無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 19 『受け継がれる味』


 「オラオラ!どーした!?」

 「まだまだー!」

 ウインズの屋敷の中庭にタクミとスコットの声が響き渡る。

 ウインズの屋敷に篭って今日で13日目。スコットの皇帝襲名式典を明日に控えているといったところだった。

 幸いなことにウインズの屋敷が襲われることもなくタクミとスコットは魔術習得のための修行に集中することが出来ていた。

 タクミの修行によってスコットは根本的な魔力を高めることは出来たが、残念なことに肝心な降魔術の方についてはこれといった進歩は見られなかった。

 「ふう・・・スコットの魔力もだいぶいい感じになってきたんじゃないか?」

 「そうだね。自分でも驚くほどの魔力の上達っぷりだよ。タクミの修行のおかげだね!」

 「俺の修行内容は受け売りだからな。それよりもスコットの努力の賜物だぜ!短い期間だったけど良く頑張ったな!」

 「そんな・・・。でもありがとう!ただ、降魔術の方は結局のところ成功することは出来なかったな。」

 無念そうに自分の右手を見つめるスコット。

 「まあまあ。こんだけスコット自身の魔力も高まってきたんだ。降魔させた奴がスコットの事を認める日もそう遠くないと思うぜ?」

 「そうだといいけどね。だけどタクミには感謝しているよ。本当になんとお礼をしたらいいのか・・」

 「礼なんていいってことだよ!俺もスコットと修行している間楽しかったしな!それにしても護衛任務って言ってもビックリするくらい何もなかったな。こう言っちゃなんだけど、なんかもう少し敵の襲撃とかあるもんだと思ってたんだけどな。」

 「ハハハ。そうは言ってもここはアーバンカルの中心街でもあるからね。そう簡単に敵も来ることは出来ないはずだよ。」

 「そんなもんか?とは言えスコットもいよいよ明日でアーバンカルの皇帝になっちまうわけだな!」

 「・・・うん。いよいよ明日だね。」

 「なんだ?さすがに緊張しちまってるのか?」

 「緊張してないと言ったら嘘になるね。ただ覚悟は出来てるからね。大丈夫だよ。」

 「ならいいけどな。それにしても結局ウインズは一度も屋敷に戻ってこなかったな。そんなに忙しいのかな?」

 「そうだね。ウインズとクリウス団長にも色々と動いてもらっていたからね。ジュエル君も含めて改めて三人にもお礼をしなければね。」

 「ふーん。しかし二週間も屋敷に篭っているとさすがに外の状況がわかんねーな。それにそろそろメイドの作る料理にも少し飽きて来たな。こうもうちょっと、濃い味の料理が食べたいというか・・・そうだ!」

 何かを閃いた様子のタクミ。

 「どうしたんだい?タクミ?」

 「なあスコット。スコットはこのアーバンカルに凄い美味い料理を出す店があるのを知っているか?」

 「え?うーん・・・正直あまり城の外の事は知らないんだ。」

 「なんてこった!アーバンカルに居ながらあの店の事を知らないなんて!そんなのもったいなさすぎるぜ!もう明日になったらスコットは皇帝になっちまうんだ。そうなっちまったら簡単に外に出ることも出来ないだろ?そこで提案なんだが今日はもう夕方だし、修行をやめて外食しないか?」

 「えぇ!?それはさすがにまずいんじゃないかい?ウインズも外出はしないでくれって言ってたし・・・」

 「大丈夫だって!ちょっと飯食いに行くだけだし、ちゃんとバレないように変装もするし!それに皇帝たるもの街の事を知っておくのは大事だと思うぞ?」

 「うっ・・それを言われると僕もつらいな。それに僕も一度アーバンカルの街を見てみたいと思っていたんだ。」

 「うっし!なら決まりだな!行こうぜ!」

 「・・・わかったよ!」

 こうして二人は式典の前の日に屋敷からこっそり外に出ることにした。

 「変装ってこれかい?何も変わってないように見えるんだけど・・・?」

 「大丈夫だって。今俺たちには周りの人達から認識されないように魔法をかけてるからな。周りから見ればその辺の普通の人変わらないようにしか見えないはずだぜ?」

 メイドの目を盗みウインズの屋敷の外に出て走るタクミとスコット。

 「本当かい?なんだか実感がわかないんだけどな・・・」

 「ホントだって。その証拠に今からすれ違うあの若い夫婦見てみろよ。」

 そういうとタクミとスコットが夫婦とすれ違ったが軽い会釈をするだけで大した反応はなかった。

 「・・・な!?言っただろ?」

 「うーん・・今のはあの夫婦が単純に僕の事知らなかっただけじゃないのかい?」

 まだ納得できてない様子のスコット。

 しかしそれから何人ともすれ違ったが誰もスコットに対して騒ぎ立てる様子はなかった。

 「どうやら本当に誰も僕たちに気づかないみたいだね。」

 この状況にさすがにタクミの魔法を信じたスコット。

 「だから言っただろ?この魔法は少人数の中では効果をあんまり発揮しないけど大勢に紛れちまえばその効果は抜群なんだよ!」

 自慢げに右手の親指を立てるタクミ。

 タクミとスコットは目的の店に到着した。目的の店とはもちろんアーバンカルで一番の美味さを看板に掲げているシャンバルだった。

 「ここが俺が愛してやまない店だ!」

 「アーバンカルで一番美味い店ってすごい看板だね。こんなお店があるなんて知らなかったよ。」

 シャンバルの看板を見上げてその謳い文句に驚くスコット。

 「だろ?だけど看板に掲げるだけの味は保証するぜ!」

 「へえー。それは楽しみだね!」

 二人は店の中に入った。夕飯時とあってか相変わらず店の中は繁盛していた。

 「相変わらず繁盛してんなー。まあ今の俺らの状況ならありがたいことだけどな!さっ、注文は決まったか?」

 「うーん・・どれも美味しそうでどれがいいか決められないよ。」

 メニュー表を見て頭を悩ませているスコット。

 「優柔不断な奴だなー。ここの料理で不味いもんなんてないから安心しろって!」

 「・・・わかったよ!なら僕はこれにしたよ!」

 「よっしゃ決まったな!・・・おねーさーん!」

 料理を決め注文するタクミ。頼んで間もなくするとテーブルに料理が運ばれてきた。その料理を見て目を輝かせているスコット。

 「おぉー!凄い良い匂いだね!こんな料理は城にいる時は出てきたことないよ!」

 「そうなのか?てっきり良いもんばっか食ってそうなイメージだったけどな。」

 「うーん、城で出てくる料理はなんていうかもっとマナーとか厳しくしないといけないような料理ばっかりだったからね。」

 「へぇー。なら味にも驚くこと間違いなしだから早く食ってみろって!」

 「うん!」

 そういうとスコットは目の前の料理を一口食べてみた。

 シャンバルの料理を口にしたスコットは言葉にならない喜びを表現していた。

 「どうだ?美味いだろ?」

 タクミの問いに何度も首を縦に振るスコット。

 「・・・っとにタクミの言った通り美味しいね!こんなに美味しい料理は今まで食べたことないよ!」

 「ハハハ。そうだろ?俺も初めて食べた時そう思ったもんだ!さあガンガン食べようぜ!」

 「うん!」

 タクミもスコットも一心不乱に料理に食らいついた。テーブルに並べられた数々の料理はあっという間になくなってしまった。

 「・・・ふう。いやーやっぱりいつ食べても満足だぜ!」

 ふくれたお腹をさすりながら満足そうにタクミが言う。

 「タクミの言った通りこの店に来て良かったよ。今までここの事を知らなかったなんて驚きだよ」

 スコットもタクミと同じようにふくれたお腹をさすっていた。

 「そうだろ。・・っとこうゆっくりもしてられないんだったな。早く屋敷に戻らねーとバレたら大変だ。行くぞスコット!」

 「え?あっ!そうだね!戻ろうか!」

 満足感を得た二人は早々にシャンバルを後にしてウインズの屋敷に戻ることにした。

 食事を終え外に出るともう日も落ちた後で夜になっていた。

 「すっかり暗くなっちまってるな。こりゃ急いで戻らないとやべーな。」

 「そうだね。急ごう!」

 二人は走ってウインズの屋敷に向かった。大通りを抜けてどんどん人通りが少なくなっていく。

 街灯なんてものはないから少し大通りを外れると暗さはより一層増すばかりだ。

 夜道を走るタクミとスコット。

 「・・・こりゃ誰かにつけられてるな。」

 何かの気配に気づいたタクミ。 

 「え?僕たちに誰か気づいたのかい?」

 「この時間になるとほとんど人もいないからな俺たちにかけた魔法も効果が薄れたんだろう。急ぐぞ!」

 「わ、わかったよ!」

 二人はさらに走るスピードを速めた。しばらく走り続けたタクミとスコット。しばらくして走る足を止めた。

 走る二人の前に人影が二人立ちはだかった。

 「ちっ!先回りされたか・・・。誰だお前ら!」

 目の前に立ちはだかった影に声を荒げるタクミ。

 

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