無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。

高田タカシ

三章 3 『エスミル山の守護者』


 再び夜明けと共に出発したタクミ達。エスミル山らしき山が見えてきた。山頂は雲の上なのか見えなかった。

 「ほえー。あれがエスミル山か・・・」

 遠くにそびえる山におもわず感心するタクミ。

 「あれが神獣が住むといわれているエスミル山だ。あの山自体が強力な魔力磁場となっているためあそこだと通常より強力な魔力を使うことが出来るぞ」

 横にいたドズールが説明してきた。

 「魔力磁場?あそこだと魔力が勝手にあふれてくるみたいな?」

 「そうだ。そしてその魔力を常にため込んでいる神獣はそれは強力な魔法を使ってくるそうだ。」

 「その神獣・・・水龍でしたっけ?そいつをどうやって相手にして戦うんすか?」

 「作戦的にはクリウス団長と俺とタクミが先陣に立ち水龍の攻撃を食い止める。一般兵も一緒にな。そして俺たちが水龍を食い止めている間にアトスたちに幻水の指輪を確保してもらう。そして指輪を確保したら速やかに撤退する。あくまで今回の目的は水龍の討伐ではなく指輪の確保だからな。」

 「へぇー団長と俺らで水龍をねえ・・・・って聞いてないっすよ!そんなこと!そんな三人で大丈夫なんすか!?そんな三千の軍でも無理だったのに!?」

 ドズールから聞いた作戦におもわず驚き慌てるタクミ。

 「そんなに慌てるな。三千の軍と言ってもそれは魔法の使えなかった軍だ。今回はこっちには魔法がある。それに一般兵も千ほどいるしな。ただ時間を稼げばいいんだ。それなら大丈夫だろう?」

 「いやだろうって聞かれてもねぇ・・・。もうここまで来たら嫌とは言えないし。」

 「そうだなお前に拒否権はないな!ガハハ!まあ団長がいるから大丈夫だろうよ!」

 なぜか嬉しそうなドズール。こうしたやり取りをしている間にエスミル山のふもとに到着した。

 ここでクリウスが指揮をとる。

 「これよりエスミル山を登る!ここからはいつ戦闘が起こってもおかしくはない!水龍と遭遇したら私たちが食い止める!その間に別部隊は速やかに指輪の確保に動いてくれ!また邪神教徒との遭遇の可能性も各自頭に入れて行動してくれ!良いな!?」

 「了解!」

 クリウスの指揮に応える兵達。その士気の高さがうかがえる。

 「うむ。よろしい。ではゆくぞ!」

 クリウスの合図で一斉にエスミル山を登りだした。エスミル山の道は割と広く、スムーズに登っていくことが出来た。傾斜もそんなにきつくはなかった。

 ただやはり強力な魔法磁場のせいなのか体の中の魔力がみなぎってくるのがわかった。

 この状態で全力を出したらどうなるんだろうな・・・・

 そんなことを内心タクミは考えていた。

 先頭をクリウスが駆けていく。その後ろをドズールとタクミがついていく。その後ろにはアトスたちがいた。

 「なあ、指輪があるのはどの辺りなんだ!?」

 山を駆けながらドズールに質問した。

 「幻水の指輪はエスミル山の山頂部に祠があり、そこに祀られているとされている。おそらく水龍の出現するのもそのあたりだろう。」

 「なるほどね。とりあえずは山頂を目指せばいいんだな。」

 山頂を目指して駆け抜けていくタクミ達。エスミル山の中腹を越えたあたりで霧が出てきて若干視界が悪くなってきた。

 「くそ!こんなに視界が悪かったら危ないな・・・いいか!なるべく固まって行動しろ!自分の前の者を見失うなよ!」

 ドズールが後ろからついて来ている兵たちに指示を出す。

 エスミル山を登っていくうちに霧は段々濃ゆくなってきた。かろうじて前を走る者が見えるくらいだった。

 「ここまで霧が濃ゆくなってくるとはな・・・光魔法を使うか。タクミ!なにか目印になるような物をつくるんだ!」

 「了解。そうだな・・・ライトテック!」

 タクミが呪文を唱えると頭上に直径一メートルほどの光の玉が現れた。

 「よし。それだけ眩しいなら後ろからの目印にもなるだろう。ただ霧が濃ゆくなってきたってことは水龍が現れるのも時間の問題かもしれん。くれぐれも油断するなよ!」

 ドズールが周りに注意を促した。

 確かにドズールの言う通り霧が濃ゆくなるにつれて空気が重くなっていく気がした。不気味な雰囲気も感じる。

 しかし引き返すことは出来ないのでひたすら山頂を目指して進み続ける。

 先頭を駆けていたクリウスが異変を察知する。

 「・・・くるぞ。」

 クリウスが呟くと前方から水柱がタクミ達めがけて飛んできた。

 「聖なる加護よ!我らを守れ!」

 クリウスが呪文を唱えて魔法障壁をつくってこれを防いだ。

 「水龍だ!ここは私たちで食い止める!アトスたちは作戦行動に移れ!」

 クリウスが後ろのアトスたちに指示を出した。

 「了解!ご武運を!」

 これを聞いてアトスたちが別ルートで山頂を目指していく。

 「タクミ!気をつけてね!」

 レミが離れていきながらもタクミを気遣っていた。

 「さーてとうとう水龍のお出ましか!一体どんな姿をしてるんだ・・・」

 霧の中で水龍の姿を確認しようと目を凝らすタクミ。しかし霧が濃ゆくてその姿を捕えることは出来なかった。

 「次が来るぞ!」

 クリウスが叫ぶと再び水の攻撃がタクミ達に降り注がれた。クリウスの広範囲の魔法障壁でこれを防御した。

 「くそ!視界が悪すぎてわかんねーよ!まずはこの霧をどうにかしねーと・・・」

 「そうだな。ではまずは視界を確保するとしよう・・・我が聖剣よ!この邪なる瘴気を薙ぎ払え!」

 クリウスが腰に帯刀していた剣を抜き呪文を唱えると、手に持っていた剣が白い光を放った。次の瞬間クリウスが剣を振り下ろした。

 クリウスが剣を振り下ろすと辺りを包んでいた霧を吹きとばした。

 「おぉー!さすが団長だ!これで水龍の姿もわかるだろう・・・ってあれ!?」

 周りの霧が晴れるとそこにはタクミと団長、ドズール。そして一般兵がいた。そして少し離れたところに
一人の少年が立っていた。

 「へぇ・・・今回の人間たちは少しは手ごたえがありそうだね。前回はあっけなかったからね。少しは楽しめるかな?」

 少年は不敵な笑みを浮かべている。

 「えっ!?子供!?水龍じゃねーのかよ??」

 あまりにも想像と違った姿に驚くタクミ。

 「落ち着けタクミ。神獣と言ってもその姿を変えられるものもいるんだ。あれは仮の姿だろう。見た目は子供だがその内なる魔力は相当なもんだぞ。気を抜くなよ!」

 取り乱したタクミをドズールが制止する。

 確かにドズールが言ったとおり目の前の子供からは相当な魔力を感じた。

 「それで君たちの狙いも山頂にある幻水の指輪かな?」

 「そうだ。とある事情であの指輪をもらいに来た。おとなしく我々に渡してはくれないか?」

 クリウスが交渉を試みた。

 「フフ・・あの指輪はある人に頼まれてここに祀ってあるんだ。いかなる理由でも持ち出すこと許さないよ。」

 交渉は決裂した。

 「僕はこの地を守る神獣だ。その聖地を汚した罪を君たちの命をもって償ってもらうことにしようか・・・神通烈水!」

 水龍の呪文で大量の水が作られ津波のようにタクミ達に襲いかかってきた。

 「聞く耳持たずか・・・やはり戦うしかないようだ。聖なる加護よ、我らに降り注ぐ脅威を排除しろ!」

 クリウスの言葉と共に目の前に魔法陣が現れ、迫りくる津波を呑み込んでいった。

 「スゲー・・・これが団長の力か。」

 その魔法におもわず感心していたタクミ。

 「感心してる場合じゃないぞ!タクミも加勢せんか!」

 「そうだな!別に水龍を倒しちまってもいいんだろ!?いくぜ!ドラゴンフレイム!」

 少年目がけて火竜を飛ばすタクミ。

 しかしタクミの放った火竜は一瞬で水龍によってあっけなくかき消された。

 「あれ・・・?」

 「・・・この水の化身である僕に火竜を向けるとは余程死にたいらしいね。愚かな人間よ。」

 何かが気に食わなかったらしく不機嫌そうな様子になった水龍。どうやら龍の逆鱗に触れてしまったようだった。

 「・・・タクミ。お前は本当にアホだな。」

 そんなタクミにドズールもあきれた様子だった。



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