確実に殺人現場なのに、かなり平然と解決に向けて思考を巡らせているシオンとカイトが異常なのだ。
「いや~やっぱこういうの見ると、止められなくなるよね~」
ふと、そんな場違いな呑気な声が聞こえた。
しかも、セリフは犯人そのものだった。
「誰だ!?」
これは好機だ。犯人の姿を見ておけば、逮捕の手掛かりとなる。だが、どこを見てもそんな雰囲気の人はいず、色彩豊かな瓦の屋根が並ぶばかりだ。
すると、不意に背中に気配を感じた。
「君こそだれかな?」
シオンの耳元で、低い声が聞こえた。
あれは俺の獲物だとか、横取りするんじゃねぇとか、実に醜い。
さっきの大人数戦闘で、心身疲弊しきっているシオンは呆れて溜め息を吐いた。
でも、そんな言い合いをして、ウルフに噛み付かれたり、ボアーに突進されて吹き飛ばされるプレイヤーは一人もいない。なんせ、ここにいるプレイヤーのほとんどが、カイトがネットに載せた情報を見たものばかりなので、上級者と言っていいだろう。
カイトのサイトはお金を払うと見ることができるサイトだから、まず初心者はお金を払ってそういうことをする以前に、サイトがあることさえ知らないであろう。
「いや~、それにしても賑やか賑やか」
カイトがそう喋ると、戦闘をしていない何人かがカイトに向かって「ありがとよ」と親指を挙げて言った。
流石は一流の情報屋ですな、と知らぬうちに思っていたシオンであったが、視界にフリーのオーガが入ったので、口端を吊り上げ、刀を素早く抜いてオーガに向かって駆け出した。
「あいつ戦闘狂かよ・・・」
カイトが顔を引きつらせていると、シオンが起こした旋風を防ぐために腕を挙げた。
一体何時間狩っていただろう。いくらゲームとはいえ、疲れるものは疲れる。
見れば、ファーストワールドに来ているプレイヤーの年齢層が若くなっていっていた。おじさんたちは仕事だろう。
それに代わって春休み真っ只中の子供たちが朝早く起きて、大人たちと変わるようにDWOをプレイしているのだ。
「ワールドクエストどうするよ?いけるのか?」
カイトが木にもたれ掛かり、シオンとシーナに問うてくる。
二人は悩み、先に言うことが見つかったシオンが答える。
「う~んとね・・・これは僕の勝手な予想なんだけど、他のRPGをやっていた人たちはこのクエストの重要性が分かっていると思うから、後は初心者とお金が集まるかどうかが問題になってくるんじゃないかな」
「それに、まだ騎士団のなんちゃらドラゴンズの場所も分かってないもんね」
「ジェイス・ドラゴンズな」
シーナが言ってくれたので気付いたのだが、まだ投資場所が見つかってなかったし、騎士団にお金が入るということは、何かプレイヤーにとって有利なことになるのではないか、とシオンは考えており、それで初心者にも分かってもらえなだろうか、と頭を悩ませていた。
シーナの曖昧なところにしっかりツッコミを入れるカイトに苦笑しながらも、シオンは懸命に解決策を考えていた。
もし、クエストがクリアができなかった場合どうなるのか。それが一番不明なところだ。
普通のワールドクエストは何時間掛かっても、絶対クリアできるクエストに設定されており、仮に時間制限が付いても、そのクエストはただのラッキークエストに過ぎなかったのだが、今回のは違う。
そもそもメインストーリーの一部として出てきた時点でかなり異常だし、クエストに失敗したら、騎士団の準備が完全に調っていない状態で、不吉な何かを迎えないといけなくなるだろう。
というかドーナさん。めっちゃモンスターいますやん。
まあ、さっきまでは少なかったから、良しとしておこう。
これだけモンスターがいれば、狩りすぎてモンスターが消えることはなさそうだし、狩りまくってもモンスターは無限に湧くので大丈夫だ。全てのモンスターを狩れれば、目標金額くらいサクッと集まる。だけど、そう簡単に狩れないのが問題点。
こんなにもクレイジーなゲームは初めてだ。
「じゃあ少し狩りますか」
「は~い」
「うい~」
呆れながらも、自分を奮い立たせてくれるゲームをやらないわけにはいかない、と立ち上がるシオンだった。
とある企業のビルの一部屋で、パソコンにひたすら向かって、ゲームのデータを集めている人たちがいた。
「こんなにもログインしてくれるとは思ってませんでしたよ」
黒縁の眼鏡を掛けた、いかにも不健康そうな男性がパソコンの画面を眺めながら、嬉しそうにそう言った。
「本当に。これだと問題はなさそうかな、リーダー?」
少し太った、これもまた眼鏡を掛けている男性がローラーのついた椅子で下がり、窓際に腕を頭の後ろで組み、堂々と座っている髭を生やした男性に向かって言葉を投げた。
「ん?まあ・・・そうだな。どうやら、ずば抜けて強そうなやつが数人いるからな。それに情報屋に有名人までもDWOをプレイしてるから、そういうやつらが協力するよう他のプレイヤーを躾けたら大丈夫だろ」
その<リーダー>と呼ばれた男性は、ファーストワールドにいるプレイヤーと、チェックしてある数人のプレイヤーのリストを遠目で眺めていた。
そして、子供っぽく笑い、立ち上がった。
「これは楽しくなりそうだ」
ーーージェイカンド都市では、狩りに疲れたプレイヤーや、今ログインしたプレイヤーなどで、溢れかえっていた。
シオンがログインした時よりも、何倍もの人数がジェイカンド都市をうろうろしていた。
日本人にとっては、この西洋風の建物を見るだけでも楽しいだろう。
「ジェイス・ドラゴンズは大神殿の地下にあったらしいぞ。これで残すは資金集めだな」
カイトが画面を消しながら、隣で歩いているシオンに話しかけてきた。
今は三人でジェイカンド都市にも仕掛けがないかを、三人で確かめているところだ。そして、ついでにサイトには書いていなかった新しい情報も入手したいとシオンは考えている。
「にしても、ネット上じゃDWOの話で持ち切りだ。もうすぐメンテナンスが入るらしいし、早くも更新だとよ。どう思う?」
カイトがポケットに手を入れる、いつものおちゃらけスタイルでシオンに意見を求めてきた。
そう。なんとサーバー開始から一時間ほどでアップデートの実施が決定し、新しいシステムの搭載や、ジェイカンド都市の拡大を行うそうだ。
「これは運営の予想よりも伸びてる、ってことだと思うけど、それにしてはおかしいところもあるから、何かが裏に隠されてるんじゃないかな」
シオンが違和感を感じたところは、新システムの[コロシアム]の急遽開場と、武器を作ってもらったり、強化してもらう[鍛冶屋]に、アイテムをランダム生成する[アイテムの壺]の出現という、ゲームのサブ要素とメイン要素が混じったアップデートだということ。
ジェイカンド都市の拡大は納得できる。でも、なぜ始めからほぼ必須の鍛冶屋を入れなかったのか。最初からコロシアムとアイテムの壺があっても、別に良かったのではないか。
こんな短時間で用意できているということは、サーバーが開始した時から完成していたと考えるのが普通で、運営は渋ったのか、あえて外したのか、考えていることが理解できない。
とにかく、運営の動きが何かを企んでいるかのように感じられた。
「そんなことあるか?」
カイトはただ単にアップデートだと思っているそうだ。シーナも顔をしかめて、なんか難しい会話来た、なんて思っているだろう。
「考えすぎかもしれないけどね」
シオンは微笑んで肩を揺らした。
こればかりはゲーム制作に関わっていないので、分からないからしょうがない。
「それより、ワールドクエストどうするの?」
シーナが頭が痛くなりそうな話題から、簡単な話題に変え、カイトとシオンが口をそろえて、
「「クエストで稼ぐ」」
と、見事なシンクロっぷりだった。
<クエスト>とは、いわゆるアルバイトのようなもので、その種類は様々だ。
モンスターの討伐が目的の<討伐クエスト>や、指定のアイテムを集める<収集クエスト>など、山ほどある。
そんなクエストを受注して、目的をクリアすれば、お金やアイテム、経験値などなど、冒険に役立てることができる。
二人が言っているクエストは、時間と獲得できるヴェノムの比率を考えた、効率が良いお得クエストのことを差すのだろう。
「流石二つ名持ちのプレイヤーだね・・・」
シーナは似たような雰囲気を持った、この二人を見て、顔をひきつらせた。
でも、実際にクエストで力を付ける人も多い。
全然見かけなかった人が、次に見たときに装備がいかにも上級者だった、なんてことは他のゲームでよくあった。
シーナの友達に、それに近いことをして、一気に前線に上がった人までいる。
つまり、クエストはなかなか良いシステムなのだ。
「それじゃあ、良さそうなクエスト探しに行こうか」
シオンの提案に、
「ほいっす~」
「は~い」
各々返事をして、大神殿へと向かう三人であった。
しかし、大神殿に向かう途中の道中で、ある事件が起こった。
「ん?なんだあれ?」
カイトが言っているのは、道路一杯に広がるプレイヤーのことだろう。
人十人は余裕で横になって歩ける広さのあるジェイカンド都市の街路だが、その街路が全てプレイヤーで埋め尽くされていた。これは確実にトラブルがあったに違いない。もしくはイベントの取り合いか。でもそれにしては静かすぎるか。
興味が湧いてきて、人だまりの中心が見たくなった三人は、人を退けるのが無理そうだと判断し、大神殿から逃走するときにやったことと同じことをして、住宅の屋根に上った。
一番先に最もパルクールがうまいシオンが屋根に上ったのだが、中心を見たときに、あまりの衝撃で屋根から滑り落ちそうになった。
正直、心臓が止まるかと思った。なんせ、人が首から血を流して倒れていたのだ。
黒い、スーツのような服装からして、恐らくNPCで、貴族のような、比較的地位が高いNPCだと分かった。
首にざっくりと切り傷があり、首からながれた血は石タイルを赤く染め上げており、かなり酷い殺され方をしていた。
「シーナは来るな」
低い声でそう言ったので、シーナはからかっているわけではないと感じ、地面にとどまった。
カイトはお構いなしに上がってきたが、惨状を見て、「うわ・・・」と言葉をこぼした。
確かデュエル・ワールド・オンラインの年齢制限は十二歳だった。でもこれは間違いなく十八歳制限の域に達している。
よく見れば、群衆の中に気絶している人がかなりいた。それはそうだ。これは仮想世界であるとはいえ、面白みを増すために、リアルと近いように作られている。それがかえってグロくなってこのような事態を招いているのだが。しかも、年齢層が若生なっているのも、若干効いているだろう。
「これ収拾できる?」
「いや、きついだろ。てか誰がやったんだ?攻撃できるっていうのもおかしいし、ダメージ食らってもエフェクトで傷がつくだけじゃないのか?」
カイトはいつになく真剣で、頭もキレている。いざって時にカイトはとても頼もしい人物だ。前に説明したが、ダメージは、攻撃を受けてところに傷がつくだけで、血は流れないはずだ。しかも、HPがゼロになれば爆散するはずだし、まずここは街中で、攻撃はできないのではないか。そう疑問に二人は思ったのか、顔を見合わせて、頷き合った。
その次の瞬間、シオンが手のひらを差し出し、その手をカイトが小太刀で刺した。
「な、なにやってるの!?」
下からシーナの驚きの声が聞こえたが、それよりも、傷がどうなっているかの方が二人にとっては意識が強かった。
結果はーーー
「やば・・・」
「嘘だろ・・・!」
シオンの手には普通に小太刀の刃が貫通しており、痛みもかなりあった。さらには、小太刀の先から血がだらだらと、オレンジ色の屋根に流れ落ちていた。
シオンは小太刀を顔を歪めながら引き抜くと、自分のHPを見た。デュエル・ワールド・オンラインは相手のHPだけじゃなく、自分のHPも視界に表示されない。唯一、プレイヤーがHPを見たい、と念じた時にだけ、視界の下のほうにバーと数字で表される。
そして、表示されたHPバーは、なんと空白があり、数字も減っている。
「ありえない・・・!」
シオンは自分が今とても焦り、恐怖していると感じた。刺された手が痛みだけじゃない要素で震えているし、呼吸も乱れていた。
カイトに伝えなければいけないのだが、衝撃が大きすぎて言葉が喉から出てこない。でも、カイトはシオンの表情と態度だけを見て、どうだったのかを察した。
もしかすると、都市の中であれば、こういった出血と、HPがゼロになったときは死体が残るのかもしれない。都市だろうとフィールドだろうとどこだろうと、安全な場所はひとつもない。死ぬのが怖ければ、ログアウトするしかない、という運営の計らいか。
「やばいゲームだな、これは」
カイトが呟いた瞬間、地面が揺れたと思わせるほど、巨大な悲鳴が轟いた。
「キャアアアアアアア!!!」
声がしたほうを向くと、倒れている男に、小さな女性が膝を地面につけて寄り添っている姿が見えた。
泣き叫び、必死に体を揺らしているが、男はただ揺さぶられるだけ。そんな光景を見て、二人は胸を締め付けられた。
「ねぇ、何があったの・・・?」
下から恐る恐るシーナが訊いてきて、答えようか迷ったが、これは伝えておいたほうがいいだろう。
「人が血を流して死んでた。多分NPC」
案の定、シーナは口を手で押さえ、ふらついたが、悲鳴を上げるまではいかなかった。
シーナを操作している碧は、こういうバイオレンス系はとても苦手で、家でそういうテレビを見ていれば、チャンネルを変えて、と言うか、なるべくテレビの画面を見ずに、耳を抑えて二階の自分の部屋に上がっていくのだ。それほどに怖いのだろう。というか、これが正常であり、確実に殺人現場なのに、かなり平然と解決に向けて思考を巡らせているシオンとカイトが異常なのだ。
「いや~やっぱこういうの見ると、止められなくなるよね~」
ふと、そんな場違いな呑気な声が聞こえた。
しかも、セリフは犯人そのものだった。
「誰だ!?」
これは好機だ。犯人の姿を見ておけば、逮捕の手掛かりとなる。だが、どこを見てもそんな雰囲気の人はいず、色彩豊かな瓦の屋根が並ぶばかりだ。
すると、不意に背中に気配を感じた。
「君こそだれかな?」
シオンの耳元で、低い声が聞こえた。
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