無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 26 『問診』
「着いた!ここに私の知る名医と呼ばれる人がいるのだが・・・」
オージュアの祠を後にしたタクミ達は約三時間ほどかけてアイズに案内されて、このカルミンという小さな村に到着した。到着した時にはお昼過ぎだった。
カルミンに到着したアイズは村の中でも少し離れたとこにある一軒家を訪ねた。外から見た感じ普通の家で病院とかそういった治療機関ではないみたいだった。
「アイズの知り合いって医者か何かなのか?」
「いや、正式に医者を名乗っているわけではないのだが、人の怪我や病気を治すことに関してはこの人の右に出る人を私は知らないんだ。」
「へえー。そんな凄い人がいるんだな。」
「ああ。私も何度かお世話になっているんだ。さて早速中に入ろうとしよう。」
アイズが玄関の扉を開けた。
「サリス!サリスいるかー?私だ!アイズだ!」
「んー?おおー!アイズか!久しぶりだな。」
アイズの呼びかけに呼ばれて中から一人の女性が姿を現した。サリスと呼ばれる女性はスラーっと長身でセミロングの黒髪。美人の部類には入るのであろうが、その顔からは何となく性格のきつそうな感じがする。タクミはサリスを見て率直にそう思った。
「いきなり押しかけて悪いな。早速だがサリスに診てほしい人がいるんだが・・」
「ほう・・。これまた珍しい患者を連れて来たじゃないか・・・。なんだ?心の病でも診てほしいのか?ん?」
サリスはタクミを見るなり近寄りタクミの顔をまじまじと観察した。
「いや俺じゃないんだけど・・・」
サリスの反応に否定をしたタクミだがそのサリスの瞳にまるですべて見透かされたような気分になってしまった。
「サリス。タクミは付き添いだ。見てほしいのはこちらの方だ。」
アイズがマーリンを抱えたダジンを招き入れた。
「これまた珍しいもんだ。エルフ族か。してその症状とは?」
「エルフ族のダジンと言います。見てほしいのは私の妻なのですが・・・。」
ダジンが背中に抱えているマーリンをサリスに見せた。マーリンの体に現れている黒い苔をみてサリスの表情が引き締まった。
「・・・なるほど。すぐに奥の部屋で治療しよう。入ってくれ!」
サリスに案内されて家の奥の部屋に通された。そこには一つのベッドが用意されてありベッドの置いてある床には魔法陣のようなものが描かれてあった。そのベッドにマーリンを横に寝かせた。
タクミ達も見守るように立っていた。サリスが横になっているマーリンに近づく。
「さぞきつい思いをしただろう。今楽にしてあげよう・・・」
そう言ったサリスは横になっているマーリンに両手をかざした。それと同時に床の魔方陣がサリスに反応するように白く輝きだした。
サリスがマーリンの黒い苔を一つ一つ撫でるように触れていく。するとサリスが触れていった部分から次々と黒い苔が消えていった。マーリンの呼吸もどんどん落ち着いていった。どうやら楽になっているようだった。
「・・・よし。これでもう大丈夫だろう。」
少しすると魔方陣から光が消えた。どうやら治療が終ったようだ。ベッドのマーリンは眠っていたようだった。
「もう大丈夫なのか?」
「ああ。とりあえずは大丈夫だ。今は眠っているがすぐに目を覚ますだろう。目を覚ますまでゆっくりしてくれて構わないよ。」
サリスの言葉を聞いてダジンがマーリンに駆け寄った。
「良かった・・。本当に良かった!なんとお礼を言っていいのか・・」
眠っているマーリンの手を握りダジンが瞳に安堵から涙を浮かべていた。
「別にいいさ。アンタは目を覚ますまで傍にいてやってくれ。そして二人はちょっといいか?」
ダジンとマーリンを二人っきりにしてサリスはタクミとアイズを別室に連れ出した。
サリスは椅子に座り煙草を口にくわえてマッチで火をつけて深く息を吐いた。
「・・・ふぅーー。」
「すまないなサリス。助かったよ。それであの病は何が原因だったのだ?」
「あれは病ではないさ。」
サリスが深刻そうな表情をしている。
「ということは呪術の類と・・・?」
「ああ、それもエルフ族相手にあの効果だ。そうとう厄介な黒魔術の部類だぞ。あれは。一体何があったというんだ?」
「詳しくは私も知らないのだが・・・」
アイズはひとまずダジンから聞いた経緯をサリスに説明した。アイズの話を聞いてサリスが再び煙草の煙を吐き出した。
「・・・なるほどね。ということは誰かがエルフ族一族に対して黒魔術をかけたということか。神の一族の末裔ともいわれるエルフ族に呪いをかけるとは、随分頭のネジがぶっ飛んでる輩がいたもんだ。それで、アイズはどうするんだ?」
「呪いの類ならその原因を排除しなくてはならないだろう?」
「アイズはそういうと思ったさ。それで隣の・・・えーっと、名前なんだっけ?」
「タクミっす。」
「タクミね。それでタクミとやらはどうするつもりなんだ?」
「俺は・・・えーっと・・・」
サリスの問いに言葉を詰まらせるタクミ。
俺としては早くリリックの奴を捕まえたいんだけど、ここで知らんふりっていうのも気まずいしな。それにここまで大事なら邪神教徒の奴らが関係している可能性もあるし・・・現状なんの手掛かりもないしな。
「あー・・・・人手が必要なら手伝いますけど?」
「よし、手伝え!」
サリスが即答した。
「サリスはどうするんだ?」
「私か?最近暇していたからな!どんな奴が犯人か興味あるしアイズ達に着いていくことにするさ!」
「そうか。それは助かるよ。」
「ならこれからどうするんだ?」
「ひとまずはマーリンが回復するのを待って二人にエルフ族の村へと案内してもらおう。村に行けば何か手掛かりが掴めるはずだ。」
「そうだな。ひとまずはここでゆっくりしていくといいさ。あ。アイズは出発する前に色々と準備を頼めるか?」
「ああ。構わないさ。」
「すまんね。ならちょっとこの一覧の買い出しを頼まれてくれないか?」
サリスがアイズにメモを渡した。
「了解した。では行ってくるとしよう。」
「なら俺も・・・ぐっ!」
アイズに着いていこうとした時、首元をサリスに捕まれた。
「タクミはここで私と留守番だ。荷造りを手伝いたまえ。」
「では私は行ってくるとするよ。」
アイズがサリスの家を後にした。
「そんな首掴まなくてもいいじゃないっすか・・・それで何を手伝えばいいんすか?」
「・・・何か心に悩みを抱えているのだろう?」
再び口に煙草をくわえたサリスがタクミに言った。
「・・・え?なんで、そう思うんすか?」
「こう見えて私は人を診ることには自信があるのだ。それは目に見える傷も心の中の見えない部部の所もな。私は口は堅い方だ。話してみたまえ。そのために人払いをしたんだ。遠慮することはないさ。」
サリスの真っすぐな瞳がタクミに向けられた。
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