王を語る者

『ギルト･キングスレーとはいったい何者なのですか？』



その言葉が廊下に響き渡る。


少しの沈黙のあと、スピアは憎しみの色を浮かべながらもその感情を押し殺し、口を開く。



「それは…いったいどういう意味ですか？」


「あなたは自分が何を言っているのか分かっていて言っていますか？」


「もちろんです。」



その言葉には嘘なんかない。…それをスピアに伝えたかったためか、声を張り上げてしまった。



「あなたは…彼女の事が本当に好きなんですね？」


「はぁ？」



スピアは訳が分からないと言わんばかりにイラついた様子で俺を見る。



「私はあの方を主と敬ってるだけです。あの方を愛しているのは当然でしょう！」



スピアの目には情熱が宿っているかのように赤く光っていた。


俺にはスピアの敬愛が痛いほど伝わってくるが、それとは別に違う何かが大きく存在しているように見えた。



「…もしかして、あなたは彼女の事が異性の相手として好きなんですか？」


「〜〜〜！」



スピアはその質問に俺の想像以上の反応を示した。


スピアの顔は耳の先まで真っ赤に染まっていた。とても照れてゆでダコのようだった。



「なっ…何言ってるんですか！私はあの方にお仕えするもの。恋心なんて1ミリもありません！」



ーぶわっ(泣)



「ス、スピア…。私の事をただの上司としか見てなかったの…？あの頃交わした婚約は今では私の事情のせいでなくなってしまったけど、私は…」



そこには彼女がいた。涙を流してスピアを見つめていた。



「主！？…部屋に戻られたのでは?!」


「失礼するとは言ったけど、部屋に戻るとまでは言っていないわ。…あなたは十数年の間、私の事を何だと思っていたの？」



彼女はすぐに泣き止んだが、その声は悲しみに包まれていた。



「……」



スピアは彼女の言葉に心が揺らいでいた。



「違います！私は…あなたのことを誰よりも愛していると言えるほどあなたの事が大事なのです！」


「婚約が破棄されてしまった時は、無理矢理にでも説得しようと思っていたのですが…。」


「まさか、あなたの兄『ギルト』様が関わっていたなんて知らずに…」


「それを知った私は『元主』を裏切ることが出来なくて…。本当に申し訳ございません！この罪…死んで償います！」



スピアは泣きながら鞘からサーベルを取り出し、自身の首元に突きつけた。



「スピア…」



彼女は驚いた様子でスピアを見ていたが、スピアの自害を止めようとはしなかった。



「ちょっと待てぇーーーい！」


「…?!」



俺はその光景を見ていられなくて止めに入った。