無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 23 『審判の剣』


 「はぁ・・・はぁ・・・」

 誰にも会いたくないタクミはただがむしゃらにアーバンカルの外へと走り出た。

 時間はもう深夜になり辺りは完全に真っ暗である。

 「とりあえずここまで来れば知り合いに会うこともないだろう。さてここからどうしたもんかな・・・」

 暗闇の森の中立ち止まり考え込むタクミ。しかし良い考えは何も浮かんでこなかった。

 「まずはリリックの野郎を捕まえないとなんだけどな。あの野郎がどこに逃げたのか全然わかんねーしな。それになんであいつは拳銃なんて持ってたんだ?あれはどう見ても俺がいた世界のモノだったよな・・・。誰かがリリックの奴に渡したって言ってたし。まさか俺以外にも同じ世界から来てるやつがいるのか・・・?」

 目の前で起きた不可解な出来事に疑問が尽きないタクミ。だがどんなに考えても答えは出なかった。

 「・・・って考えても全然わかんねーや。やっぱりリリック本人に聞くのが一番手っ取り早いな。まずはあいつを探すことを一番に行動するか。あてもないけどアーバンカルにいる訳にもいかないし、とりあえず適当に動いてみるか。フライ!」

 タクミは浮遊の魔法を唱えて今まで行ったことのない北の方角に飛んでいった。

 暗闇の空中浮遊。高度を上げると星の澄んだ明かりでそんなに真っ暗といった感じではなかった。空から地上を見下ろしても特に明かりはなく、何の変化もないまま飛行を続けた。

 かなり長い時間の飛行を続けたタクミ。東の地平線からは日の出が見えてきた。どうやらもう朝になってしまったようだ。うっすら朝日がさしてきて視界がかなりはっきりしてきた。

 「いつの間にか朝になっちまったな。全然わかんねー地域に来ちまったな。これ以上飛行を続けると誰かに見つかるかもしれないし一旦どこかに降りるか。・・・・ん?あれは?」

 どこか着陸できそうな場所を探していたタクミ。ふと草原にグリドラに乗って移動する一人の旅人のような人影を見つけた。その全身にコートのようなものを着ており外見からは性別もわからない様子だった。

 「なんだあいつ?こんな朝早くに一人で。しかもあんな格好していかにも怪しい奴だな。ちょっと調べてみるか・・・」

 そう思ったタクミは旅人の前方に行き先を遮るように降り立った。グリドラに乗っていた旅人はタクミの姿を見てその場に立ち止まった。

 「あー・・・その、いきなりで悪いがちょっと人を探しているんだ!もし良いならそのコートを脱いで顔を見せてくれないか?」

 動きを止めた旅人にこう問いかけたタクミ。しかし旅人からの反応は特になかった。

 「無視ね。いかにも怪しいな。あんた邪神教徒の関係者か?」

 「・・・邪神教徒?」

 タクミの問いに旅人がボソッと言葉を発した。そして旅人はグリドラから降りた。明らかに邪神教徒という単語に反応した様子だ。

 「これはいきなりビンゴかな?とりあえず一旦拘束してみる・・・・え?」

 グリドラから降り立った旅人は頭から被っていたコートを右手で脱いでその顔を露わにした。露わになった顔は白銀の髪をなびかせて端正な顔立ちの若い女性だった。その瞳は左右で色が違い、左目は真っ赤な色で右目は青い瞳をしていた。

 「・・・女?」

 予想を裏切る旅人の素顔に戸惑ってしまったタクミ。しかし次の瞬間、白銀の髪の女性はコートの中から剣を抜きタクミに向けて構えた。その表情は戦闘準備万端といった感じだ。

 「・・・っていきなりかよ!」

 「邪神教徒は私の手で全て葬る!」

 「え?ちょっと待て!俺は邪神教徒じゃねーよ!何か勘違いしてんじゃ・・・」

 「問答無用だ!」

 そういうと白銀の女騎士はタクミに斬りかかってきた。その容姿からは想像の出来ない鋭い剣戟が繰り出された。

 これを間一髪でかわすタクミ。どうやらこの女騎士はタクミを邪神教徒を勘違いしているようだった。一旦距離を取ろうと離れようと後ろに飛んだタクミ。しかし女騎士は凄まじい速さでタクミとの間合いを詰めた。

 「なっ・・!ちょっ・・・!」

 後ろに飛び着地しようとした右足を左足で払われ地面に仰向けに倒されたタクミ。倒れたタクミの喉元に女騎士の剣の切先が向けられる。

 「覚悟・・・!」

 女騎士が止めを刺そうと剣を振り上げる。

 「ちょっと待て!俺は邪神教徒じゃねーよ!」

 死の危険を感じたタクミはたまらず身の潔白を叫んだ。女騎士の手が止まった。

 「・・・何?」

 「本当だって!俺も邪神教徒の奴を探してるんだよ!だからその剣をしまってくれ!」

 「それは本当か?その命に代えて誓えるか?」

 「ああ!誓うよ!」

 「そうか・・・なら確かめてやろう!ジャッジメント審判の剣!」

 そう叫んだ女騎士の剣はタクミに向かって振り下ろされた。しかしその刀身はスルリとタクミの体をすり抜けてしまった。タクミの体に傷や痛みは何もなかった。

 「ふむ・・・どうやら本当のようだな。」

 「・・・え?今のは一体?確かに今俺斬られたよな?」

 「今のはこの剣が持つ特有の技のようなものだ。私の問いに偽りで答えたモノを一刀両断にするという技だ。今ので斬れてないってことは君は邪神教徒の者ではないようだ。」

 「それってつまり俺の身の潔白は証明されたってことだよな?」

 「とりあえずはそういうことになるな。君の名は何というのだ?」

 「あ、俺はタクミって言うんだ。そういうアンタはなんて言うんだ?」

 「タクミか。いきなり斬りかかってしまって悪かったな。私はアイズ。アイズ・レストールという。」

 そう名乗ったアイズは剣を収め倒れているタクミに右手を差し出してきた。

 

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