デュエル・ワールド・オンライン

ノベルバユーザー46822

死ぬのは御免!

 ひとまず、初戦は見事に勝利を収めた二人だったが、予想外のゲームシステムに悩まされることになった。
「モンスターいないね・・・」
 シオンの隣でシーナが肩を落としながらそう言った。
 丁度、シオンも同じことを思っていたところだ。
 さっき戦ったボアー以外に、光の柱の周辺にモンスターがいないのだ。これはどういうことだろうか?無駄にデカ広い高原に、木と草だけが生い茂っているとは、広大な土地の無駄遣いとしか言いようがない。売店を運営しているNPCにとっては嬉しいと思うが、プレイヤーは血の気が多いので、退屈する。
 早くダンジョンに来れてよかった、と心底思うシオンだった。


「そういえば、他にプレイヤー来ないな」
 数分はファーストワールドにいるのだが、全く光の柱から他のプレイヤーがここに来ていない。普通なら、数人来てもおかしくないはずなのだが。VRRPGのコアプレイヤーならば、この程度の意地悪なんて自分を奮い立たせる要素でしかないし、困っているにしては悩む時間が長すぎる。
「おに・・・シオン君が速すぎるんじゃないの?それだったら、プレイヤー掲示板に情報を書き込んだら?」
 シーナが言っている<掲示板>とは、ログインしている全プレイヤー掲示板を非表示にしているプレイヤーを除いてがチャットを行う、いわば全プレイヤーが会話をすることができる場所がある。
 シオンは文字が邪魔臭いので、非表示にしているが、今頃、運営の扱いの雑さに不満を漏らす声で溢れ返っているだろう。
 シーナの言うことも一理あるが、シオンにはもっといい方法がある。
「じゃあ、カイトにこの情報売ろうかな~」
 そう言って、早速、上から下へ人さし指を下ろし、ホーム画面を引っ張ってくる。これは、どのゲームをしていてもできることで、今回の場合、フレンド登録をしている人にコンタクトを取るために開いた。


 フレンドリストを見ると、フレンドのほとんどの人がDWOをプレイしていた。
 シオンのフレンドはリアルの友達もいるが、ネット上の友達も少なくない。
<カイト>とはフレンドの一人で、ネット界、特にVRゲームの中では<情報屋カイト>という二つ名まであるほどの有名人で、正確で素早い情報提供をしている友人のことだ。
 そのカイトに、「ダンジョンまでの行き方を知ってる。サイトで提供したいなら、お金を用意しておいて」とメッセージを送り、満足そうにホーム画面を閉じるシオン。
「うわ~・・・性格悪いね~シオン君・・・」
 隣でシーナに引かれているが、お金がもらえるかもしれないので、そんなことは気にしない。ていうかお前も兄妹なんだから、同じ血が流れてるって、そう思ったが、口には出さない優しいお兄ちゃんであった。


「とりあえず、DWOは普通のVRRPGとは別物、って思った方がいいね。全くもって普通の要素がない」
「う~ん・・・これ本当にプレイ人口大丈夫かな?」
 シオンとシーナが真面目にゲームのことを考えて、不安だらけだ。
 これは儲かるのか?ついそう思ってしまう。
 なんせ、このゲームはダウンロードに二千五百円、あとはサーバーの接続料で儲けを得ようとしているのだが、プレイする人数が減れば、自動的に収入も落ちてしまう。
 なのに、わざわざゲームをする人が減りそうなことをするのだろうか。このままでは課金した人と、ごく一部の無課金ガチ勢しかプレイをしなくなりそうだ。
 そのような、過疎ゲームはあまりよろしくない。特に、一つのサーバーにプレイヤーが集まって、ダンジョンを進めるゲームなら、プレイ人口が少ないというのは致命的である。


 黙考していると、ピコっと音がして、メッセージの返信という文字が出てきた。
「お、来た来た」
 内容は、「いくらか払うから、その情報が大至急ほしい。こっちもみんな困ってる」というものだった。
 やはり不思議である。まあ、もうそんなことはどうでもよい。お金がもらえるのだ。
 メッセージで手短に説明し、画面を閉じる。
「じゃあ行こうか」
「は~い」
 だが、このワールドの大きさというのもいまいち把握できていない。そんな時にはこの装置。グランドウォッチの銀の円を回し、ファーストワールドの地形を見ようとしたが、ほとんどブラックアウトしている。知りたければ、自分で調べろ、ってことだ。チュートリアルをすっ飛ばした運営が、ここで優しさを見せるわけがなかった。
 でも、今見えるところは地図に表示されているので、全体の大きさは大まかだが分かる。
 分かったのだが、
「デカすぎる・・・」
 この探索率だと、今はコンマ一にいくかいかないか程度だ。これはプレイヤー全員で協力していかないと、ワールド一つをクリアするのに何日もかかってしまいそうだ。


 さっきからワールド探検みたいに一直線に歩いているのだが、一匹もモンスターを見かけない。
「流石にこれは酷いよ・・・」
 シーナも飽きて、柄が白緑の剣を振ったりして遊んでいた。
 一方のシオンはというと、パネルに新しく追加された<ランク>を見ていた。ランクとは、プレイヤーの強さを表すもので、このランクは単なるレベルではなく、戦闘がうまいとか、ストーリーの進み具合によって変動するらしく、ランクが上位の人は特典があるそうだ。
 サイトで見たときには、ストーリーの進み具合で変わるってわけわかんないじゃん、と思っていたが、なるほど。これはランクも変動しますわ。でもすいません、拡散してしまいましたわ。お金には勝てませんでしたわ。
 そして、ランクにはもちろん階級があるわけで、まず、ログインしたころのランク、一番下のランクが<D>ランクで、そのランクにも階級があり、<D5>から始まって<D1>まで上げると、やっと次が<D>で、<C>に昇格できるという、中々難しい設定になっている。
<C>の次は<B>、<A>、<S>、最上級が<X>で、日本人の製作スタッフによれば、「Sランクに行けば十分上出来ですよ。Xランクは神の領域といってもいいほど、設定難易度を引き上げていました」ということらしい。
 やはり、これは何か裏にあるに違いない。こんなハードな設定では、初心者どころか、中級者でも止める人が続出しそうなのだ。
 シオンはランクが上がっていて、今はD4に配置されていて、恐らく、さっきの戦闘とファーストワールドに早めに来れたからだとシオンは思っている。


 次に<地図>だが、これはDWOの世界の地図があって、太陽系のような宇宙空間の地図がまずあり、今見える惑星ワールドが二つ。ジェイカンド都市とファーストワールドだろう。その惑星をタッチすると、その惑星の地図と、ログインしているプレイヤーの数を見ることができる。
 グランドウォッチは今いるワールドの地図しか見れないので、この地図も活用していきたいところだ。
 いろいろ考えていると、時間の流れが速く感じる。
 なんせ、もう一パーセントほど探索していたそうで、約五十メートル先の巨大な木の下に、人がいた。多分、というか絶対NPCだ。
「イベント発生しそうな雰囲気醸し出してるね~あの人」
 果たして、シーナの言うとおりだった。話しかけたら、どうやらこのNPC、<ドーナ>はここ周辺の様子を調査しているらしく、モンスターが減ったことに疑問を感じているとのこと。ドーナの予想によれば、数日後に不吉な何かが起こる、と言うのだ。
 シオンは開始早々に巨大イベントかよ!?と思ったが、さっきから言っているが、このゲームに普通は存在しない。
 その何かに対抗できるように、ジェイカンドの騎士団<ジェイス・ドラゴンズ>に活動資金を投資せよ、というクエストが発生した。
 このクエストが発生した瞬間、シオンはシーナと顔を見合わせた。二人とも目を見開き、嘘!?という顔をしていた。それもそのはず。資金合計がなんと五百万ヴェノム。頭がおかしくなりそうな金額が書かれており、とても二人ではどう足掻いても無理な金額で、これはプレイヤー全員参加の<ワールドクエスト>だという予測ができた。
 ワールドクエストはプレイヤー全員の強制参加になり、プレイヤーが協力し合ってストーリーを動かしていく、というたまに見かけるクエストなのだが、ほぼ最初のクエストで全員参加型は初めて見る。
「あ!掲示板に載ったよ!」
 シーナがシオンに報告し、これはジェイカンド都市にもいるプレイヤーにも、このことが知らされたということだ。
「とりあえず・・・どうしようか?」
「私に訊かれてもね~」
 クエストが始まってもすることが思いつかない。なんせモンスターが少ないーーー否、少なかった。
 何かすることを探すために無意識に後ろを振り返ったシオンだったが、周囲にさっきとは比べ物にならないほどのモンスターの数に言葉を失っていた。
 木に向かっていなかったら気付いていたかもしれないが、あいにくNPCの方を向かなければ会話は進まず、そうなれば自然に木を見ることになっていた。
「シーナ。剣構えて」
「もう構えてる」
 良く見れば、ボアーが多いが、他のモンスターもいる。青色の毛の狼のようなモンスター<ウルフ>や、中には数体、木の棍棒を持った、濁った緑色の肌を持つ<オーガ>と呼ばれる三メートルほどの強力なモンスターも紛れ込んでいた。
 この大群をいなすのは少し難しい気もするが、負けてしまうとデスペナルティーとして、経験値のロストとお金の減少、ランクポイントの降下の三点セットで罰が与えられるので、プレイヤーが良くする<ゾンビアタック>がほぼできないし、誤ってHPがゼロになってしまったら落ち込み具合が半端ないだろう。
 そんな緊張感も相まって、モンスターの敵意がより鋭く感じられる。
 唸るウルフや、足で地面を後ろに抉る動きを取るボアーや、棍棒を肩に担ぎ、二人の動きをしっかりと見ているオーガに囲まれ、神経が敏感になっていた。
「やっぱこれは普通のゲームじゃないな」
 その言葉と同時に、我慢ができなくなったのか、ウルフが駆けだしてきた。しかもウルフだけじゃなく、ボアーも一緒だ。
 跳んで噛み付こうとしてきたウルフをスキルの一太刀でねじ伏せる。


 DWOのスキル機能は、攻撃する部位に力を入れ、スキルを発動させるぞ、という信号を脳から運動器官に送ることで発動し、スキルは発動すると、一定時間使えなくなり、普通の何倍も疲れる。
 この情報もサイトに書いてあったことなのだが、もう少し分かりやすく書いてあった。


 次々と襲い掛かってくるモンスターを必死に捌き、時には攻撃したりして何とか死なずには済んでいるが、あとどれだけ持つか。
 上空から牙を光らせたウルフの噛み付きを、刀の刃で受け流し、逆の下からの攻撃を左足で一蹴し、背後に気配を感じたので、刀を円を描くように払う。今の動きだけでもかなり疲れたのだが、一匹しか仕留められいない。
 シーナが心配だが、心配している余裕がない。
 意図的にモンスターのいるところへ移動し、より多くの敵を引き付けてはいるが、それでもカバーしきれてはいない。
 シーナはあくまで中身は女の子なのだ。現在世界で運動が良くできるからといって、VR世界でも抜群の運動神経を発揮できるかといえば、答えはいいえだ。


 ここは仮想世界であり、イメージ力が低ければ、それだけの動きしかできないし、いくら身体能力が上がっているとはいえ、目が回りそうな速度で移動しようと思うと、それなりに慣れておく必要がある。
 つまり、現実世界で運動ができない人でも、仮想世界だとアスリートなんじゃないか?と間違えることもあり、仮想世界で全然うまくない人でも、リアルで会ってみると実はバク宙ができる人だった、なんて事例は良くあることだ。
 シオンは仮想世界で、<彗星・シオン>なんて恥ずかしい名前があるほど、仮想の運動に適応しているやつなのだ。
 シーナも運動できないことはないが、シオンほどではない。


「くっ・・・!」
 オーガの大振りを、紙一重のところで危うく回避する。
 少しでも反応が遅れていれば、棍棒にぶん殴られ、スタン気絶のような状態になって、気付けば大神殿だっただろう。
 足の裏で勢いを殺し、もう一度刀を構えて腰を下ろす。
 休憩の時間を奪うように走ってきたウルフを、使えるようになった一太刀で、横に斬る。
 合間を縫うように、左から強烈な薙ぎ払いがシオンの体を吹き飛ばす。
 咄嗟に刀を下げて、棍棒に当ててなかったら大ダメージだった。シオンは左利きで、刀を移動させる距離が短かったので、空中で素早く体制を立て直し、逆立ちの状態で空いている右手を地面に付いて、その右手だけを支えとして、半回転。見事に両足着地を決めた。眼前に迫っていたボアーの跳躍を下にくぐり、すれ違い様に、体に深い切り傷を何本も入れる。
 スピードはそのままでオーガに接近し、刀を逆手で持ち、懐から心臓部に刃を刺し込む。


 モンスターだけじゃなく、プレイヤーもそうだが、攻撃を受けるところによってダメージが違う。
 動物型なら現実世界の動物と同じ仕組みで、ヒト型なら人間と似たような構造で生成されており、一撃の場所が数ヶ所ある。
 心臓もその一つだ。


 何かを貫通した手応えにシオンが刀を抜くと、オーガは銀色の牙を見せながら無言で仰向きに倒れ、爆散した。急にモンスターが大人しくなり、横目でそいつら見ると、ウルフは三匹になっており、全員その場で止まって威嚇をしているだけだった。
 オーガは逃げ出したのか、もういないし、ボアーに限っては完全にバットステータス(キャラに悪影響を与える。バフの逆バージョン)の<アフレイド>が掛かり、満足に立ててない。
 シーナも大丈夫そうかな、とか思っていると、ヒト型のキャラがいて、シーナと呑気に話していた。
「は・・・?」
 シオンが呆気に取られ、隙を見せたと思った三匹のウルフはすぐさま躍りかかったが、二匹はシオンに、もう一匹はヒト型のキャラによって斬り殺された。
 派手に三匹連続で爆散したウルフを見ると、芸術が感じられたが、こんな残虐なことに芸術を感じてはいけない。
「えらく頑張ってらっしゃいますね~シオンさん~」
 シオンを笑顔で馬鹿にしてくる、ショートの赤髪で、小太刀を鞘に仕舞って、ポケットに手を入れているへらへらした態度の男の子はカイトだ。
 外見だと、ただのチャラ男にしか見えないが、現実では紫音の仲が良い友人だったりする。
「まあね。そんなことより、カイトはやっぱり<シノビ>を選んだのか。様になってるよ」
 カイトが選んだ戦闘職のクラス、<シノビ>は主に奇襲を得意としており、使用する武器は小太刀や、クナイだったりと、忍者のようなクラスだ。
 奇襲をするのだから、潜伏や逃走術もスキルで覚えられるので、情報屋にとっては天職だ。
「そんなことよりさ、最初からワールドクエストってどういうことよ?意味わからんぞ、運営さん」
 カイトの愚痴を聞きながら、とりあえずは比較的に安全に狩れる、光の柱周辺に移動することにした三人だったが、このゲームの醍醐味であり、難点であるこのゲームの設定をこの後、痛感することになるとは、まだだれも思っていなかった。

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