無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 15 『新任務』
「ただいまー!」
ニーベルが元気よく魔法騎士団本部の入り口を開ける。その後ろにタクミも立っていた。
「あれ?なにかあったのかな?」
入り口から入った奥に人混みが出来ていた。
「あっ!タクミ!大変だよ!」
タクミの姿を見つけたレミが人混みの中からタクミに駆け寄ってきた。
「大変って何があったんだ?」
「それがジュエルが任務から帰ってきたみたいなんだけどかなりの怪我をしているみたいで・・・」
「ジュエルが!?一体何があったんだ!?」
レミの言葉に驚くタクミ。
「それがまだはっきりとはわからなくって・・・。傷だらけのジュエルを男の人が抱えて帰ってきて、今はその男の人とクリウス団長とウインズさんが何やら話をしているみたいなんだけど。」
「それでジュエルは大丈夫なのか?」
「傷はたくさんあったけど命に別状はないみたいだって。今は別室で治療魔法を受けているところだよ。」
「そっか。にしてもジュエルがそこまでやられるなんて一体何があったんだ?」
「ジュエルって確かタクミと一緒に入団した槍使いの子だっけ?あの子も相当な力を持っているって話だったけどそこまでやられるなんて只事じゃなさそうだね。」
ニーベルも神妙な面持ちで心配そうにしている。
「ああ。ジュエルがそう簡単にやられるなんて思わねーし・・・そのジュエルを連れて来た男ってのも気になるな。」
そうこうしているうちにクリウス達が姿を現した。その後ろにはおそらくジュエルを連れて来たであろう男の姿もあった。その見た目はフードをかぶっていてはっきりとはわからなかった。
「タクミ戻ってきていたのか。ちょうどいいちょっと来てくれ。あとニーベルも見せたいものがあるから来てくれ。」
タクミ達の姿を確認したウインズが二人に声をかけた。言われるがままに後ろを付いていくタクミとニーベル。クリウスとウインズ、謎の男とニーベルそしてタクミの5人である部屋に入った。
「さて、ジュエルが何者かの襲撃を受けて重症の傷を負って帰ってきたのはもう聞いたかい?」
ウインズが一番い口を開いた。
「ああ。一体何があったんだ?」
「それは僕の口から説明しよう。」
フードで顔を隠していた男が突然話に入ってきた。男はおもむろにフードを取って素顔をさらけだした。
フードの中から現れたのはまだ若い青年の姿だった。整った顔立ちに金色の髪をしていた。
「僕の名前はスコット。ジュエル君には僕の護衛をしていてもらっていたんだが敵の襲撃を受けてしまって。彼は僕を守りながら戦い敵を退けることは出来たのだが、彼も重症を負ってしまったのだ。」
「護衛?」
「そのお方は前皇帝のご子息のスコット様だ。ジュエルにはスコット様の護衛の任務を任せていたのだ。」
「皇帝の子供?それで一体誰に襲われたって言うんだ?」
「タクミっ!スコット様にその口の利き方は失礼だよ!」
タクミの様子を見て慌ててニーベルが注意をした。
「ハハハ。気にしなくてもいいんだよ。変に気を使われるよりも楽でいいからね。それで僕たちを襲った者のことなんだけど邪神教徒に間違いはないのだけど僕たちを襲った者たちの様子がどうもおかしくてね。ジュエル君が何度切り伏せてもまるで不死身のように立ち上がってきたんだ。それで消耗戦になってしまい苦戦を強いられたんだ。そして倒した敵兵からこんなものが出てきたからね。これが原因じゃないかと思って持ってきたんだ。」
そういうとスコットは懐からある物を取り出して皆に見せた。
「これは・・・?」
それを見たニーベルが驚いたような表情をしている。
スコットが取り出したものは黒い魔石の様なものだった。
「これが何かわかるのかい?ニーベル。」
「この魔石に刻まれた刻印は禁術の一つです。この魔術は対象者の意識を完全に乗っ取りただ一つの目的のために一方的に操るといったものです。ただ・・・この魔石に刻まれた刻印は私の知っている物とは少し違う部分があるので、おそらくはこの魔術を使ったものが何かしらの改良を施していると考えられます。」
いつにもなく真面目な表情のニーベル。
「なるほどな。敵はこれを使って不死身に近い兵を造り出したというわけか。しかしそういうことならこの魔術が大量に実戦に使われれば我々も苦戦を強いられるのは間違いないな・・・。ニーベルこの魔石を解析して対処法を探し出してくれないか?」
クリウスがニーベルに問いかけた。
「了解!任せて!ばっちり解析して見せるから!」
目をキラキラさせてニーベルが返事をした。その眼は好奇心に満ち溢れていた。
「うむ、任せたぞ。それでタクミには負傷したジュエルの代わりにスコット様の護衛をしてほしい。」
「俺が!?」
「ああ。スコット様は前皇帝のただ一人のご子息なのだ。今このアーバンカルは残念なことに皇帝不在という状況だ。いつまでもこの状況を続けるわけには行かないので近々スコット様の次期皇帝の襲名式典を開くことが決まっている。しかしこれを邪魔しようとする輩が多くいるのも事実だ。何としても我々はスコット様を失うわけには行かないのだ。これは重要な任務だ。出来るなタクミ?」
クリウスがタクミに鋭く問いかけた。
「・・・ああ。そういうことならばっちり護衛してやんよ!任せてくれ!」
自信満々に答えるタクミ。
「手を煩わせて済まないね。タクミと言ったかい?改めて僕の護衛を頼んだよ。」
スコットが立ち上がりタクミに右手を差し出した。
「おう!あんたのことは絶対守ってやるから任せてくれ!」
スコットの差し出した右手を強く握ったタクミ。
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