無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 22 『逃亡』
「それで・・・一体何があったんだ?」
魔法騎士団の本部の一室でウインズに質問を受けるタクミ。しかしタクミはうつむいたまま無言だった。
スコットが引き取った後にタクミは騒ぎを聞きつけて駆け付けた警備兵によって保護されて魔法騎士団本部に連れられてきた。
「タクミ。君にはスコット様と私の屋敷にいるように頼んでいたはずだけどなぜあのようなところにいて・・・そしてスコット様があのようなことになってしまったのか私たちに教えてくれないか?」
「・・・・・・」
ウインズの問いにタクミは相変わらず何も答えなかった。
「ふむ。タクミが何も言わないんじゃ私たちも状況が把握できないのだが・・・。クリウス、君はどう思うかい?」
「私たちが城を訪ねた後からリリック副官が行方をくらませているらしい。おそらくはリリック副官が前皇帝の暗殺にも関与していた恐れがあるな。そして私たちからスコット様の皇帝襲名式典の話を聞き、スコット様の暗殺計画して行動したのではないかと私は考えているのだが・・・どうもタクミの様子がおかしいからな。」
「うん。私もそうだと思うのだが・・・タクミ。やはり君に口から何があったのか聞かないと私たちはこの状況を理解することが出来ないんだ。どうか怒らないから正直にありのままに話してくれないか?」
ウインズはまるで幼い子供に話しかけるように優しくタクミに問いかけた。
「・・・・・」
それでもタクミはウインズの問いに何も答えなかった。
言えるわけない!俺の勝手な思い付きでスコットを連れ出して、それで敵に見つかって自分をかばってスコットが死んだなんてこと・・・そんなこと言えるわけないじゃん!俺のせいで・・・・人が死んでしまったんだ!俺がスコットを殺したも同然なんだ!
タクミはうつむいたまま内心ではスコットを死なしてしまったことに対して後悔に押しつぶされそうになっていた。
本当ならここで正直にすべてを話して責任を取らなければいけないのかもしれない。しかしタクミには正直に話す勇気がなかった。自分のせいでスコットが死んだなんてことがわかれば何を言われるか分かったもんじゃなかった。しかも時期皇帝になるはずだった人を自分の不注意で失うことになってしっまったのだ。
そんな考えがタクミに沈黙という選択を迫ったのだった。
 [仕方ない・・・タクミも心に傷を負っているようだ。今無理に聞き出すのは得策ではないのかもしれないな。今日はゆっくり休んでくれ。それでまた明日ちゃんと話を聞かせてくれるかい?」
このウインズの問いにタクミは無言で頷いた。
「だそうだ。クリウスもこの話はまた明日ということで良いかな?」
「仕方ないな・・・。」
クリウスもウインズの提案に渋々納得したと言った様子だった。
タクミはウインズに案内されて個室に案内された。
「今日は色々あって疲れただろう。今はゆっくりと休んで気持ちを落ち着かせてまた明日話を聞かせてくれるかい?」
再びタクミはウインズと目を合わせることなく無言で頷いた。
「・・・おやすみタクミ。」
そういうとウインズは扉を閉めて行ってしまった。
用意された個室のベッドに暗いまま倒れこむタクミ。
「俺のせいで・・・スコットが。俺のせいで・・・!」
綺麗に張られていたシーツを右手で握りこむタクミ。目をつぶればスコットの安らかな笑顔がついさっきのように鮮明に思い出された。
そしてスコットの表情を思い出すたびにタクミの胸が苦しくなった。
「ごめんなスコット。俺のせいで・・・。お前を・・・守るって、約束・・し・・たのに!」
スコットを死なしてしまった悔しさと情けなさと様々な感情が沸き上がってきて目には涙が浮かんできた。
俺はこれからどうすればいいんだよ・・・
ベッドに顔を埋め一人考え込むタクミ。
今日は何も言わなくてもなんとかなったけど明日は絶対に話さなくちゃいけないんだ。
でもなんて話したらいいんだよ!?正直に話せばいいのか?いやそんなの絶対ダメだろ!?俺のせいで皇帝になる人を死なしてしまったなんてどう責任を取ればいいんだよ!?」
・・・最悪死刑?
十分あり得るよな・・・俺はそのくらいの事をしてしまったんだ。
明日俺は死ぬのか?このまま明日を迎えて正直に全部話して責任を取って死刑・・・?
そんなのは嫌だ!このままただ死ぬのなんて!どうせ死刑になるのならスコットの仇は俺がとってやる!
・・・そうだ!俺がスコットを殺した奴らをまとめて捕まえて来ればいいんだ!そうすればきっとスコットも喜んでくれるはずだ!
そうだ!俺にしか出来ないことなんだこれは・・・!俺がやるしかないんだ。俺がスコットの仇を取るんだ!
一人悩み、一つの答えにたどり着いたタクミ。それは正直に話すという選択ではなく自分でスコットの仇を取るという結論に至ってしまった。
この結論にたどり着いたタクミは何かを決意したような表情でゆっくりと顔を上げた。
ベッドからゆっくりと起き上ったタクミは身に着けていた魔法騎士団の制服を脱いでベッドの上に綺麗に畳んだ。
「短い間だったけど世話になったよ。勝手だけど俺は俺のやり方でスコットの仇を取るから。それで許してくれとは言わないけど・・・俺なりの責任の取り方をさせてくれよ。」
タクミは部屋に会ったメモ紙に伝言を書いた。
本当にすいません。責任は俺が全部取ります。
こうメモに書き残したタクミはそっと個室を後にして、誰にも会わないように細心の注意を払い魔法騎士団本部を後に一人夜のアーバンカルの街に走りだして行った。
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