無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

四章 17 『キャトル村救出戦 6』

 「あの女、治療魔法の使い手なのか?あの女騎士の治療をするつもりか?・・・そうはさせるかぁ!!」
 「っ!?こっちに来るつもりかい?あの男・・・」

 サリスの動きに気づいたネハンがアイズの治療を阻止しようと動き出した。

 「サリスさんの邪魔は絶対させないわよっ!」

 ネハンの動きを遮るように四方に炎の壁を作り出した。

 「えぇい!この小娘がぁ!!」
 「サリスさんっ!こっちは私に任せてください!アイズさんの治療をっ!!」

 ローゼはネハンと影の全てを炎で抑え込むように絶えず炎の壁を生み出していた。内側からネハンが抵抗しているようでそれを必死にローゼが抑えているようだった。

 「悪いねローゼ・・・少しの間任せるよ。片手間に治療できそうな患者じゃなさそうだからねぇ」

 サリスは咥えていたタバコを地面に落とし、右足で踏み消した。

 そして覚悟を決めた表情でアイズを見た。

 「・・・サリス!!サリスゥーーー!!」

 アイズが怒りに任せて剣を振るっている。

 サリスがアイズの剣を右に左に軽やかに躱している。

 「なんて乱暴な剣だい・・・アンタらしくもないねぇ」
 「あぁあああっ!・・・はやくっ!・・・・にげ・・るんだ!」

 苦しむ表情でアイズがサリスに逃げるように言った。

 「まだアイズの意思が残って抵抗しているみたいだね。アイズの意思が完全に乗っ取られたら私はあっという間に真っ二つにされちまうだろうねぇ・・・」

 アイズはうまく体を動かせないようでいた。

 「・・・けど、そんなに苦しんでいるアンタを置いて逃げるなんてできるわけないだろ?」

 サリスは体内の魔力を高めた。

 「・・・身体能力強化アビリティアップ!」

 サリスは自己強化の魔法をかけた。この魔法により筋力や動体視力、聴力などありとあらゆる身体能力が強化された。

 さらにサリスは人体の構造に詳しく、常人よりもこの魔法の効果を高く発揮することができた。

 「あんまり戦うのは本業じゃないんだけどねぇ・・・行くよっ!」

 アイズに勢いよく近づくサリス。これを迎撃するようにアイズが剣を振り回しているが、サリスはその全てを見切って躱していた。

 「うわぁああ!!」
 「はぁ・・・はぁ・・・体力がなくて困るねぇ。まずはその動きを止めるしかないねっ!」

 サリスの手からうっすらと緑の霧が現れ、アイズとサリス自身を包んだ。

 「あぁあああっ!・・・・っ!?」 

 アイズは包まれた霧を剣で薙ぎ払った。剣の風圧で霧は一瞬で晴れた。しかしアイズの様子が変わった。

 何か痺れたように片膝を地面に着いた。

 「こ・・れは・・・!?」
 「知ってるだろ?今アンタが吸い込んだのは私特性の麻酔だよ。ほんの少し吸い込んだだけで体の筋肉の動きを鈍らせるものさ。本当はもっと薄くして使うんだけど、アンタが吸い込むのは一瞬もないだろうからね、今回は強めに調合したやつを使わせてもらったよ」

 剣を地面に突き立て苦しんでいるアイズ。

 「やっぱり大したやつだね・・・普通この麻酔を吸ったら一瞬で意識まで飛んでしまうはずなんだけどねぇ」

 座り込んだアイズにサリスが近寄った。

 「すぐ終わらせるから・・・っ!?」
 「がぁああ!!」

 近寄るサリスにアイズが左手で剣を振った。サリスがこれに反応して避けたが一瞬間に合わず、アイズの剣がサリスの左腕を傷つけた。

 「・・・こんな早く動けるのかい。私としたことが見誤ったかい・・・」

 腕から流れる血を抑えるサリス。

 自分の腕を治療しようとしたが、自分の思ったより治りが遅かった。

 (治りが遅い・・・やはり村の連中の治療で魔力を消費してるみたいだね。アイズのこともあるし自分に使う魔力は後回しにするしかないか・・・)

 サリスはシャツの腕の部分を引き裂き、それで腕を縛り出血を抑えた。

 「あ・・・ああ!・・・サリスっ!・・・」

 傷を負ったサリスを見てアイズが目に涙を浮かべた。自分の行いを悔いているようだ。しかしその表情は怒りと悲しみの入り混じった何とも言えない表情である。

 「まったくなんて顔してるんだい・・・こんな腕の痛み、アンタに比べたらなんてこたないんだよっ!」

 サリスは痛みを歯を食いしばり我慢した。

 「やっぱりアンタに手加減はいらなかったね!私も本気で行くからねっ!」

 サリスは今度はさっきの倍以上の濃度の麻酔の霧を生み出した。

 「常人なら致死量だけど・・・私はアンタがこのくらいじゃくたばらないことを信じてるからなっ!」

 アイズの周りを霧が覆っていく。しかしアイズは霧に囲まれる前に片手で剣を振り霧を散らした。

 「あぁあああっ!やめるんだぁーー!!」

 叫びながら剣を振り回すアイズの瞳から大粒の涙がこの時流れた。

 霧が晴れる瞬間、サリスがアイズの背後に詰め寄った。アイズが近づいてきたサリスを剣で迎え撃った。

 「・・・フッ、なんだいその泣き顔は・・・この光景がアンタには見えていたのかい?」
 「・・・ぁあ・・・ああ・・・」

 アイズが声にならない声を出す。そんなアイズをサリスが片手で優しく抱きしめた。

 サリスを迎え撃とうと振ったアイズの剣をサリスは受け止めていた。

 アイズの剣はサリスの左の手のひらを完全に突き抜いていた。

 サリスは体を張ってアイズの剣を止めたのであった。

 「さあ・・・あと少しだ。仕上げと行くよ・・・ヒール・リベーション!!」

 アイズの全身が白く輝いた。そして体内から黒い靄のようなものが引き剥がされるように空へと消えて行った。

 「・・・これで今日の治療は終わりだよ」

 サリスは力が抜けたように地面に座り込んだ。

 「・・・サリスっ!!」

 意識を取り戻したアイズが慌ててサリスの手を貫いていた剣を引き抜き、地面に放り投げた。

 「血がっ!こんなに・・・なぜこんな無茶をしたんだ!!」

 座り込んだサリスをアイズが支えた。腕から出る血を必死に自分の服を破り抑えている。

 「何だいそんなに慌てて・・・腕の傷が一つも二つもそんなに変わりはしないよ」
 「そんなわけがあるか!なぜ・・・どうしてだサリス・・・」
 「ん?・・・何がだい?」
 「なぜ私の為に・・・こんな無茶をしたんだ?」
 「ふん・・・そんなことかい」

 サリスは怪我をしてない方の右腕で胸から煙草を取り出し口に咥え火をつけた。

 「ふうっー・・・・」
 「こんな時にまで煙草か・・・・?」
 「これがないと調子が出ないんだよ・・・言っただろ?アンタは私の一番の患者だって。どこにいてもアンタが苦しんでたらすぐに駆け付けてやるってな?」 
 「サリス・・・」
 「やれやれ・・・今回の治療費は高くつくよ?覚悟しときなよ?」
 「フッ・・・ツケといてくれるか?私の一生をかけて必ず払うよ」
 「・・・そうしてくれると助かるよ」

 サリスは煙草を咥えたまま満足そうに笑って見せた。



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