無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

四章 8 『死の淵』

 目の前でただの肉塊となってしまったザックの姿に言葉を失うタクミ。ザックを押し潰した白髪の男は恍惚の表情をしている。

 「はぁ・・・この命を刈り取る感覚はたまらないねぇ、ふふっ・・・ふふふ」

 ザックは決して弱くはなかった。それは戦ったタクミ自身が一番よく分かっていた。しかしこの男はいとも容易くザックをねじ伏せその命に終止符をうった。

 (今の力・・・こいつ一体何者なんだ・・・!?いやそれよりもこの状況をどうするべきだ!?どうしたらいいんだ俺は!?)

 白髪男から視線をそらさないようにしながらもこの状況の打開策を図るべくあたりを伺った。

 「随分怯えている様子だねぇ・・・いいよぉその表情。ぞくぞくするねぇ・・・君はどんな風に命を散らしてくれるのかなぁ?」

 白髪男が不気味な笑みを見せながらゆっくりとタクミの方へ近づこうとした。男が一歩足を踏み出した瞬間タクミは危機を察知して全力で叫び魔力を解放した。

 「うわぁああああああ!!」

 目の前で強大な魔力を目にした白髪男はタクミの姿を見て何かに気づいたような表情をした。

 「へぇ・・・その力。君は招かれた者なのかな?この世界の人間ではないんだね。これはこれは・・・面白い。実に面白いよ・・・フフッ・・・アーハッハッハッハッ!なんて運命だ!僕は君に会うためにここにたどり着いんたんだ!そうに違いないね!」

 男の様子が変わった。そして男の背後から邪悪な真っ黒な禍々しいオーラが滲み出てきた。

 男から放たれた禍々しいオーラがタクミを呑み込むようにゆっくりと迫ってきた。

 「そんなに怯えなくても大丈夫だよぉ!君は殺さないからぁ!殺すなんてそんなもったいないことしないよぉ!僕と一緒に永遠を生きようじゃないか!」
 「・・・何を訳のわかんねーことを言ってんだよ!お前と一緒にいるなんて絶対嫌だね!俺には帰らねーといけねー場所があるんだよ!ここで無駄な時間を過ごしてる暇はねーんだよ!どけぇ!!」

 豹変した様子の男を見て覚悟を決めたタクミ。この男は放っておけない・・・そう確信した。

 迫りくる禍々しいオーラに全力で抵抗する。それでも禍々しいオーラのほうが上回っているようで徐々にタクミの方へと近づいていた。

 「・・・ちっ!全力でもあいつの方が力が上だっていうのかよ!?」
 「無駄だよ。いくら君が常人離れした力を持っているとしても僕には勝てないよ。僕に勝てる人間なんてこの世界にはいないんだからね。さぁ、諦めて僕に身を委ねるといいよ。そうすればすべてが楽にうまくいくんだから」

 男はタクミの抵抗をものともしない様子で淡々と言う。実際まだ余力を残しているようだった。

 くそっ・・・こいつまだ全然全力じゃねぇ・・・このままじゃ俺の方が先に魔力が尽きちまう・・・!俺はこんなところで死んじまうのか・・・!?

 タクミの脳裏にローゼ達の顔が浮かんだ。

 『絶対無茶はしないでねっ!』

 ローゼが最後に残した言葉を思い出した。

 へへっ・・悪いなローゼ。どうやら無茶してもここからは逃げられそうもねーかも・・・

 男の禍々しいオーラに圧され片膝を地面につくタクミ。

 「ぐっ・・・!」
 「フフッ、人間にしては頑張った方だよ!さあ僕に君の世界を見せておくれよ!君のすべてを僕に捧げるんだ!その全てを僕が壊してあげるよぉおお!」

 タクミの様子をみて白髪男が勝ち誇ったように言った。

 全てを捧げろ・・・?俺の全てを壊す・・・? 

 男の言葉を聞いたタクミ・・・再び頭の中にローゼたちの姿を思い出した。ローゼ達だけじゃない・・・今までこの世界に来て出会った様々な人たちとの思い出がまるで走馬灯のようにタクミの駆け巡った。 

 俺がここで負けたらこいつは今度はローゼ達のところに行くのか・・・?そのうちアーバンカルにも行くのか?こんな危険な奴が・・・・?もしそうなった皆はどうなっちまうんだ? 

 全てを壊す・・・!?

 こんな奴に壊されてたまるか!!

 タクミの胸の奥が熱くなった。

 こいつはここで例え刺し違えても止めてやる!絶対に皆のところには行かせねー!!

 「全てを壊す・・・?そんなことさせるかぁーー!!」

 そう叫んだタクミは再び立ち上がり、どこから湧いてくるのかわからない力を振り絞りタクミを包み込もうとしていた禍々しいオーラを全て弾き飛ばした。

 「・・・!?僕の力をはじき返した・・・?」

 突然の出来事に白髪男も驚いたような表情を見せた。

 「はぁ・・・はぁ・・・どうだ!悪いけどそうやすやすとやられるつもりはねーぞ!」
 「・・・どうやら少し甘く見すぎていたみたいだね。だけどこれで確信したよ、君はどんなことをしても手に入れる。これは決定事項だ!次は本気で行くからね!覚悟してくれ!」

 そう言うと男は今度は真剣な表情を見せたと思うと先程とは比べ物にならないほどの禍々しいオーラを生み出した。

 この魔力、こいつマジかよ・・・!?まだ余裕があるとは思ったけどここまでとは・・・こりゃ本当にやべーかもな。

 先ほどの力の解放の反動からかタクミは疲弊していた。先程と同じような力は到底出そうになかった。

 「さぁ、今楽にしてあげよう・・・」

 くっ!もう一度・・・いやさっき以上の力があれば!・・・・俺はここまでなのか!?

 男の魔力を目の前にしてタクミが死を覚悟した時だった。

 突然白髪男がタクミを捕えようと伸ばした右腕を光り輝く矢が貫いた。

 「なっ・・・・!?」
 「この矢・・・?あいつか!?」

 突然現れた光の矢を見て男は何かを察したように上を見た。次の瞬間今度は無数の光の矢が男の全身に轟音と共に降り注いだ。男の姿は矢の降り注いだ衝撃と共に舞い上がった白煙と共に見えなくなっていた。

 「なんだこれ・・・?一体何がどうなってるんだ?」

 突然の目の前の出来事に固まるタクミ。次の瞬間タクミの右腕を誰かが掴んだ。

 「君っ!今のうちだよ!」
 「えっ・・・!?ちょっ!?は!?」

 タクミは腕を引っ張られたかと思ったら今度は猛スピードでその場から男から離れるように空へと引き上げられた。

 引っ張られる中タクミは白煙の中、叫ぶ白髪男の声を聞いた。

 「くそぉおおお!!こんなことで僕は諦めないぞぉ!絶対に・・・・絶対に僕の物にするからな!!この世界のどこに逃げても必ず迎えに行くからなぁ!!」

 

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