無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 10 「曲がり角には危険がいっぱい!?」
「・・・ん。あ、すっかり寝ちまっていたな。」
深い眠りから目を覚ましたタクミ。寝付くのが早かったせいか時計が0時を回った辺りで起きてしまった。
「あーあ。珍しく早寝なんてしちまったから中途半端に起きちまったよ。」
希望としては朝まで熟睡したかったのだが、起きてしまったものはしょうがないのでやれやれと体を起こした。隣の空いているベッドには誰も来ていないようだった。
起き上ると腹が鳴った。晩御飯も食べずに寝てしまったのだから無理もなかった。
「・・・腹減ったな。といってもこの時間になんか食い物とか調達できるのかな?」
この空腹をどうにかするために寝室から出るタクミ。部屋から廊下に出るとポツポツと等間隔にうっすらと明かりはついていた。
「うーん、俺この魔法騎士団の本部の中って良く知らないんだよな。食い物探すついでにちょっと探索してみるか。」
急に好奇心が湧いてきたタクミ。若干寝ぐせのついた髪をくしゃくしゃっと撫でながらあてもなく歩き出した。
「結構この建物も広いんだよなー。誰か知り合いでもいればなんか恵んでもらえないこともないとおもうんだけど・・・イテッ!」
「きゃっ!」
あてもなく廊下を歩いていたタクミ。曲がり角を曲がろうとした時に何かにぶつかった。タクミがぶつかったものはどうやら女性のようだった。
甲高い声と共に後ろに座り込んでしまっていた。下の方に視線を送るとそこにはタクミよりもは若いであろうピンク色の髪を三つ編みにしている小柄な女性がおでこを押さえながらうずくまっていた。
「あ、すんません!大丈夫っすか?」
慌ててうずくまっている女性に手を差し伸べるタクミ。タクミに気づいた女性が顔をあげた。
「アイタタ・・・アハハごめんね!急に飛び出しちゃって!よいしょっと。」
女性はタクミの手を掴み立ち上がった。
「こっちこそすんません!ケガとかしてないです?」
「うん!私は大丈夫だよ!君は・・・ってあれ?君はもしかして最近入団してきた噂の新人君かな?」
タクミの顔を確認した女性が下から見上げるようにタクミの目を見つめ質問してきた。
「え?あーまあ噂になってるかどうかは知らないけど最近入団したタクミです。」
軽く会釈したタクミ。
「やっぱり!入団試験から何かと注目浴びてるよ君!こないだなんか狂魔六将の一人を捕まえてきたみたいじゃない!?やるじゃん!・・って私の自己紹介がまだだったね。私はニーベル!よろしくね!」
ニコッとタクミに微笑むニーベル。どうやら気さくな人のようだ。
「ところでタクミはこんな時間に何をしてるの?」
「ちょっと今日は晩飯食い損ねたんでなんか食べる物ないかとうろうろしていたとこなんすけど・・」
「そうなんだ!食べ物か・・・もうこの時間は食堂とか空いてないし、外に出るわけにも行けないし・・・あ、そうだ!私の部屋にたしかちょっとした軽食ならあると思うけど来る?」
「マジっすか!?行きます!」
即答するタクミ。
「オッケー!ならついておいで!」
ニーベルに言われ後ろをついていく。後ろを歩きながらふと疑問が浮かぶタクミ。
あれっ?思わず食い物に釣られて行くって言っちまったけどこれってなんだかいいのか?こんな時間に女の部屋に男が行くなんて・・・・
自分の状況を理解した途端なんだか急に、心臓がバクバクしてきてしまった。
いや、良いわけないだろ!・・・いや待て。あくまでも部屋に食べ物をもらいに行くだけだし。食べ物をもらったらおさらばだよな?・・・そうだ!これは生きるために必要なことなんだ!人は食わないと死んじまうんだし・・・うん!そうだ!俺はエサをもらうんだ。今この時だけはこの人のペットとなろう。
急な展開に訳の分からない持論を展開するタクミ。
「着いたよ!ここが私の部屋だよ。ここは一人部屋だから気にせず入ってよ。」
「あ、はい。」
タクミを部屋の中に招き入れたニーベル。言われるがまま部屋に入るタクミ。
「今準備するからそこに座って待ってて!」
部屋に入ったタクミは中にあったソファーに腰かけた。
部屋の中は普通に女子の部屋と言った感じだった。さっきまでタクミの寝ていた部屋とは大違いで普通に一人暮らしが出来るような生活スペースがそこにはあった。
ニーベルはキッチンでどうやらタクミのために何か作ってくれているようだった。ご機嫌なのか鼻歌を歌っている。
余裕な感じのニーベルとは裏腹にタクミはソファーの上で緊張してしまっていた。
とりあえず姿勢は変えずにキョロキョロと視線だけを泳がせた。
女の子の部屋だ・・・・これは紛れもなく女の子の部屋だ。そこに何故か今日初めて出会った若い女の子と二人っきりで部屋にいる。
・・・・・・どーしよう!!!!
この慣れない状況に思いっきり焦ってしまっているタクミ。
タクミは今まで冴えない人生を送ってきている。正直女性と付き合ったこともなかった。なのでもちろん童・・・である。もちろんこんな状況に免疫があるわけもなかった。
なんなんだこの状況は・・・!何?軽食ってわざわざ俺のために作ってくれるって意味だったの?普通パンとかそういうもん渡して終わりじゃないの?そんなついさっき会ったばかりの男のために料理作ってくれるとかどんだけ社交的なの?それが普通なの!?こんなに焦ってしまっている俺が変なのか!?・・・あーもう!わかんねーよ!
まさに思考回路はショート寸前である。
これはもしかしてこの後そういった展開が待ってんの?俺経験ないよ!?恥ずかしすぎるよ!魔法が使えるようになってもその辺はまったく変わってないんだよ!どう対応するのが正解なの?誰か教えてくれー!!
心の中で叫ぶタクミ。
心臓の鼓動は段々早くなり、緊張からじんわり汗が滲んでくる。
「おまたせー!あんまり材料なかったから簡単にだけど夜食にはちょうどいいと思うよ!」
タクミが一人で葛藤している間にニーベルの調理が終わったようだった。タクミの前のテーブルに出来上がった夜食を置く。
置かれた皿の上にはタクミが知ってる料理ではピザに近い料理が置いてあった。香ばしい匂いがしてくる。
「は、はいっ!ありがとうございます!」
緊張から若干声が上ずってしまった。
「どーしたの?なんか顔赤いよ?もしかして部屋の中暑い?冷やそうか?」
「あ、いや大丈夫っす!」
「そう?ならいいけど・・・さあ!ニーベルお手製のピットルだよ!遠慮せずにお食べ!」
どうやらこの料理はピットルと言うらしい。名前もなんだかピザに似てないこともない。
緊張していても腹は減っているのだ。ニーベルに勧められ目の前にあるピットルを手に取り食べた。
一口かじると口の中に旨味が広がった。かなり美味である。
「・・・うまい!」
たまらずかきこむように食べたタクミ。思わずむせてしまった。
「ちょっと大丈夫!?そんなに焦って食べなくても大丈夫なのに。はい、お水だよ!」
「ゴホッゴホッ!すんません。あまりの美味さにおもわず・・・」
ニーベルから水を受け取り流し込むタクミ。
「そんなに美味しかったの?気に入ってもらえたのなら良かったわ。」
そういうとなぜかニーベルはタクミの横に腰かけた。タクミの向かいにもソファーは空いていたのに。
・・・え?なんで隣に座んの?そこにもソファーあんじゃん!近すぎやしません?このニーベルって子何が目的なの!?
食事が終わっても相変わらずタクミの頭の中はパニックであった。
「えっと・・ニーベルさん?どうしたんすか?」
オドオドしながらもタクミが問いかけた。
「やだなぁー!ニーベルさんなんて。たぶん私の方が年下だしニーベルでいいよ。私もタクミって呼んでるしね。」
「あ、じゃあ・・・ニーベルはどうしたの?」
タクミがそういうとニーベルはニヤッと小悪魔のような笑みを浮かべた。
「夜食を御馳走した見返りっていったらなんだけど、タクミにお願いがあるんだよね・・・」
そういうとニーベルはタクミの胸元にそっと右手を近づけてきた。同時にニーベルの顔も近づいてきた。
ちょっと待ってー!!この展開はアレなのか!?そうなのか!?
ニーベルの急接近にタクミの脳内はパンク寸前である。
タクミは目をつぶってただじっとしていることしか出来なかった。
その内心には期待と不安が入り混じっていた。
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