異世界王政〜Four piece stories〜

桜井ギル

依頼

俺が呼ばれたのはあれから何時間も経ったあとだった。


執務室とスピアに案内されたその場所にはいかにも『キング』と言えるほどにオーラを放つ少女が座っていた。



「暁人さん。何時間もお待たせしてしまい、申し訳ございません。」


「いえ!とんでもない!」


「ふふ…。暁人さんはお優しいのですね。」



キングは穏やかに笑い、俺をまっすぐに見つめる。



「…単刀直入に言います。私は…あなたに私の兄を探してほしいんです!」


「……え?」






(おい、アリス!いくらなんでも率直すぎるだろ!)


(で、でも…)


(お前は王なんだから自信を持てよ。)


(うん。ありがとう、スピア。)






俺が言葉を失っている間、2人で何か話し合っていたようだが、無理な追求はやめにしよう。



「…失礼しました。私の言葉足らずな説明で混乱してしまっているようですのでちゃんとご説明させていただきます。」



キングは一息つくと俺を真剣に見つめて口を開く。



「…私は元々、キングにはなれなかったのです。私の兄『ギルト・キングスレー』は幼い頃から正式なキングの後継者でした。」


「キングになれるのは国から公爵の爵位を授かった『キングスレー家』と『キングトロイ家』の長男だけなのです。」


「私は行方不明になった兄の『影武者』として生きているのです。…領地の民たちに本来のキングがいないと知れるとかなりまずいことになりますからね。」



キングは苦笑して話を続ける。



「前にも言った事がありますが、私は人間とヴァンパイアのハーフ…。そんなまがい者の私にキングの仕事が務まるわけがないのです。」


「兄が行方不明になった時は国にも内密にして軍を出兵させてまで兄を探したのですが…見つからず、お手上げ状態です…。」



ここまで彼女の話を聞いてふと疑問が俺の中を包み込む。



「どうして俺…いえ、僕なのでしょうか?人材としては僕よりも適任が沢山いるはずでは…?」


「…父の書斎である古い本を見つけたのです。そこには『異世界より召喚されし者、キングスレー家の災厄の時を救う』なんて書かれていたのですよ。」


「…」


「正直、信じられませんでした。こちらから異世界の住人を呼び出すと、その住人に不思議な力が宿るそうなのです。」


「…それは、どんな力なのですか?」



彼女は深呼吸して言葉を紡ぐ。



「それが…人それぞれ…としか書かれてないのです。…ごめんなさい。でも、歴代の記録なんかも残っているので調べればきっと…!」



俺はその言葉に驚く。



「…俺の他にも異世界から召喚された人がいたのですか?」


「ええ。今は元の世界に帰ってしまっているけれど。」


「…暁人さんも嫌なら言ってくださいね。いつでも元の世界に戻ることは出来ますから。」



その言葉に深い意味はない。そう思いつつも、彼女の悲しそうで絶望に包まれそうな瞳に目を話すことが出来なかった。

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