無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 38 『アーバンカル総力戦 7』
「ラザリー姉さん立てる?」
「今はちょっと力が入らないの。少し休めば立てるようになると思うわ。」
「呪縛から解かれた反動ね。タクミ、私は姉さんをしばらく見てるから先に行ってくれるかしら?」
「ああ、それがいいよ。久しぶりの再会なんだろ?あとの事は俺に任せて休んでてくれよ」
「うん、ありがとう」
「タクミと言ったわね?貴方にもお礼を言わないと・・・本当にありがとう。貴方のおかげで元に戻ることが出来たわ」
横になっていたラザリーが上半身だけ起こした。それをローゼが支えている。
「そんな礼とか良いって!それよりも聞いていいか?ラザリーに呪縛の魔法をかけたのは誰なんだ?」
「私を操っていたのは邪神教徒のリーダーであるエレボスよ。エレボスは高い魔力を持つものを自分の手下に引き込んでいたの。それで私も目をつけられて抵抗したのだけれど、エレボスの前に私は敗れてしまったわ・・・」
「やっぱりか。それにしてもラザリーが負けるなんて、そのエレボスって奴はやっぱり強いのか?」
「そうね・・・正直に言って、今思い返しても勝てる気がしないわ」
「ラザリー姉さんがそこまで言うなんて・・・」
「エレボスの強さは、私が今まで見てきた全てを覆すようなものだったわ。タクミ、貴方はエレボスと戦うつもりなの?」
「ああ。これだけの事をしたエレボスって奴は絶対に許さねーよ!俺が絶対に止めてやるよ!」
強く拳を握り決意をあらわすタクミ。その姿をみてラザリーが笑みを浮かべた。
「そっか。不思議だけどタクミならやってくれそうな気がするわ。気をつけてね。エレボスもアーバンカルに来ているはずよ。エレボスはここで決着をつけるつもりだったわ」
「それなら話が早いな!エレボスの奴を見つけ出してぶっ飛ばしてやるよ!」
「きっとタクミなら出来るわ。私も回復したら応援に行くわ」
「もちろん私も一緒に戦うわ!」
「ありがと。でも二人は無理すんなって!それじゃ俺らは先に行ってるからな!アイズ!俺らは先に行こう!」
「ああ、そうしよう!」
戦いを見守っていたアイズを呼び、タクミとアイズはローゼ達を残して再び走りだした。
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「はぁ・・・はぁ・・・ちょっと、待ってくれ」
タクミが走っていた足を止めて、その場で立ち止まった。
「大丈夫かタクミ?さすがに連戦で体力の消耗が激しいな。少しタクミも休むか?」
「い、いや、大丈夫だ。すまねぇ。でも、こうしてる間にも邪神教徒の奴らは攻めてきてるんだ。休んでなんかいられねーよ!さぁ行こうぜ!」
タクミは再び走りだした。そんなタクミの様子を見てアイズはどこか嬉しそうだ。
「ああ!そうだな!もう少しの辛抱だ!頑張ろう!」
アイズもタクミの後を追って走り出した。
しばらく走るタクミ達。近くから剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。音のする方へと近づいていくタクミ達。
そこには魔法騎士団団長のクリウスと狂魔六将の一人シーバスの姿があった。互いに傷だらけの姿だった。
「団長!!」
タクミが叫び声を上げる。
「・・・タクミか。」
クリウスは目線をシーバスから逸らすことなくタクミに気づいた。
「かなり接戦のようだな。私達も援護しよう」
アイズが腰の剣に手を伸ばした。それをタクミが止めた。
「いや・・・この戦いも俺らが邪魔していいもんじゃないんだ。俺たちはここで見守ろう。」
そんな様子を見たシーバスが笑い声をあげる。
「はっはっはっ!お前なかなか話が分かる奴じゃねーか!そうだ、俺たちの戦いに余計な横槍は必要ねぇ!お前らはそこでおとなしく見てることだ!クリウスの後にゆっくり相手してやるよ!」
「シーバス、残念だがお前がタクミと戦うことはない。私の部下が見ているのだ。無様な姿を見せるわけには行かないのだよ。」
クリウスが剣を構える。それに合わせてシーバスも大剣を構えた。
「フン・・・面白い。ならばやって見せるがいい。行くぞ!」
互いに激しく剣戟を繰り出す二人。剣のぶつかり合う威力で地面が無数にはがれていく。
「おらぁああ!」
シーバスの豪快な薙ぎ払いがクリウスを弾き飛ばす。
「こんなものか!お前の力は!」
「くっ・・!」
クリウスが片膝を地面につける。
「わずかだがあの大剣使いの方が優勢のようだな。クリウスという男の剣には迷いのようなものが垣間見えるんだが・・・」
「・・・迷い?」
二人の戦いを見ていたアイズが呟いた。タクミが聞き返す。
「ああ。クリウスはあの大剣使いを倒すことにどこか抵抗があるようだ。その迷いが剣に表れているよ」
「はっはっは!クリウス!どうやらあの女には見透かされているようだぞ!そんな中途半端な剣で俺に勝てると思うなよ!」
クリウスがゆっくりと立ち上がる。
「・・・そうだな。私としたことが本当に情けないことだ。シーバス、最後にもう一度聞くがもう元に戻るつもりはないのか?」
「ないな!俺は最強を目指すと決めたのだ!たとえそれが悪の道だとしてもな!誰も俺の邪魔はさせねぇ!邪魔するやつは誰だろうと切り伏せてやる!」
「そうか。私はどこかでまだ希望を持っていたようだ。お前を元に戻せるんじゃないかとな・・・。だがそれも叶わぬのなら、やはりけじめはつけなければならない。シーバス!私の全力を持ってして、この戦いを終わらせるぞ!」
「ふっ・・。初めからそうしていればいいものを。これでこそ楽しめるというものだ。」
再び剣を構える二人。互いに一歩も動こうとしない。そんな様子をタクミも固唾をのみながら見守った。
「次の一撃が勝負を分けるな・・・」
アイズが小さく呟いた。そして、次の瞬間近くで建物の壁が一部崩れ落ちた。その瓦礫が地面に落ちた瞬間、
『行くぞ!』
クリウスとシーバスが声を共に上げて、互いの全力の一撃を繰り出した。
「うっ・・・・」
クリウスが剣を地面に突き立て、膝をついた。
「団長ーー!!」
声を荒げるタクミ。クリウスの元に駆け寄ろうとしたタクミをアイズが右手で止めた。
「アイズ!?一体何を・・?」
「落ち着くんだタクミ。よく見るんだ。」
アイズに言われもう一度クリウス達を確認した。
「クックックッ・・・。これで終わりだな!」
シーバスがクリウスにとどめを刺そうと大剣を振り上げた。
「ああ。これで終わりだ、シーバス。」
次の瞬間、シーバスの胸元から大量の出血が発生した。
「ぐっ・・!」
大剣を振り上げたまま後ろに仰向けに倒れるシーバス。
「フッ・・まさかクリウスに敗れる日が来るとはな。俺も弱くなったもんだ。」
クリウスがゆっくりと立ち上がった。
「シーバス、お前は決して弱くはなかったさ。だが私には護るべきモノがあるのだ。お前にはないモノを私は持っていた。それが今回の私とお前の差になったのだ。」
「クックックッ。お前も言う様になったもんだな。だが俺に勝ったからといって安心しないことだな。エレボスは俺よりも圧倒的に強いからな。お前らがどこまで立ち向かえるかせいぜいあの世から見といてやるとするよ。」
「エレボスという男がお前を魅了するほどの強さをもっているとしても、私たちは決して負けるわけには行かないんだ。しっかりあの世から見届けるがいい。」
「フン。相変わらずだな。まっ、せいぜい頑張ること・・・だ・・な・・・」
シーバスはそう言い残し目を開けたまま息絶えた。
「シーバス・・・お前が道を踏み外してしまう原因になったエレボスという男を私は許しはしない。今は安らかに眠れ。」
そう言いながらクリウスはシーバスの開いたままの瞳を、右手で覆って瞳を閉じた。
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