デュエル・ワールド・オンライン

ノベルバユーザー46822

さあ、ログインだ!

 三月二十日、とある大手企業が製作したVRMMORPG<デュエル・ワールド・オンライン>が全世界に一斉配信された。
 その日のうちにダウンロード数一億オーバーの超有名ゲームとなり、瞬く間に人々の口からデュエル・ワールド・オンライン、また頭文字を取って<DWO>という言葉を聞くようになった。


 このVRMMORPGの魅力と言えば、やはり現実にとても近づけた設定、グラフィックの綺麗さ、それと全世界の至る所、日本、中国、韓国、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、ブラジル、エジプトといった都市にサーバーがあること。
 さらにこのゲームにはリアルマネートレード、現金をゲームマネーにしたり、ゲームマネーを現金することができる。つまり、ゲームをすることによってお金稼ぎをすることが可能なのだ。
 このゲームは世界を変えるかもしれない、そんな風に思っている人も少なくはない。
 なんせ、僕の生活はもう変わってしまったのだから。






 東京付近の一軒家に住んでいる、睦月紫音むつきしおんは中学三年になる前の春休みに、この時を待ち焦がれていた。
 そう。今日は三月十九日、デュエル・ワールド・オンラインのサーバー開始日の前日だ。
 徹夜でパソコンを使い、ゲームの情報をあるだけ頭に詰めて、ゲームのダウンロード、VR世界に入り込むための装置<シグナル>をベットの上に置いて、準備万端、いつでも飛び込める状態を作って、今か今かと貧乏ゆすりをしてローラーの付いた椅子に座っている。


「うう・・・!早く・・・!早くぅ・・・!」
 あまりにも楽しみなので、ついそんな気持ち悪い声を漏らしてしまった。
 だが、ここは当然紫音以外誰もいない。サーバー開始が十二時ぴったし。日の変わり目なので家族も寝ているはずだ。恐らく、妹の碧は起きているだろう。妹の部屋にもパソコンがあるし、VR世界へ入るための機械もある。妹もゲーム好きだから待機していると予測できる。
 友達もかなりの人数がサーバーオープンと同時に始めるとのこと。さらにリア友でギルド簡単に言うと団体を作ろう、といったことも言っている。紫音本人としてはあまり乗る気はしないのだが。


「楽しみだなぁ・・・って!やば、もう始まる!」
 妄想に耽っていて、パソコンのデジタル時計を見ると、十一時五十八分と書いてあり、急いでベットに跳び込み、黒色のヘルメットのような機械を頭から被り、
「デジタルイン」
 と一言。
 機械がこの言葉を拾うことによって、体の感覚がなくなり、待機室のようなところに移動することができる。いわば電源だ。
 空に浮かんでいるような空間で、僕は剣と銃と杖が交差しているアイコンに触れる。
 その瞬間、空間が大きく歪み、見慣れない景色へ一変する。
 変わった場所は薄暗い部屋で、前の壁に<デュエル・ワールド・オンライン サーバーオープンまで 00:15>と光る文字で浮かんでいた。
「あっぶな・・・遅れるところだった・・・」
 心の底から安堵している間にカウントダウンはゼロになり、ファンファーレのような音と共に目の前にパネルが現れた。
「デュエル・ワールド・オンラインをダウンロードしていただき、誠にありがとうございます。それでは、今からキャラクターの設定を行います。変更はできませんので慎重にお決めください」
 女の人の声が聞こえ、紫音を丁寧にDWOの世界に歓迎してくれた。
 声が終わるとパネルに触れられるようになり、紫音はパネルをじっくりと見た。
「う~んと・・・まず名前からか・・・名前って同じやつはダメなんだよな、早めに、と」
 手元にある半透明のキーボードで<シオン>と素早く打つ。
 次は外見。性別は自動的に男に設定されていて、変更はできない。髪の毛は紫色で、量は現実の紫音と同じくらい、前髪は目に掛かるくらい、後ろは肩に乗るくらいにした。
 身長はリアル現実と同じに設定し、職業を決める。
 職業は何があるのかは公式サイトで確認済みだ。といっても、戦闘職と生産職の二択なので、紫音は迷わず<戦闘職>を選択する。
 そして、ついにログインのボタンを押す時が来た。
「やっとだ・・・」
 ログインと書かれた赤いボタンを勢いよく押し、さっきの女の人の声がもう一度聞こえた。
「それでは、これからデュエル・ワールドへ転送します。シオン様には千ヴェノムを特別に贈呈します。良いVRライフをお過ごしください」


 声が消えると浮遊感が体を襲い、とても眩しい光がやってきたので目を瞑った。空気が前方から吹き荒れ、数秒後には地面に着地していた。
 ゆっくり目を開けると、石が敷き詰められたタイルに紫音、いや、シオンは立っており、周りの騒がしさに自分が別世界に来たことを実感する。
 頭を上げると、太陽のような日が出ていて、西洋風の建物が高々と聳え立ってシオンたちを見下ろしていた。心地よい風が吹き、紫の髪がなびく。
 既にかなりの人数がログインしており、全員困った顔をして、次にやるべきことを探している。探している、つまりーーー
「説明とか、チュートリアルとか、ない・・・?」
 ぽつりとシオンは呟き、目を一層輝かせた。
 なんとワクワクするスタートなんだぁぁぁぁ!!!と心の中で絶叫し、早速、両人差し指を正面にスライドさせ、半透明のパネルを出現させる。
 パネルとは、VRゲームにおけるメニューのようなもので、このゲームは右と左でパネルの内容が違い、他のVRゲームの片方だけパネルが出現するのとは異なっている。
 シオンはまるで、試験前に要点の確認をする人のようにパネルの内容を読んでよく。ヒントや今後使いそうなところは詳しく見て、すぐに頭に叩き込む。
 今分かったのだが、冒険者達は何も知らされず転送されたので、当然、装備品、アイテム等を何も持っていない。だから、最初に行くべき場所はアイテムショップだと思い、善は急げと駆け出す。
 はっと思い出し、左手首に付いている、サファイヤのような水色の宝石で作られた<グランドウォッチ>の銀色の輪を右に回す。すると、時間が表示されていた画面が消え、今いる都市のマップが画面に浮きだした。
 これの使い方さえ知っていれば、この都市を迷うこともないし、遠回りすることもない。シオンはサイトを良く見ていたので、グランドウォッチを見たときに瞬時に起動した。
 この街は円形で、中央に十字の大通りがあって、他の道路は統一感がなく配置されていた。ど真ん中にある、復活したり、ギルドを作成したりする大神殿以外の店などは、大通りで街を分けたとき、どの区域にも最低一つはある。
 左上の地域の赤い点が現在地を示しており、最寄りのアイテムショップはさほど遠くなかったので、小さな運にシオンは微笑んだ。
「さあ、スタートだ!」
 システムによって強化された身体能力をさっそく活かし、エンジン音が鳴りそうなほどのスピードでショップに向かう。
 このような高速移動は他のVRをプレイしていたので、あたかも自然にやってのけているが、普通ならばまず無理だ。思いっ切り走ることさえもできないだろう。もし制御を解除できたとして、こんな自由に走れる場所が少ない街で走ったなら、壁にぶつかったり人にぶつかったりと大惨事になりかねない。
 けど、使いこなせればとても便利だ。
 一キロ以上あったのにわずか一分ほどでショップに着いた。見慣れぬ都市を疾走するのもやはり楽しい。
「よ~し。さっそく入りますか~」
 シオンが歩いて扉へ向かい、ドアノブをひねって開けると、そこはアイテムが赤いじゅうたんの上に綺麗に並べられていた。壁はレンガだったのだが、部屋の天井は木材で作られており、日本人には雰囲気が良い、と感じられるだろう。
 扉の向かい側に座っている、迷彩柄のバンダナを頭に巻いた、ひげを生やしたNPCが自然な発音とジェスチャーでシオンに話しかける。
「いらっしゃい、冒険者さん」
 言い終わると、目の前に売っているアイテムが書かれたパネルを、店主がシオンに向けて手を押して、シオンの視界に出してきて、思わずにやける。でも、にやけてる場合じゃなかった。
 アイテムの中に武器がないのだ。不思議に思いながらも回復ポーションと、敵が出てくるダンジョンに入るためのチケットを合計五十ヴェノムで購入し、パネルを外側に払う。この仕草はパネルを消すために行うのだ。
「チケットを買ったってことはあんた冒険者か?」
「あ、そうです」
 これはストーリの始まりっぽい。ストーリーはチケットを買わないと発生しなかったのか。謎解きみたいでなかなか面白い。
「それなら武器屋に行きな。あんたに合った武器があるはずだ」
 店主がそう言って、シオンは強制的に店から追い出されたら、ピコンッと音がして視界の右端に青いマーカーが立ち、そのマーカーを指すように矢印が道に現れた。この矢印をたどれ、ということだろう。
 先ほどと同じスピードで向かい、これもまた一分ほどで武器屋に到着した。
 本日二度目の扉を開き、店内に入る。
「いらっしゃい」
 今度は女性のNPCだ。
 武器屋は壁にいろんな武器、杖、銃が掛けられており、床には何もなく広々とした空間で、アイテムショップとはまた違った印象を受けた。
「あなたは戦闘職ね。じゃあメインのクラスは何にする?」
 そう言って、パネルが再び現れる。
 さあ、来たぞ。この時を待っていた。
 心の中でそう言い放ち、シオンはクラスを大声で叫んだ。

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