無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 27 『心の病』


 「いや、そんな悩みなんて俺は別に・・・」

 そういってタクミはサリスからの視線を逸らした。

 「さっきも言っただろう?タクミを一目見た時から君が心に何か問題を抱えているのはすぐにわかったさ。私にごまかしは通用しないぞ?正直に話せば楽になることもあると思うのだが?ふぅー・・。」

 相変わらずサリスは煙草の煙を深く吐いた。しかしその瞳は本当にすべてお見通しといった表情をしている。

 「俺に悩みがあったとしても、今日会ったばっかりのサリスさんに話せるほど軽い悩みじゃないんすよ。これは俺が自分で解決しないといけない事っすから。だから気遣いは有難いっすけど話せません。」

 「ふふっ。見た目によらず強情な性格してるじゃないか。なるほど、自分で解決しないといけない悩みねぇ?まあ、タクミがそういうなら無理に聞き出すことはしないさ。私もそこまで無粋ではないからね。自分一人で解決できるにこしたことはないだろう。好きにやってみるがいいさ。ただ一つ確認なのだが・・・」

 「ただ・・・?」

 「タクミ。君はこの世界の純粋な住人ではないようだな?」

 「えっ?なんでそれを?」

 「やはりか。言っただろう?私は人を診ることに関しては自信があるとな。君の纏う魔力には独特なモノを感じた。ちなみにこのことはアイズは知っているのか?」

 「いや、まだ言ってないから知らないと思うっすけど。」

 「そうか。ちなみにアイズも君と同じように異世界から来た人間なのだよ。」

 「えっ!?アイズが!?」

 サリスの発言に度肝を抜かれたタクミ。まさかこんなところで自分と同じ異世界人に会うことになるとは思いもしなかった。

 「ああ。私がアイズと初めて会ったのは2年ほど前かな。ケガをしているアイズを治療してあげたのが始まりだ。聞けばどうやら突然この世界に連れてこられたっていうじゃないか。初めは私も半信半疑だったが、アイズの話はとても嘘をついているような感じはしなかった。」

 「そうだったのか。まさかアイズが俺と同じような異世界から来た奴だったなんて。じゃああいつはこの世界に来て二年間何をしてきたんだ?」

 「そうだな。初めは動揺もしていた時もあったが割とすぐに立ち直ったな。それからは困っている人を助けながら旅をしているといった感じだな。なんでも会いたい人がいるそうだ。」

 「そういえばさっきも探し人をしているとか言ってたな。誰なんすかそれは?」

 サリスはまた煙草を吸いこみ白い煙を吐き出した。そしてニヤリと笑い答えた。

 「フフッ・・・。なんでもアイズはこの世界で一番強い騎士と手合わせしてみたいそうなんだ。そのためにこの世界で剣聖とよばれている人物を探しているそうだ。」

 「一番強い騎士と戦いたいだって!?なんだそりゃ!?」

 「私も初めて聞いた時は驚いたさ。ただアイズはいたって真剣だぞ。アイズの剣の腕は知っているか?」

 「まあ一応は・・・手も足も出ませんでしたよ。」

 「ハハハ。アイズの剣を身をもって体験したのか。それは話が早い。アイズの腕は間違いなく本物だ。この世界でも5本の指に入るんじゃないか?アイズはただ純粋に自分の実力を試したいだけなんだよ。それが今のアイズのこの世界での行動理念となっている。」

 「はぁ。まあそういうのも悪くはないんじゃないっすかね?なんでそんな話を俺にしたんすか?」

 「タクミはどうなんだい?異世界という所に連れられた人間の気持ちは私には理解できないが、突然何も知らない世界に連れられてきたんだ。何か目的をもってタクミも行動しているのだろう?」

 サリスの問いにタクミは、はっとした。

 「俺は・・・」

 言葉につまるタクミ。

 俺は一体この世界で何がしたかったんだ?今一番の優先事項はスコットの仇を取るためにリリックを探して捕まえることだ。そして、かつてこの世界にいたと言われるケンジと言われる異世界人のことを調べてその人が何をしたのか知ろうとした。ただそれを知って俺に何になるというんだ?ケンジという人物は何かをこの異世界で成し遂げたのかもしれない。ただそれを知っても俺には何かが出来るとは限らない。唯一の異世界人という情報にすがりたかったのかもしれない。

 しかし今ここに、自分と同じように異世界から来たと言うアイズに会ってしまった。アイズは何に囚われるということもなくただ純粋に自分の力を試したいという目的をもって行動している。なら俺がしたいことは何だろう?何のために魔法を覚えたんだ?

 ローゼに助けられた恩を返すため?エドワードの爺さんにたまたま教えてもらったから?邪神教徒
を捕まえるため?

 魔法が使えるようになって何が変わったんだ?結果としてあの時はローゼ達を助けることは出来た。ただそれは成り行きだったからだ。結局魔法が使えるようになっただけで俺は何一つ変わっちゃいないんじゃないか・・・ただ無能と呼ばれた男が魔法という特技を得ただけで根っこの部分は何も変わっちゃいないんじゃないか?

 タクミの中で様々な考えがごちゃ混ぜになってしまった。サリスの問いに対してはっきりした答えを出すことが出来なかった。

 「俺は・・・俺は・・・」

 「ふぅーー・・・。どうやら困らせるような質問をしてしまったようだ。すまんな。タクミを困らせるつもりはなかったんだが。今の質問は忘れてくれ。ただきちんとした目的を持っている人とそうでない人はここぞいう時の心の強さにかなりの差が出るもんだ。・・っとなんだか説教くさくなってしまったな。柄にもないことをしてしまった。さて、しばらくはアイズも帰って来ないだろう。アイズが帰ってくるまで隣の部屋で休んでいるといいさ。見た所タクミも疲れが溜まっているようだしな。」

 確かに。昨日から徹夜で浮遊魔法を使い、休みなく動きっぱなしだった。サリスに改めて言われるとどっと疲れがこみ上げてきた。

 「ならお言葉に甘えて・・・」

 タクミはおとなしく隣の部屋で休養を取ることにした。二つ並べられたベッドの片方にうつ伏せに倒れこむ。先程のサリスの問いについて改めて考えてみた。しかし、疲労には勝てずいつの間にか眠りについてしまったタクミ。





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