異世界王政〜Four piece stories〜

桜井ギル

兄の失踪の訳

私は仕方なくヴァンパイア王の命令に従った。


当時、私にとってのヴァンパイア王は命の恩人……であった。


半分とはいえ、血の繋がった兄妹。


正直、嫌ではあった。だけど従わなければ私がやられる。








私は兄の分の料理に睡眠薬と麻酔を混ぜた。魔法を使おうかとも思ったがそれではバレてしまう。


兄は魔術の才はなかったが魔法を敏感に察知できる。バレてしまうから使えない。


兄は睡眠薬と麻酔のおかげでぐっすりだった。


あの日の兄の気持ち良さそうな寝顔を見た時とても悲しくなった。


本当はやりたくない。こんなの間違ってる、そう思うのに



アリスティル(ごめんなさい、兄様……)



兄との思い出はぐちゃぐちゃだったけど、この瞬間は私の脳に焼き付いたようにずっと離れない。


私はその時、初めて誰かのために泣いたような気がした。


自分の両手が兄の血で汚れているにも関わらず兄の眠る寝台の真っ白な布団を力強く握る。だんだん布団は兄の血で紅く染まっていく。



アリスティル「…ごめんなさい」


アリスティル「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」



やり場のない怒りだけが残った。


その怒りは私に命令したヴァンパイア王ではなく私自身の無力さに向けられていた。


私にもっと力があれば、違う道があったのかもしれない。


そう思うのに出来なかった私は1人自分を責め続ける。


何時間経ったのだろうか。


気づけばもう夜明けの時間だ。



アリスティル(………痛い)



ずっと泣き続けていたため私の目元は赤く腫れていた。


私は冷静さを取り戻しこれからどうするか悩む。


念の為、兄の心臓の鼓動を確認してみることにした。



アリスティル「………………」


アリスティル「…………!?」


アリスティル「動……いてる………?!」



僅かであったがとくんとくんと小さな鼓動が聞こえていた。




アリスティル(嗚呼、そうか………)



あの時僅かに剣の型が揺れた。


それで生き延びてしまったのかもしれない。



アリスティル(このままじゃ……私は)



始末し損ねたなんてバレれば私はきっと生贄にされるだろう。


嫌なはずなのに私は剣をしまい、ただ兄の血で汚れた手を握っていた。



アリスティル「……私が、あなたを殺させはしません。だから……」



私は魔法を使った。


魂と肉体を分ける魔法。


魂は前に文献で見た冥府の「魂の檻」に似た形、似た機能をもつ小さな檻に魂を入れることにした。


そうすればいくらヴァンパイア王でも感知できないだろうと思ったからだ。


「魂の檻」に入れられた魂はほぼ死者として扱われるので兄は死んでいるとカウントされるだろう。


そう願い私は別の形で「兄を始末する」ことに成功したのであった。

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