無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 32 『アーバンカル総力戦 1』


 「なんて速さだ!これならあっという間にアーバンカルに着いちまうんじゃないか!?」

 フェルの背中に乗ってアーバンカルに向かうタクミ達。フェルの移動速度はタクミの飛行魔法など比べものにならないほどだった。

 「だから言ったでしょ?僕って結構凄いんだから。」

 見た目が変わっても口調は変わらないフェルが自慢げに言う。

 「ああ、そうだな!全速力で頼むよ!」

 太陽がその姿を紅の夕日へと変えていく時、タクミ達の目に至る所から黒煙を上げるアーバンカルの変わり果てた街並みが見えてきた。

 「あれがタクミのいた街か。なんて酷いことを・・・」

 「かなり戦況は悪いようだね。とりあえずここからどうするんだい?」

 「そうだな・・・まずは魔法騎士団の皆と合流しよう!まずは戦況を知ることが大事だ。きっと皆も戦ってるはずだ!」

 「うむ。しかし敵の数はかなりのようだな。見てみろ。」

 アイズが示した先を見るとそこには大量の邪神教徒の軍がアーバンカルの周りに広がっていた。その数はウルガンドの時の比ではなかった。

 「なんて数だ!どんだけの数の人間が邪神教徒になってんだよ!?」

 「どうやらあの軍は人間じゃないみたいだよ。人間の持つ生気が感じられないからね。大方、魔術で造り出したゴーレム兵とかアンデッド兵とかだろうね!それにも魔獣を多数放っているみたいだし、このままだと近づくのも少し苦労しそうだね。どうするんだいタクミ?」

 フェルの言葉の通り、地上だけじゃなくそれにもコウモリのような魔獣が無数飛行している。

 「どうするもあいつらもほっといたらアーバンカルの攻撃に加わっちまうんだろ!?ならここで特攻も兼ねて敵の戦力を削っておこうぜ!」

 「そうだな。ならば私が地上の敵を引き受けよう。タクミはそれの魔獣を片付けてくれ。サリスは回復魔法の援護を頼む。フェル殿。あの一番敵の密集しているところで低空飛空してもらえるだろうか?」

 「うん。わかったよ!」

 「ちょっと待てアイズ!お前一人であいつらを相手にするっていうのかよ!?さすがにそれは無茶だ・・・」

 アイズを止めようとしたタクミをサリスが止めた。

 「大丈夫だってタクミ。あの程度の有象無象にアイズがやられるわけないだろ?いいからやらせてやんな。」

 「ああ。少なくともあの敵軍の中に私の脅威になりえる存在は感じられない。大丈夫だ。安心してくれ。」

 「マジかよ・・・。」

 「そろそろ着地点に近づくよ!準備はいいかい!?」

 「ああ!」

 声を揃えるタクミ達。フェルが邪神教徒の軍に向かって近づいていった。最も地上に近づいた時を見計らってアイズがフェルの背中から飛び降りた。アイズが飛び降りたと同時に高度を上げるフェル。

 「本当にアイズの奴大丈夫なのかよ?」

 アイズが飛び降りたところを見てタクミが不安そうにサリスに尋ねた。

 「大丈夫だって!あいつの元いた世界での通り名知ってるか?白銀の剣聖だ。まあ見てなって!」

 敵軍の真っ只中に降り立ったアイズ。フェルの言っていた通りこの軍は人ではなく、どうやら死体を動かしているアンデッド兵のようだった。

 「ふむ。フェル殿言っていた通り人ではないか。本当なら死にたくない者は武器を置いて去れと言う所だがそれもここでは意味がないな。死してなお操られる可愛そうな者たちよ、ここで私が弔ってやろう!


 そう言ったアイズが抜刀して襲いかかってくるアンデッド兵を斬り倒して行った。アイズの一振りで何人ものアンデッド兵が倒れていく。その速さ、まさに電光石火といった表現が相応しいだろう。瞬く間にアンデッド兵達は次々と地に伏せていった。

 「・・・な?私の言ったとおりだろ?アイズは心配いらないからタクミも自分の仕事を全うしな!」

 サリスの言う通りタクミ達の周りにも魔獣が集まってきた。

 「俺もアイズに負けてられないな!しっかり自分の役目果たしてやるよ!ドラゴンフレイム!」

 タクミもアイズに負けじと炎龍で魔獣の群れを薙ぎ払う。不思議とタクミの魔法の威力が向上している気がした。

 「やるじゃないかタクミ!その調子で頼むよ。」

 「なんだろう?魔法のキレっていうかなんかスゲーしっくり来るんだけど・・・」

 「それはタクミの心境に変化があったからじゃないかい?心と魔法は親密な関係だよ。タクミの決意が魔法に表れているんだよ。」

 「そうなのか?でも、この調子なら誰にも負ける気がしねーぜ!おらおら!まだまだ行くぜ!」

 目につく魔獣を片っ端から撃退していくタクミ。そんな様子を見て撤退を始める魔獣も出はじめた。

 「だいぶ空の方は片付いてきたな。地上のアイズはどうなったかな・・・」

 タクミが地上の様子を確認しようと下を覗き込んだ。

 「はあぁ!」

 アンデッド兵相手に無双しているアイズ。そこにはアンデッド兵の亡骸の山が出来上がっていた。

 「ホントに一人で撃退しちまってるよ。けどこれでだいぶ数も減らせたな!アイズを拾ってアーバンカルの内部に突入するか!」

 地上のアイズを再びフェルの背中に乗せ、アーバンカルの中を目指して飛んだ。

 「なあアイズってホント何者だ?強さが人間離れしてるよな。」

 あれだけの大軍を相手にして息一つ切らしていない様子のアイズを見てタクミが聞いた。

 「・・・タクミ。私は騎士だがその前に女でもある。褒めてくれているのだろうがそういう言い方されると少しは傷つかないこともないのだが。」

 「あ、いや!そういうつもりじゃないんだ!」

 「あーあ。これだから女心の分からん男は。これでアイズの剣が鈍ったらタクミのせいだからな。」

 「えぇ!?ホントそんなつもりは無かったんだって!すまんアイズ!」

 両手を合わせアイズに謝るタクミ。

 「談笑しているところ悪いけど、もうアーバンカルの中に入るよ。とりあえずどこに行けばいいかな?」

 「それなら魔法騎士団の本部に行ってくれ!あの建物だ!」

 「わかった。行くよ!」

 フェルはスピードを上げアーバンカルの城壁を超え、アーバンカルの中に入った。そこに広がっていた光景はタクミの知っているアーバンカルの街並みではなかった。至る所で邪神教徒の軍と魔法騎士団の戦いが繰り広げられていた。建物も幾つも燃えて煙を上げている。

 「こんなことしやがって!絶対にエレボスの野郎ぶっ倒してやる!」

 変わり果てた街を見て怒りが込み上げてきたタクミ。そして魔法騎士団の本部に到着したタクミ達。入り口の前に降り立った。

 「ここはまだ無事みたいだな。さて誰か事情を知ってる人は・・・」

 「タクミ!」

 知り合いを探そうとキョロキョロしていたタクミを呼び止める声がした。声の方をみるとそこにはウインズがいた。

 「あ、ウインズさん・・・。」

 少しバツの悪そうなタクミ。

 「やっぱりタクミか!いったいどこに行っていたんだ!?皆心配していたんだぞ!」

 「悪い!ウインズさん!その件については後でちゃんと説明するから!それよりもこの状況はどういうことなんだ!?」

 「今日突然邪神教徒がこのアーバンカルに総攻撃をかけて来たんだ。負傷者も多数出ている。今クリウス団長を始め皆も敵を迎撃するために出払っている状態だ。タクミそこの人達は一体誰なんだ?」

 「ああ。この人たちはアイズとサリスだ。そしてこっちのドラゴンみたいのが神獣のフェルだ。皆俺たちの仲間だから安心してくれ。」

 「神獣・・?一体何があったんだ?」

 「詳しい話は後だよ!負傷者の手当ては私に任せな!あんた私をそこまで案内してくれるかい?」

 「僕も直接戦うことは出来ないからね。ここでサリスと一緒に治療を手伝うことにするよ。」

 そう言うとフェルは元の可愛らしい姿に戻った。

 「あ、ああ。こっちだ。ついて来てくれ。それでタクミ達はどうするんだ?」

 「俺たちは皆の加勢に行くよ!」

 「そうか。皆の事頼んだぞタクミ!」

 「ああ!任せろ!全員無事に連れ帰ってきてやるよ!」

 タクミは親指を立てウインズに返事をしてアイズと共にアーバンカルの街中に走りだした。

 


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